ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」(毎週土曜日8時30分~10時50分)の番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【東京新聞プレゼンツ10時のグッとストーリー】
毎週金曜日に、東京新聞朝刊「文化娯楽面」で好評連載中のカラーマンガ『喫茶アネモネ』。どこか懐かしい喫茶店で、マスターとアルバイトの店員さん、個性的な常連さんたちが毎回、思わずクスッと笑ってしまう、ほのぼのとした掛け合いを見せてくれます。
2017年の秋に連載がスタートして、もうすぐ丸4年を迎えるこのマンガ。ジワジワッと来るおかしさはどこから生まれてくるのか? 作者の柘植文さんに聞いてみました。
なにか大事件が起こるわけではありませんが、毎回、つい笑ってしまうやりとりと、ひとクセある登場人物たちが、独特の雰囲気を醸し出している東京新聞の連載マンガ『喫茶アネモネ』。ほのぼのとしたタッチの絵の可愛さもあって、根強い固定ファンをつかんでいます。
その作者が柘植文(つげ・あや)さん・48歳。連載の話をもらったとき、舞台を喫茶店にしたのは、柘植さんのアイデアでした。「新聞はいろんな人が読むので、みんなが受け入れやすいものにしようと思ったんです。喫茶店なら日常的な空間だし、いろんな人の出入りがあるので」
お店のマスターは、蝶ネクタイをしたヨボヨボのおじいちゃん。いつも小声でボソボソとしゃべるので、お客さんは何を言っているのか聞きとれません。常連客が、言っていることを勝手に解釈していたら、実は全然違っていた、という回もありました。お店を切り盛りするアルバイト店員のよっちゃんが、そんなマスターをうまくフォローし、常連のお客さんたちと楽しいやりとりをして笑わせてくれます。
「一度、マスターを2週続けて出さなかったら、読者の方から『何かあったんですか?』と心配するおハガキをもらったんです。以後、休んだ次の回は、必ず出すことにしました」
読者にとって「喫茶アネモネ」の登場人物たちは、まるで「ご近所さん」のような存在になっています。
「雑誌と違うのは、新聞って、印刷されたときの色の出具合が毎回変わるんですよ」と言う柘植さん。その新聞ならではの「質感」を大事にしています。コマの枠線も、下描きは定規を使いますが、ペン入れをするときはあえて手描きでその線をなぞります。微妙に枠線が揺れているのが、なんともいい味に。柘植さんは言います。「ほかのマンガは全部パソコンで描いてますけど、『アネモネ』だけは、絵も手で描いてます。なんか、あったかい感じがするんですよ」
子どもの頃から独りであれこれ妄想するのが好きで、今も独りでマンガを描いている柘植さん。美術大学を出た後、26歳でマンガ家としてデビューしましたが、しばらくは並行してアルバイトをやっていました。しかし、30代前半になって、マンガだけで生計を立てていこうと決意。「当時、連載は1本だけでしたけど、バイトがイヤになって……1年間マンガだけ描いて、ダメならもうスパッと、マンガ家を辞めようと思ったんです」
退路を断ったのがよかったのか、それから連載が増えて、「生活も何とかなった」と言う柘植さん。しかしアルバイトを辞めたことで、家にこもって誰とも会わない日々が続き、精神的に堪えたと言います。「自分でも意外でしたね。人とまったく会わないことが、こんなに辛いことだとは思いませんでした」
しかしその辛さも、マンガを描き続けているうちに克服できたそうです。なぜなら、作品の中では様々なキャラクターたちが生き生きと動き、その向こうには、毎週楽しみに待っている読者がいるから。そういえば「喫茶アネモネ」を訪れる常連客も、独りで来るお客さんばかり。柘植さんは言います。「独りぼっちの人たちが集まれる、居心地のいい場所があるといいな、と思って、『喫茶アネモネ』を描いてます。今はコロナ禍で、なかなか人と会えない状況ですけど、このマンガを読んで、少しでも楽しい気持ちになってもらえたら嬉しいですね」
今日ご紹介した柘植文さんの『喫茶アネモネ』は毎週金曜日、東京新聞朝刊にて掲載、単行本第1巻も好評発売中です。「東京新聞 喫茶アネモネ」で検索してみてください。
番組情報
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