SNS、YouTube…… 「聞く」能力の低下をもたらすその危険性

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、「聞くこと」について---

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言語化された鳴き声

秋になると「リーン、リーン」「リー、リー」と虫の声が聞こえて来ます。四季がある日本は虫の声を風流に楽しみますが、国によってはただのノイズだと言われることがあるそうです。四季に変化がなく、いろいろな声で鳴く虫がいないからかも知れません。

一方、虫の声というと「あれマツムシが鳴いている チンチロチンチロ チンチロリン」などの童謡を思い出します。皆さんは、このフレーズのあとを歌えるでしょうか? 私は途中からどうしても歌詞が浮かばず、結局調べる羽目になっています。歌わなくなって時間が経ち、忘れてしまいました。

この歌もそうですが、私たちは小さいころから音を言葉に落とし込んでいます。「いぬのおまわりさん」であれば、猫は「ニャンニャンニャニャーン」、犬は「ワンワンワワーン」と泣きます。そう覚えて、猫の鳴き声を「ニャンニャン」と言います。

しかし、鳴き声を言葉で表現していなかったら、童謡で歌っていなかったら……どう表していたでしょうか?

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日本人の優れた能力……「聞く」

以前、外国人の同僚と話していて、マネが上手だなと思ったことがあります。彼は「池の白鳥が『グワッグワッ』と鳴いてうるさいんだよ」と顔を変形させ、唇をふるわせて、鳴き声を再現しました。音を言葉以外でつくり出しているのです。

舌を鳴らして「タン」という音をつくったり、手を丸めた形でたたき、「ポコ」という音を出したりします。現実に聞こえる音に似ているので、同僚の話はとてもわかりやすかったのです。彼は音を“音のまま表現する”、つまり右脳を使っていると言えます。

一方、日本語は音を左脳で捉えて言語に置き換えます。犬の鳴き声は「ワンワン」と表現し、日本全国で共通です。同じようにウグイスは「ホーホケキョ」と文字にしています。このように言語で標準化されていることにより、誰でも同じ方法で、動物や虫を区別できているのではないでしょうか。

そう考えると、日本人は音に敏感だと言い換えることができます。それはコミュニケーションの要素である「聞くこと」について、優れた能力を持っているということです。仮説として証明できているわけではありませんが、日本人は話すことより、聞くことの才能があると思えるのです。

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ほとんど自分の話ばかりしている?

「聞く」と「聞こえる」には大きな違いがあります。三省堂の『新明解国語辞典 第八版』によると、「聞く」は……

【聞く】

(1)音や声を耳で感じる(知る)。

(2)聞いた内容を理解して、それに応じる。

(3)歌や演奏に耳を傾ける。

~『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)

……とあります。

一方で「聞こえる」は……

【聞こえる】

音・声が(自然に)耳に感じられる。

~『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)

……と書かれています。英語で言うところの「listen」と「hear」の違いに似ています。会話をしているときに「人の話を聞く」と表現する場合、私たちは「自然に耳に入って来る」とは言いません。「もう少し真面目に聞いているよ」という意見もあるでしょう。

では逆に、「真面目に聞く」とはどういうことでしょうか。普段の会話を思い描いてください。実は会話の多くは、自分の話の応酬となっています。相手の話などはお構いなしに、自分が言いたいことだけを言い合っています。

相手の話が終わる瞬間を狙って「そうなんだ」「なるほどね」と言葉を挟み、自分の意見や考え、発見や解説を相手に投げることがほとんどです。相手の言葉をさえぎってしゃべり続ける人もいます。つまり、話しているのはほぼ自分で、まったく人の話を聞いていないのです。

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どう反応するかにかかっている

私たちは「聞き方」を教えられた記憶がありません。『LISTEN 知性豊かで想像力がある人になれる』(日経BP刊)という本のなかで、作者のケイト・マーフィは……

『相手がどう言うか、言っている間に何をしているか、どの文脈で言っているか、その言葉があなたの中でどう響くか。「聴く」とは、こうしたことに注意を払うことでもあります。』

~『LISTEN 知性豊かで想像力がある人になれる』(ケイト・マーフィ 著、篠田真貴子 監訳、松丸さとみ 翻訳/日経BP刊)内「はじめに」より

……と述べています。そして……

『「聴くこと」の多くは、あなたがどう反応するかにかかっています。』

~『LISTEN 知性豊かで想像力がある人になれる』(ケイト・マーフィ 著、篠田真貴子 監訳、松丸さとみ 翻訳/日経BP刊)内「はじめに」より

……と言うのです。

どう反応するか、あるいはどう動くかが重要だという意味は、自分の話をすることではないと私は受け止めています。「能動的に聞く」とは、ただひたすらに耳を傾け、言葉を発さず、五感を使って感じ、話の続きを促すことだと思います。

これまで、私たちは友達や家族に直接会い、見たことや経験したことについて話して来ました。しかし、言葉で伝える代わりにSNSを利用すれば、一度に多くの人がアクセスできることもわかりました。そして、言葉よりも写真を回覧すれば、より簡単に伝えることができると気づきました。

YouTubeを見ていれば、同じ意見や方向性のものが流れて来るので安心です。もし違う意見に遭遇しても、検索してそのまま貼り付けることにより、納得させる方法も身につけました。でも、これは聴くことを放棄し、発信することだけを行っているとも言えないでしょうか?

なぜいま、人の話に耳を傾けることが大事なのか。それには理由があります。

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よく聴くことはよいことばかり

人は話を聞いてもらえないと孤独を感じると言われています。毎日多くの人に囲まれているのに、相手の意見や考えを押し付けられるだけで、つながっていないのです。自分の話を聞いてもらえない、感情や意見を話す人がいないのはとてもさみしいことです。コミュニケーション力がどんどん貧しくなります。

また、さまざまな病気は話を聞いてもらえないことに端を発し、聞いてもらうだけでよくなることがあるそうです。ですから私は人の話を聴く努力をしています。遮ったりせず、話が終わるのを待ち、さらに話を続けてもらう間をつくるようにしています。よく聴くことができれば、周囲や世界に対する理解が変化し、経験や存在を豊かにしてくれると『LISTEN』では述べています。

私はしっかり聴くそのプロセスのなかで、自分自身の考えが明確に固まり、「話すこと」の上手さにもつながると考えています。話すことが苦手な人は、よく聴くことも大切なのです。

「人の話を聞くこと」が特技の総理大臣は今後、どのようなことを私たちに語ってくれるのでしょうか。その発信力に期待したいと思います。 (了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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