ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月2日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。北京で行われた中国共産党創立100年の記念式典について解説した。
中国共産党100年式典~習氏は台湾統一や香港への厳しい姿勢を宣言
中国・北京で7月1日に行われた中国共産党の創立100年を記念する式典で、習近平国家主席は一党支配の正統性をアピールするとともに、人権問題などをめぐる国際社会の批判を受け入れない姿勢を強調した。また、「台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の揺らぐことのない歴史的な任務だ」と述べ、台湾統一に強い意欲を示している。香港については、「国家安全法制と執行メカニズムを着実に実行する」と述べ、締め付けを緩めない姿勢を示した。
飯田)天安門広場での式典ということです。
宮家)北朝鮮かなと思ったくらい、すべてを埋め尽くしてはいないのでしょうけれど、天安門広場の色が変わりましたね。録画でしか私は観ていませんけれども、100年続くというのは、よきにつけ悪きにつけ、そう簡単に続くものではありませんから、それはそれでよかったねと。祝電を送るかどうかは別としまして……。
今後も自分がトップとしてやって行く
宮家)あの映像を観ている限りにおいて、いろいろと気になることがあるのだけれども、1つは人民服です。中国共産党の100周年ですから、みんな人民服を着ているかと思っていたのです。しかし、着ているのは習近平さん1人だけでした。そして言っていることは、要するに「共産党で中国はよくなったのだ。これからも共産党で行くのだ。私が共産党なのだ」ということです。
飯田)私が。
宮家)私だけがこうやって人民服を着て、私が共産党ですと。つまり、「私がこれから引き続き総書記をやります」という意思表示なのでしょう。“習近平さんの習近平さんによる習近平さんのための政治”とは言わないけれど、そこで「スコン」と抜けているのは、国民ということです。
飯田)国民が抜けている。
宮家)100年の政治的なショーをやるのはけっこうですけれども、問題はこれからどのように動いて行くのか。台湾にも香港にも、かなり厳しいことを言い続けていて、全然変わっていませんよね。もっと愛されることをしたかったわけでしょう?でも全然愛されるような感じではなさそうですよね。ガッカリというか、「やはりこういう感じかな」という印象を持ちました。
習氏に忖度して必要以上に「戦狼外交」に走っている
飯田)対外的にというか、台湾や香港などに対しては、結局そうですよね。「戦狼外交」ということが一時期言われていましたが。
宮家)「戦狼」というのは映画から来ているのですよね。
飯田)『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』という映画からの造語だそうです。
宮家)「戦狼外交をやれ」という指示が出ているとは思えません。中国の外交部は、日本の外務省やアメリカの国務省とは違って、基本的に政策を立案するところではありません。単に実施するところなのです。ですから、外交官からすれば、本当は言いたいことがいくらでもあるはずなのだけれど、「物言えば唇寒し」になるかも知れない。そうなると、やはり忖度をして、「総書記様がこうお考えであろう」内容を言う。
飯田)総書記様が喜ばれるだろうと。
宮家)「イケイケドンドン、コラー」と、戦狼をやる。やり過ぎでは?と思うのだけれども、それがどうも変わりそうにない。下が本当のことを上に伝えていない。そして、忖度をして、必要以上にカラ威張りをする。その結果、強硬路線が前に出て来て、ますます愛されなくなると。こういう悪循環に陥っているような気がします。
情報的に孤立すれば、失敗する確率は高まる
飯田)日本でも一部報道がありましたが、アメリカがあるときに中国サイドに向けていろいろな情報を試しに流してみた。そのなかには、いい情報もあれば悪い情報もある。そうすると、どうやら習近平氏に伝わったのはいい情報ばかりで、悪い情報は上がっていないのではないかという話があります。
宮家)これは面白い。その可能性は高いと思います。
飯田)そうすると、トップの意思決定に、もしかすると誤りが出てもおかしくないということにもなりませんか?
宮家)そうですね。正しい情報が来ても。
飯田)人間だから。
宮家)そういう形で情報的に孤立すれば、間違いなく失敗する確率が高まるということだと思います。これは古今東西同じです。下の人が「大丈夫、台湾について、軍事的にアメリカよりも強いですから。そういう気になれば、おっしゃっていただければいつでもやりますよ」と言っているかどうかは知りませんよ。けれども、台湾については、もしかしたら仮にアメリカが介入しても、結果を出せるということを感じているのではないかなと、心配しているわけです。
いま中国と戦ったら、アメリカは負けるのか~元米海兵隊員がバイデン大統領に書いた公開書簡
宮家)今週の産経新聞に書かせていただいたのですが、イラクで従軍した人なので、どこまでアジアのことをご存知かはわかりませんけれど、アメリカの元海兵隊員が、バイデン大統領に公開書簡を書いたわけです。「大統領、台湾をめぐる問題で、いま中国と戦争になったら負けます」と。「あなたには、これを止める権限があるのだけれど、周りの人たちが“やれ、やれ”と言っていますよね。でも、おやめなさい」と言っているわけです。
飯田)中国には勝てないと。
宮家)面白くて、少し勉強してみたのですが、この人はゲイルさんという退役海兵隊少佐なのだけれども、実は内部告発をやっている人なのです。2002年に海兵隊をやめて、その後国防省のコンサルタントになったのだけれども、海兵隊の戦闘車両についてスキャンダルを告発したということですから、前例がないわけではない。変わった人なのですけれどもね。
飯田)なるほど。
宮家)「中国と戦っても勝てない。無駄死にさせてはいけない」ということを言っている人なのです。それだけならいいのですが、その内容を論文にして、アメリカの各メディアに送ったのだけれども、どこも採用してくれなかった。結局載せてくれたのは、中国紙の「環球時報」です。これは、利敵行為というか、下手をしたら裏切りですよね。そういうことをやる人がアメリカに出て来ているのです。たまたまこういう人が例外的にいるのか、それとも本当にアメリカの一部の人たちが、「中国と戦っても勝てない」と思っているのか。思っているとしたら、それはそれで、別の意味で大きな問題になるなと思いました。
台湾問題は習近平氏の一丁目一番地の問題~だからこそ失敗できない
飯田)今年(2021年)の3月末くらいに報道もありましたが、図上演習をアメリカ軍の内部でやっているなかで、台湾でもし有事があった場合、アメリカ軍は劣勢に立たされると。しかも、やればやるほどそうなって来ているというような話が出ているなかで、この話が出て来るとね。
宮家)少し嫌ですよね。しかし、必ずしも圧倒的に中国が有利というわけではありません。こちら側できちんと抑止する手段を講じていれば、そう簡単にはできないのです。
飯田)抑止をしていれば。
宮家)習近平さんからすると、確かに歴史的な任務かも知れません。台湾問題というのは共産党の正統性の一丁目一番地ですから。それを言わなかったら、中国共産党ではないわけですよ。だけど、一丁目一番地だからこそ、もしやって失敗したらどうするでしょう。そうなれば直接、彼に対する政治的な圧力、もしくは責任追及になるので、台湾侵攻なんて簡単にできることではないと思います。話を戻しますけれども、習近平さんが判断ミスをしないためにも、正しい情報を伝えるようにしなくてはいけないのだと思います。
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