ミャンマー軍に拘束・解放 北角裕樹氏に訊く ~ミャンマー市民の“悲痛な叫び”

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。5月に拘束されていたミャンマー軍から釈放されたジャーナリストの北角裕樹氏を電話ゲストに迎え、ミャンマー情勢について解説した。

ミャンマー軍に拘束・解放 北角裕樹氏に訊く ~ミャンマー市民の“悲痛な叫び”

13日、ミャンマー・ヤンゴンで、衝突の犠牲者を悼む人々(ゲッティ=共同)=2021年3月13日 写真提供:共同通信社

クーデターから4ヵ月、北角裕樹氏に訊くミャンマー情勢

ミャンマー国軍が全権を掌握したクーデターから6月1日で4ヵ月が経つ。1日、衆議院第2議員会館で文化人・ジャーナリスト・学者・弁護士・宗教者など60人を超える各界を代表する賛同者による緊急共同声明が発表された。この会見に参加し、ミャンマー軍から1ヵ月近く拘束され、5月に釈放、帰国したジャーナリストの北角裕樹氏に会見の模様、そしてミャンマーの現状について伺う。

飯田)北角さん、おはようございます。まずは昨日(1日)に発表された共同声明について、日本政府に取り組みを求めるという内容だったと報じられております。具体的にはどのようなことを求められますか?

北角)日本は民主主義の国ですので、政府が動くためには国の指示が必要です。ですので、強く一般の方に関心を持ってもらえるように訴えました。

飯田)5月26日でしたか、国会のなかでも超党派の議員連盟による声明なども出ています。こういう動きが徐々に広がって来ている。これは遅いと見るべきですか?

北角)ミャンマー市民は、「一刻も早く助けて欲しい」と声を上げているのですが、その一方で、やはり国が動くというのはなかなか大変なことだと思います。いま外務大臣がODAの見直しに言及するなど、新たな節目を迎えているような気がしますので、皆さんに関心を持っていただいて、ミャンマーに圧力をかけるような政策に転換できればと思います。

弾圧されるミャンマー市民の声

飯田)北角さんご自身も、帰国された直後のミャンマーについての会見で、現地からさまざまな声を預かって来たということをおっしゃっていました。具体的にはどのような声がありましたか?

北角)840人もの人が弾圧で命を落としているのですが、そのなかでも、まだ市民は諦めていません。「弾圧されればされるほど、こういう状態を変えなくてはいけないと市民が思っていると伝えてくれ」と託されました。私も1ヵ月刑務所におりましたが、そのなかでもそういう声がありました。

一般の政治犯は大部屋に大人数が収容~軍の施設で激しい拷問を受ける

飯田)収容されていたインセイン刑務所は、どのような環境でしたか?

北角)私はVIP扱いをされていまして、独房にいました。レンガ造りで、4メートル×2.5メートルくらいの広さです。食事は1日3回、ミャンマー料理が出て、美味しかったのを覚えています。一般の政治犯の扱いは私とはまったく違っていて、体育館のような大部屋に100人以上の人が雑魚寝をする状態で収容されています。身動きも取れないほどだと聞いています。

飯田)そこで収容されている方々は政治犯ということですが、尋問などもかなり厳しいものがあったわけですか?

北角)私自身に対しては暴力はなかったのですが、多くの政治犯はインセイン刑務所に来る前に、軍の施設で激しい拷問を受けています。目隠しをされて後ろ手に手錠をかけられ、跪かされた状態のまま48時間ぶっ通しの尋問が続くのですけれども、答えが気に入らなければ殴られるというような状態だと聞きました。

レシートの裏に濃縮したコーヒーでメモを取る

飯田)記録に残すことが難しいなかで、北角さんはどうなさったのですか?

佐々木)記録したいと思っても、ペンを持つことが許されていなかったので、いろいろなものを使って書こうと思いました。お茶を使ったり、カレーの残りを使ったりと、いろいろ試したのですが、最終的には、大使館に差し入れてもらったブラックのインスタントコーヒーを濃縮して、ベタベタにしたものを、落ちている鳥の羽の骨に付けて文字を書くとうまく行くことがわかったので、そのやり方で僅かなメモを付けていました。

飯田)書く紙はあったのですか?

