京成電鉄は4月3日、病気と闘う子どもとその家族向けの滞在施設を運営するドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティー・ジャパンと共同で、この施設を利用する家族を招待した、成田空港へのツアー「スプリングチャリティライナー」を開催した。15家族57人が参加し、コロナ禍以降、長距離の移動を伴う旅行を控える人が多いなか、久々となる近場への“旅”を楽しんだ。
「スプリングチャリティーライナー」のイベントは、入院によって、普段外出することが難しい子供たちのために、成田空港へのツアーを通じて家族との時間を過ごしてもらおうと企画された。同様のイベントは、昨年(2020年)12月のクリスマスに初めて開催され、好評を博したことから、春休みに合わせて、2回目の開催となった。
参加者は3日午前9時過ぎから、続々と京成上野駅に集合。午前10時から簡単な出発セレモニーが行われた。主催のドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティー・ジャパンの向井利之氏は、「このイベントの申し込みに当たって、受付開始からわずか数分で定員となった」と明かした上で、「コロナ禍で遠出ができないなか、きょうはお子さんたちに少しでも楽しんでほしい」とあいさつした。セレモニー終了後、幸運をつかんだ参加者たちは、京成上野・午前10時20分発「スカイライナー29号」の参加者向けに貸し切られた1号車と2号車に乗車。デッキから客室内に入ると、「スプリングチャリティライナー」のイベントにふさわしく、桜の装飾が施されており、一気に車内は華やいだ雰囲気となった。
列車は定刻通り、京成上野駅を発車。昨春以降、新たにスカイライナーの停車駅となった青砥駅では駅員の歓迎を受けたほか、車内ではじゃんけん大会や乗車記念の写真撮影会が行われた。じゃんけん大会に参加した子どもたちにはプレゼントもあり、大きな盛り上がりを見せた。
途中、並行する国道464号のマイカー渋滞を横目に、スカイライナーはスイスイと快適な走行。加えて、在来線最速となる最高時速160kmを誇ることもあって、鉄道ファンの参加者のなかには、乗務員に「時速160kmで走り始めるのはどの辺りからですか?」と尋ねる光景も見られた。列車が印旛日本医大駅を通過し、走行速度がグンと上がっておよそ時速160kmに達すると、興奮も最高潮となった。
京成上野駅から40分あまり、終着の成田空港駅では、増田敦駅長と京成電鉄公式キャラクターの京成パンダが、参加者を1組ずつおもてなし。スカイライナーのAE形電車と一緒に記念撮影のサービスも行われた。改札口で新旧のスカイライナーの車両がプリントされた「京成でんしゃカード」とステッカーを受け取った参加者たちは、成田空港第1旅客ターミナルの展望デッキに移動。コロナ禍の減便により、飛行機の離着陸が見られるかどうかが心配されたが、大きな機体がゴーッと轟音を立てて動き始めると、はしゃぐ子どもたちを前に、大人たちもカメラ・スマートフォン片手にパチリ。春の穏やかな風に吹かれながら、無事に離着陸する飛行機を見学することが出来た。
正午過ぎからは、空港内の和食レストラン「京成友膳」で、家族ごとに分かれての食事会。デザートのいちごケーキが登場すると、参加した子どもたちからは歓声が上がった。2時間あまりにわたって成田空港に滞在、普段の生活ではまず経験することの無い、貴重な“空港ライフ”を楽しむ格好となった。帰りは成田空港・午後1時39分発の「スカイライナー32号」に乗車。近場でも春休みの一日を存分に満喫したことで、快適な車内ではぐっすり休む子どもたちも多く、午後2時半、無事にツアーは終了した。
千葉県野田市から3人の子どもと参加したという女性は、「外出をずっと控えていたので、このような取り組みはとても有難い」と話した。また、埼玉県鴻巣市から孫と一緒に参加したという夫婦は、「参加受付開始と同時に申し込んだ。孫は『電車に乗る』と聞いて、夕べはウキウキして眠れなかったようだ。(ツアーは)感染症対策も万全に行われており安心した」と、満足そうな明るい表情で話した。
ツアーを主催した京成電鉄によると、密集を避けるため、参加者を2つのグループに分け、1両ずつ分散して乗車、1両の座席利用を約50%に抑えたという。また、ツアー出発前と昼食時には参加者の検温を行ったほか、スカイライナーオリジナルのマスクと1人1人に除菌スプレーを配布、旅行中のマスクの着用および、こまめな手指の消毒を心がけるよう案内が行われた。
このようなツアーが実施できた背景もコロナ禍にある。京成電鉄は、令和元(2019)年10月のダイヤ改正で車両の増備を行い、終日にわたりスカイライナーの約20分間隔での運行を実現した。しかし、コロナ禍による移動自粛、入国制限等で利用者が大幅に減少し、現在は減便が行われ、概ね40分間隔での運行となっており、車庫で休んでいる車両も多いという。広報担当者も「(ツアーの開催はコロナ禍で減便が続く)スカイライナーの有効活用がある」としたうえで、ツアーが募集開始から数分で定員となった盛況ぶりを受け、「今後は季節ごとの展開を考えたい」と意気込んでいる。
また、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティー・ジャパンの向井氏は、「闘病経験があったり、いまも通院継続中で体が弱い子どもたちも少なくない」という参加者の特性を踏まえて、「京成上野~成田空港間が約40分というスカイライナーの乗車時間は、お子さんの体力、集中力にとっても、ちょうどいい時間ではないか」と話した。
今年(2021年)3月で開業30周年を迎えた成田空港駅だが、コロナ禍でインバウンド需要や、LCC(格安航空会社)利用者が大幅に落ち込み、列車の発着時以外は閑散とした状況が続いている。空港内の飲食店等も休業に追い込まれている所も多く、ツアーが開催された日に営業していたのは、数えるほどであった。また、成田を離着陸する航空機もひっきりなしということはなく、飛んだとしても、小型機が多い状況だ。ただ、その分、「スカイライナー」や「成田空港」そのものを、じっくりと楽しむことが出来る環境は整っており、混雑していたときには見えなかったものが、見えてくるという一面はありそうだ。
京成電鉄では、昨年から「スカイライナー」を活用したツアーを約1か月に1度のペースで開催しているという。このようなチャリティを通じたツアーのほか、コアな鉄道ファンに向けた東成田駅のツアーなど、様々な切り口のツアーを実施、今後も計画しているとのこと。空港輸送に特化した列車から、新たな道の模索が続く「スカイライナー」に、今後も注目していきたい。
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(文・写真 望月崇史)