いまの社会に役に立っていない「20世紀型の知識人」~日本の民主主義を支える「職能集団社会」の可能性

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月7日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。これからの日本の民主主義を担う職能集団の可能性について解説した。

いまの社会に役に立っていない「20世紀型の知識人」~日本の民主主義を支える「職能集団社会」の可能性

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

官民を超えた専門知の共有

レジ袋が有料化されてちょうど1年が経つ。巷にあふれる啓蒙活動に異を唱えるさまざまな分野の専門家を佐々木俊尚氏は「職能集団社会」と呼び、日本の民主主義を支える可能性を見出している。ここでは、その職能集団によるSNSを通じての専門知の共有について訊く。

飯田)東日本大震災以来の傾向ということですか?

佐々木)3・11から10年ですけれど、今回のコロナ禍でも露わになったのが、古い知識人……インテリや記者、ディレクターもそうですが、とにかく科学や技術に異様に疎い。3・11の原発事故の話や、今回の新型コロナの医学の話になると、とたんについて行けなくて、わけのわからないことを言い出す人がたくさんいました。

飯田)ついて行けなくて。

佐々木)この10年、SNS、特にツイッターを追いかけて見ていると、古い昔ながらの知識人が的外れなことを言って、みんなでそれを標的にするというシーンが無数に起きているように感じます。

公共圏を支える存在として役に立っていない20世紀型の古い知識人

佐々木)もはやそういう20世紀型の知識人は、いまの社会にあまり役に立っていない。もちろん、それぞれの分野で研究をやってもらう分には構いません。しかし、我々が議論して民主主義をつくる場所のことを「公共圏」と呼んでいますが、公共圏を支える存在として古い知識人が役に立っているかというと、あまり役に立っていない。

飯田)公共圏では。

佐々木)例えば、レジ袋の有料化もそうですが、国が啓蒙、啓発でレジ袋というプラスチックのことを、よくわかっていない国民に教え導こうという発想で始めたことでした。一方であの話が出て来た途端、コンビニの店長さんやスタッフからは、有料化にすることで、狭いカウンターのなかで袋のやり取りをするのは大変だとか、ものの出し入れが面倒臭いという話が出て来ました。

ツイッターでやり取りされている情報の方が、テレビや新聞の情報よりも先に進んでいる

佐々木)またプラスチック関係の専門家が実際のところ、廃プラの2%ぐらいしかコンビニのレジ袋はないのだから、あれをやめたところで、あまり意味がないという意見が出て来ました。さらに、いろいろなところから情報を取って来てみると、海に廃棄されているプラスチックの大半は、家庭の洗濯物のゴミやタイヤの切れ端なのです。そういう情報がSNS上では、次々と集まります。ツイッターでやり取りされているプラスチック問題に関する情報の方が、「国民を教え導こう」などと言っているテレビや新聞の情報よりも、ずっと先に進んでいるという現状があります。

レジ袋削減がCO2削減につながらない現実

飯田)そもそも、CO2の削減に「これはいいことだ」という持ち上げ方をして、「それほどシェアがないではないか」とツッコミが入ったら、「いやいや、国民に啓蒙するためなのです」と言い始めました。それに対して「何を言っているのだ?」と、さまざまなところから意見が出て来ました。

佐々木)真っ当な議論がツイッター上で行われているにも関わらず、そういう話がなぜか新聞やテレビであまり報じられない。相変わらず「レジ袋削減はいいことだ」というような、古臭い考え方でそのまま通ってしまっています。

飯田)レジ袋は日本の性能の高い焼却炉に於いては、焚き付けのような形で使っていたのが、使わなくなったので、以前より重油を使うようになり、環境に悪いのではないかという指摘もあります。

佐々木)それからエコバッグに交替すると、エコバッグをつくるのに、かなり石油が必要になるので、エコバッグを相当長い間繰り返し使わないと、レジ袋と同じくらいの脱炭素にはならないという話もあります。いろいろな話が出ていて、SNSを見ていると自分の知的レベルが上がるのを感じます。

飯田)いろいろな角度からものを見ることができます。

いまの社会に役に立っていない「20世紀型の知識人」~日本の民主主義を支える「職能集団社会」の可能性

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

新型コロナウイルスに関して、感染症専門医がツイッターでメディアの間違いを正している

佐々木)もう1つ言うと、コロナでもテレビや新聞で言われる情報で、何おかしいなと思うものがあるとします。それを「医療クラスタ」と呼ばれるようなお医者さんたちがツイッターを始めて、特に感染症専門医のような極め付けの専門家の人たちが、メディアの言っている間違いを1つずつ潰しています。

