日本で唯一「下水道を見学できる施設」はどこにあるの?
公開: 更新:
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
雨の多い季節になりました。突然の土砂降りやゲリラ豪雨で溢れた雨水は、下水道に流れ込みますが、そのなかを覗いたことはありますか?
日本で唯一、下水道を見学できる施設が東京都小平市にあります。「小平市ふれあい下水道館」の地下5階、25メートルもの地中深くに、内径4.5メートルの下水道管が通っています。
防水扉を開けると、下水道管を跨ぐように橋がかかっていて、その上から下水の色や匂いを見たり嗅いだりすることができます。現在は新型コロナウイルス感染防止のため、なかには入れませんが、モニターから内部の様子を見ることができます。
いつもは水位が低く、ちょろちょろと流れる下水ですが、いざ大雨になると、10トンダンプ2台分の幅がある下水道は、隙間がないほどの激流に変わります。
誰でも自由に下水道を見学できる施設はここだけ。なぜ小平市は、この施設をつくることができたのでしょうか? 今回は下水道に情熱を燃やした、ある人物をご紹介します。
松田旭正さん、84歳。山口県出身で、大学では土木を学んでいました。大学卒業後はふるさとへ帰り、理科の教師になるつもりでしたが、教授に「小平市(当時:小平町)の都市計画に携わって欲しい」と頼まれ、2~3年働くつもりで土木専門職の職員になります。
昭和35年、初めて見た小平は山も川もない、まさに“平”な町でした。麦や芋の畑と、原っぱが広がっていたそうです。
「まず取り掛かったのが道路の建設でしたね。リヤカーしか通らない農道を広げて、トラックが走れる道路をつくると、都営住宅が建てられ、戦争で家を失った人が多く移り住んで来ました。当時、水道もなく井戸水で、トイレは汲み取り。台所や洗濯の生活排水は穴を深く掘って、そこへ流していました。そのため、人口が増えると汚れた水が井戸に流れ込むので、『水質が悪くなった』と役場に苦情が殺到したんです。そこで、下水道を整備しようということになりました」
昭和45年に、小平市の下水道工事が始まります。普及率が100%に達したのは、20年後の平成2年度末のこと。当時、全国3293自治体のなかで、小平市は13番目という早さで下水道整備完了都市になりました。
松田さんが53歳のとき、教師になるつもりが、どっぷりと下水道の専門家になっていました。苦労して整備した下水道ですが、トイレでレバーを回せば勝手に流れて、その後どうなるのか何も知らない、興味も持たない……。「それでいいのか?」と、松田さんは疑問を持ちます。
「小学校では教科書で下水道の仕組みを教えていますが、実際に何が流れ、どんな匂いがするのか、どこに流れて、その後はどうなるのかを知って欲しかったんです。ほとんどの人は、下水処理場で薬品を使っていると思っていますが、実際は微生物が分解して、きれいにした水を川に流しています。そのことも、子どもたちにもっと教えたかったんです」
定年まで残り7年となった松田さんは、「小平市ふれあい下水道館」の建設に情熱を燃やします。ところが上司に話をしても、「何でそんなものにお金をかけて、わざわざつくる必要があるんだ。下水なんて誰が見たがる?」と反対されます。都や国に交渉しても、見学施設をつくることは難しい。
それならば、下水道のなかを点検する場所に……と提案しますが、「そのためにマンホールがある」と却下されてしまいます。それでも松田さんは諦めず、法律に触れないよう熱心に交渉を続け、「下水道管理施設」という名目で建設許可を受けることができました。
平成7年、松田さんが定年を迎える2年前に、「小平市ふれあい下水道館」がオープンします。すると、小学校の社会科見学で子どもたちがやって来ます。
「うわぁ、臭い! これ、うんち?」
普通なら鼻をつまみ、目をそむけたくなりますが、子どもたちは下水道の流れに目を輝かせました。
下水道は、人間が生活する上で欠かせない“縁の下の力持ち”です。雨の季節にぶらりと散歩がてら、「小平市ふれあい下水道館」に出かけてみてはいかがでしょうか。
■小平市ふれあい下水道館
住所:東京都小平市上水本町1-25-31(西武国分寺線「鷹の台駅」下車徒歩7分)
電話:042-326-7411
開館時間:午前10時~午後4時
休館日:月曜(休日・祝日の場合は、その翌日/※年末年始は12月27日~1月5日まで)
入館料:無料
公式サイト:https://www.city.kodaira.tokyo.jp/kurashi/070/070022.html
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