北角)差し入れをされたときに、「カップヌードルが5つ」などと書かれたレシートのようなものを貰えるのです。その裏に書いていました。

飯田)出るときにも身体検査をされますよね。

北角)ですので、それを下着に忍ばせて持って来ました。

ミャンマー軍に拘束・解放 北角裕樹氏に訊く ~ミャンマー市民の“悲痛な叫び”

ミャンマー第2の都市マンダレーで、国軍のクーデターに抗議して行進するデモ隊(ミャンマー・マンダレー)=2021年3月27日 EPA=時事 写真提供:時事通信

経済も支配しているミャンマー国軍

飯田)スタジオには佐々木俊尚さんもいらっしゃいます。

佐々木)報道を見ていると、ミャンマー国軍は特殊な存在で、軍事力を持っているだけでなく、経済も支配しているという話を聞くのですが、国軍のあり方というのはどういう感じなのでしょうか?

北角)その通りだと思います。1つは、各官庁の幹部クラスに軍人が天下っている状態で、ほとんどの行政機関は軍の強い影響力の元にあります。2つ目は、軍は傘下に企業を持っていまして、その企業は公安や通信、銀行など、経済の中枢部分にある国軍傘下の企業であることが多いのです。実際に経済のプレイヤーとして軍系統の企業があって、そこから大きな利益を上げているという構図になります。

国営以外のメディアは地下活動を強いられている

佐々木)メディアへの影響もあるのでしょうか?

北角)クーデター以降、ほとんどのメディアは免許を剝奪されてしまい、家宅捜索を受けたり、逮捕もされています。現在、ほとんどのメディアは地下活動のような形で、スマートフォンから海外に情報を送って、海外からインターネットにアップするというような業務を強いられています。その一方で、国営テレビや国営の新聞はまだ営業を続けていますので、市民はそういう情報以外に、実際に何が起こっているのかを知るために、インターネットをはじめ、いろいろな方法で情報を得ようとしています。

佐々木)経済の隅々にまで影響があり、企業を所有して根を張っていると、軍事政権をひっくり返すのはそう簡単ではなさそうですよね。

北角)実際に国を支配しているのは国軍側です。ただ、市民には現状に対する不満や恐怖が強くあります。軍事政権時代の嫌な思い出がありますので、その時代には絶対に戻りたくない。また、既に自分の友達や近隣の人が捕まったり、殺されたりしていますので、この状態は絶対に嫌だという強い思いがあります。

西側諸国から経済制裁を受けても中国に頼り切ることはしたくない国軍~いつか日本を頼るときが来る

佐々木)日本、その他の国が経済制裁という方向に行くのではないかと思うのですが、そうすると今度は中国側に行ってしまう危険性もあるのではないかと思います。その辺りはどう見られていますか?

北角)そういう懸念をよく耳にするのですが、その一方で、軍事政権側も中国に頼り切ることを恐れている状態だと思います。なぜかと言いますと、歴史的に軍事政権の後ろ盾ではあったのですが、その間、不利な条件の契約を結ばされるなど、煮え湯を飲まされているところがあるのです。ですので、仮に日本や各国が強い態度を取ったとしても、彼らはそれだけではやって行けないので、いつか日本を頼るときが来ると思います。

あらゆる日本のチャンネルで働きかけるべき

佐々木)日本の自衛隊はミャンマー国軍とパイプがあると言われていますし、そもそも外交的なパイプは他の国よりも強いと思います。経済制裁だけでなく、このパイプをもう少しうまく活用できないものかという気もするのですが、その辺の可能性はどうでしょうか?

北角)独自のパイプと言われるものは確かに存在します。それを圧力と共に硬軟織り交ぜて使うことができれば、効果的なのではないかと思います。

飯田)日本ミャンマー協会や、日本財団の笹川会長なども独自のパイプがあると言われますけれども、その辺りの存在感はミャンマーのなかで暮らしていて感じることはありますか?

北角)笹川会長は少数民族和平に大きな影響力がありますし、日本ミャンマー協会も経済交流のなかで大きな役割を果たしていたのは間違いないと思います。そういう影響力を、この問題を解決するために使っていただければと思います。

飯田)政府だけに任せるのではなく、いろいろなチャンネルで働きかけるべきですね。

北角)そう思います。

奇跡的に軍から返還されたミャンマーで撮った映像を使って情報発信して行く

飯田)北角さんは、これからどういう活動をされて行きますか?

北角)ミャンマーの人から託された思いがありますし、4000人もいる政治犯のなかで私だけが救出されたという形になっています。今度は彼らのために、私が動かなくてはいけない番だと思っています。ミャンマーで撮りためたビデオが、奇跡的に軍の手から返還されていますので、そういうものを使いながら情報発信して行きたいと思います。

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