飯田)感染症専門医の方が。

佐々木)3・11のときは、放射線の専門家や物理学の人たちがSNSでいろいろ発信し始めると、反原発の人たちに叩かれて、みんな打ちひしがれていたわけです。ところがお医者さんは叩かれても強いのです。あるお医者さんにその理由を尋ねてみたら、「我々は、日ごろから患者さんやその家族に叩かれまくっているからです」と言っていました。だから今回、メディアや反ワクチンの人から言われても怯まず反論しているのです。

職能集団の人たちの持つ知識は古い知識人の知識とはレベルが違う

佐々木)これを見ていると、医者という職能集団……特定の職務についての専門知識を持っている人たちを職能と呼んでいますが、そういう人が集まっているのを職能集団としています。お医者さんたちもそうだし、流通業や小売店業など、日本にはさまざまな職能集団がいます。その人たちが個別に専門知を持っていて、何か問題が起きたり、社会的な課題があると、途端にその専門知をツイッターなどで持ち寄って、みんなで意見を出し合う。そういう動きがSNSで盛んに行われています。それは古い知識人や新聞、テレビのものを知らない記者が言っているのとは、全然レベルが違うと感じています。

あらゆる力の相互作用によって、社会が構成される時代に変わって来ている

飯田)職能集団、あるいは現場という言い換えもできるかも知れません。松井孝治さんに先日ご出演いただいたのですが、「新しい公共」という概念は、それぞれの得意分野を持ち寄ることによって、官や民などではなく、その枠を超えて、みんなで社会を回して行くことができるのではないかと。まさにそこですよね。

佐々木)官か民かということは関係なく、いろいろな職能の情報や知識が共有、交換されるところのなかに国や官公庁、政治家が入って来る。ありとあらゆる力の相互作用によって、社会が構成されて行くという時代に変わっているのだと思います。そこで未だに「反権力」とか、「何でもいいから政府を批判していればいいんだ」という考え方が、もう古くなっているということです。

それぞれの立場で決めつけることはしない

飯田)皆さん、ファクトを掘り下げて、「ここから見るとこうだよ」という持ち寄りをして、「決めつけない」というところの作法を感じます。

佐々木)職能集団から見ると、自分は職能としての専門知識を持っているけれども、それが社会すべてをカバーできるとはみんな思っていない。謙虚なのです。だから「私の専門知識から見るとこうです」、「別の場所から見るとこう見えるのではないですか」ということを切り分けている。

飯田)そうですね。

佐々木)例えばコロナで言うと、感染症専門医の職能集団から、「感染症を抑えるためには飲食を抑えるしかありません」と、「これはやって欲しいです」と言うのですが、一方で、尾身会長は毎回、「これは感染症専門家としての意見であって、経済を実際に抑えるかどうかというのは政治の仕事ですから」とはっきり言っています。

いまの社会に役に立っていない「20世紀型の知識人」~日本の民主主義を支える「職能集団社会」の可能性

Corona vaccine is being tested. Themed picture, symbolic photo: Corona vaccine. SVEN SIMON/DPA/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

本来は公共圏のインフラのような存在であるはずのメディア

佐々木)いまはいろいろな職能から専門知が出されて、議論が行われている。ただ、どこでバランスを取るかという問題は、最終的には政治の力であり、それを議論する場をつくるメディアの力であると思うのです。ただ現状、政治がそこをやろうとしても、メディアがそれをやる場を担おうとしていない。本来、メディアというのは、公共圏の担い手、インフラのようなものです。議論する場をつくる。そこを履き違えて、上から目線でモノを言えばいいと思っているのが、いまのメディアの問題ではないかと思います。

飯田)かつて、「我ら前衛」という言葉がありましたよね。大衆を導くのだと。

佐々木)「大衆と前衛論」ですね。戦後の左翼運動でよく言われた言葉ですが、かつて大衆と言われたのは、「もの言わない庶民」のようなものです。その大衆は、もはやいない。全員が大衆であり、同時に全員が職能集団に基づいた専門知の所有者であるという社会に変わって来ました。なぜそれが可能になったのかというと、SNSで専門知を提出できる場所ができたからだと思います。

SNSでの意見をピックアップして議論の場をつくるのが既存メディアのこれからの生き方か

飯田)SNSの光と影が言われていて、佐々木さんはこれを連投したときに、「それほどいいものではない」と、「SNSも殺伐とした世界で、みんなが悪口を言っている」という反論もありました。

佐々木)デマが広がりやすい問題もありますが、きちんとした専門知が提示されている場所もあるのです。

飯田)SNSは、よくも悪くもそういうことを含めて、いろいろな場がある。それをある意味でピックアップして議論の場をつくるというのが、もしかすると既存メディアのこれからの生き方なのかも知れない。

佐々木)それが正しいメディアのあり方だと思います。SNSは玉石混淆なので、上澄みだけ掬おうと思ってもなかなか難しいのですが、かといって、「その下の泥ばかり見ていても仕方ない」という認識は必要なのではないかと思います。

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