「報道部畑中デスクの独り言」(第259回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、お盆休みに出現した前線について---
東京オリンピックが終わり、お盆休みに入る直前の8月11日、気象庁が異例の呼びかけを行いました。
理由は日本付近に停滞する前線です。暖かく湿った空気が流れ込む影響で、西日本を中心に大雨となり、その後も雨の量が増える恐れがあるとして、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水、氾濫に対する厳重な警戒を呼びかけました。
前線は当初、中国大陸から九州付近にのびていましたが、次第に東にのび、日本付近に停滞、活動が活発な状態が続く予想です。
「どこで大雨になってもおかしくない状況が続く。梅雨末期に似ている」
気象庁の担当者はこのように話し、早めの災害への備えを呼びかけました。また、お盆休みで人の流れが多くなることから、交通機関への影響についても言及しました。
夏のこの時期は通常、太平洋高気圧に覆われることが多いのですが、前線を見ると、典型的な梅雨期の配置になっています。梅雨前線が再び発生する「戻り梅雨」のような状況なのか、秋雨前線が早く出現したのか……さまざまな見方はありますが、気象庁ではこれについては言及せず、“修飾語”のない「前線」という表現をしています。
8月中旬にこのような前線が停滞することについて、気象庁では「頻繁ではないが、起こり得ないことではない」と話します。2014年8月に広島を襲った豪雨災害も前線がもたらしたものでした。
今回の気象状況については、太平洋高気圧の張り出しが例年より弱いこと、偏西風が南に偏り、前線が日本列島に下がって来たことなどを理由に挙げていますが、詳細については検証が必要だということです。
梅雨末期というと、いよいよ夏というポジティブなイメージを持っている人も少なくありませんが、台風シーズンとともに、豪雨災害に最も警戒が必要な時期です。2018年の西日本豪雨、2017年の九州北部豪雨もこの時期に起きています。
この時期は太平洋高気圧の縁から流れ込む南寄りの風、前線に沿って入って来る西寄りの風、両者が西日本付近でぶつかる現象がよくみられます。湿った空気がぶつかると(気象用語では「収束」と言います)、上昇気流が起きて雨雲が発達し、大雨を降らせやすくなるわけです。今回はこのような状況に極めてよく似ています。
今後の前線の動向については最新の情報に委ねる必要がありますが、少なくとも18日までは停滞が続きそうです。また、雨の降り方は前線の位置によっても大きく変わって来ます。暖かく湿った風がどこに集まるかにもよりますし、山の斜面が前線の南縁にかかれば、地形による上昇気流が強まるため、特に雨が降りやすくなります。
この間、台風発生の可能性、線状降水帯の可能性もゼロではありません。前線停滞による長雨と合わせ、災害級の大雨になる可能性もあります。さらに日本列島周辺の海面水温が高く、特に日本海では30度近くに達し、平年より4度も高い状況が続いています。雨を降らせる要素がずらりと揃っている……気象庁が異例の呼びかけに踏み切ったのは、こうした状況への危機感の表れと言えます。
先日、IPCC=国連の気候変動に関する政府間パネルが報告書を発表しました。化石燃料を使い、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを多く排出した場合、産業革命前に比べて世界の平均気温の上昇幅が、2021年~2040年の間に1.5度を超える可能性が非常に高いとしています。従来の分析より10年早まった形です。
これはあくまでもマクロ=大きな視野で見た分析です。翻って今回の現象は前線、偏西風、海面水温と、それ自体はさまざまなミクロの要素が組み合わされた「偶然」の産物かも知れません。しかし、毎年のように起こる豪雨災害の状況を見ると、日本は夏場のどこかでこのような現象に見舞われる「必然」を改めて感じます。
新型コロナウイルス感染拡大で、多くの地域で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されています。人の流れが多くなるなか、お盆休みは不要不急の外出を控えるよう呼びかけていますが、気象の観点でも警戒しながらの期間となります。
2021年5月~6月にかけて、防災関連情報の見直しが実施されました。小欄でも以前、お伝えした通りですが、情報を“総動員”することになりそうです。すでに九州では大雨に見舞われているところがあります。今後の情報にご注意下さい。(了)
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