ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月7日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。アメリカ軍のアフガニスタン撤退について解説した。
9月11日までの完了を目指す米軍のアフガニスタン撤退
米バイデン大統領は5月2日、アメリカ中枢同時テロの首謀者で国際テロ組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラーディン容疑者をアメリカ軍が殺害してから5月1日で10年となったことを踏まえ、声明を発表した。ビンラーディン容疑者殺害などで「アフガニスタンのアルカイダは弱体化した」として、9月11日までの完了を目指すアフガン駐留アメリカ軍の撤退を正当化している。
飯田)ウサマ・ビンラーディン殺害から10年経つのですね。
アメリカ国内でも反発論のあるアフガニスタンからの撤退
宮家)経ちましたね。撤退決定というのは苦渋の選択だったと思います。アフガニスタンのアルカイダが弱体化したのだとしたら、それは10年前に既にしていたのでしょう。であれば10年前に撤退すればいいのではないかという話です。しかし実際には出られなかった。今回の決定については、いまでもアメリカ国内で相当強い反対論があります。
飯田)反発論がある。
宮家)アフガニスタンに行けばわかりますよ。私が初めて行ったのは1998年ごろですが、カンダハルという町に行ったわけです。飛行場に降りたときに、緑がまったくなくて、火星かなと思いました。山肌や断層がきれいに見えて、地質学者だったらいろいろなことがわかって楽しいだろうな、というような荒涼としたところです。火星に地雷が埋まっているみたい、という感じでした。
飯田)何もなく。
宮家)農業地帯もありますけれども、荒地ということもあって作物ができないので、農業では食べて行けない。そうするとケシの栽培が手っ取り早いということです。
飯田)ケシの栽培ですか。
宮家)民族的にもアフガニスタンには海がなくて、北には中央アジアの国々がある。南はパキスタンの西部です。あそこはパシュトゥーン人がいるし、イランともつながっていて、イラン系ではハザラ族という人たちがいます。要するに、いろいろな人たちがいるのです。言い方が難しいのだけれど、反社会的な人たちが山の奥のいろいろなところに部族でいるわけですよ。土地が痩せていて農業ができなければ、中央集権国家などできない。しかも山岳地帯が多いわけですから。そうなるとみんなバラバラに生きて行かざるを得ない。そして当然、縄張り争いが起きる。
撤退すればテロリストが入って来る~しかし米軍が居続けても問題は解決しない
宮家)ですから、ずっとこの地域は外国の統治が厳しかったわけです。昔はペルシアやアレキサンダー大王、インド、近いところではイギリスが来て、ソ連が来て、今度はアメリカでしょう。どこの国の支配も絶対に受けたくない。アフガニスタンは強い民族の集まりですよね。その意味では、米軍の撤退は当然なのですが、撤退すればテロリストが必ず再び入って来るわけですよ。
飯田)やはりそうなりますか。
宮家)帰って来るに決まっています。ただ問題は、ずっと居続ければ問題が解決するかと言えば、それは恐らく、しない。
飯田)アメリカ軍が居続けたとしても。
宮家)アメリカの国益を考えれば、今余力があるのなら、それを東アジアやインド太平洋に集中させるというのは当然の判断です。だから撤退せざるを得ないのだろうなと思います。
相容れない中華文化とイスラム文化
飯田)地図で考えると、東の方に行けば中国がありますよね。
宮家)あります。細い国境が。
飯田)ここの影響力が強まったりはしますか?
宮家)あの地域でアフガニスタンと連絡を取っている人は中国にもいたでしょうし、当然のことながらあの国境はチベットとウイグルにつながるわけです。しかし、漢族の中華文化とイスラム文化というのは相容れない部分があるので、中国の影響力と言っても限界があるように思いますね。
投資しても回収できないアフガニスタン~出て来るのは地雷ばかり
飯田)一帯一路の物資の流れはもう少し北側にあるという感じですか?
宮家)そうですね。ただ一帯一路と言っても、中央アジアのあんな人口の少ないところに投資してもペイしませんよ。スローガンとしてはいいのだけれど、あそこでそういうものが根付いている感じはしません。北の方にカザフのようなエネルギーのあるところは別ですが……。
飯田)そうですね。地下資源があると全然違う。アフガンは地下資源も乏しいのですか?
宮家)地下を掘ったら大体地雷が出て来ますよね。
飯田)地雷が出て来る。
宮家)でも、地雷の除去作業はやっているはずです。ものすごい数が埋めてありますから。
飯田)各武装勢力がそれをやって来た。
宮家)ソ連の時代も含めてね。
しっかりとしたアフガニスタンの中央政府をつくることが難しい
飯田)アメリカがここにいたというのは、ある意味の前方展開のような感じで、自分のところを狙うテロリストを抑え込むという狙いがあったわけですよね。
宮家)そうです。2001年の同時多発テロのときには、確かに首謀者はあそこにいたわけですからね。弱体化したかどうかは別にして、今は世界中に散らばっているから、アフガニスタンだけにいる意味という点では確かに薄れているのは事実です。だけど、それはいままでやって来たからこそ拡散したのであって、もしアフガニスタンに事実上の聖域ができたら、皆さん、間違いなく戻って来ますよ。そうならないようにするには、アフガニスタンにしっかりとした中央政府ができなくてはいけないのだけれど、これが難しい。できるのだったらとっくにやっていますよ。
西側諸国の警備、対策が進み、昔のように隙を突かれることはない
飯田)ここの地域に抑え込めればいいけれども、これがさらに力を蓄えて世界に拡散するということになると。
宮家)そうですね。しかし、状況はアルカイダ、それからISISの時代から変わったのです。やはり西側諸国、日本もそうであって欲しいのだけれども、対テロ警備や対策が進んでいますよね。ですから、昔のように隙を突かれることはないと思います。しかしテロリストだって必ず新手のものが出て来るはずです。それには注意が必要なのですが、東アジアでの中国の台頭のことを考えると、そんなことは言っていられないというのが実態なのでしょうね。
テロ組織がなくなることはない
飯田)アルカイダ的な実力を行使するというところから、ISIS、イスラム国という名前も付いていましたが、ネットを駆使して人を集めるという形になって来た。行動そのものもサイバー空間というところにどんどん進化して行くのですか?
宮家)そうですね。西側あるいはアメリカもそうかも知れませんが、今のテロリストは、数は多くないけれど、人民の海のようなところに潜んでいて、突然テロをやるというように変わって行くのでしょうね。昔のように大きな地域を支配して、すべての人がそこに集まって来て、という時代ではないのかも知れません。いずれにせよ、我々がテロと呼ぶものは、彼らにとっては正義ですから、絶対になくならないと思います。
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