「文通費」と「トリガー条項」でみえる政治家の姿勢
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「報道部畑中デスクの独り言」(第271回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「文通費」と「トリガー条項」について---
衆議院選挙が終わってまもなく1ヵ月となりますが、この間、政界では「おカネと税」をめぐる2つの問題がクローズアップされました。
1つは政治家の文書通信交通滞在費、いわゆる「文通費」のあり方です。衆議院選挙の投開票が行われたのは10月31日でしたが、当選した新人議員に対し、このわずか1日をもってして、1ヵ月分の文通費100万円が満額支給されたということで、一部の政党が問題視しました。
これを受け、文通費については「日割り支給」に変更する歳費法の改正が行われることになりそうです。12月6日に召集される臨時国会で改正案が成立する見通しです。
立憲民主党の安住淳国会対策委員長は、「国民から見れば納得する税金の使われ方ではない。不信感を持たれたことは遺憾」と述べました。ただ、日割りによって浮いた費用については「お国にお返しするのが国民にいちばん納得してもらえるのではないか」としながらも、「いったん交付したものは私有財産に移っている可能性がある」として、国庫返納の実現にはハードルがあるという認識を示しました。特例法で返納可能と主張しますが、それも今回の衆議院選挙に限るという認識のようです。
これではメスの入れ方が甘いということか、日本維新の会と国民民主党は、文通費の使途公開と国庫返納を可能にする法案を、議員立法で共同提出する方針です。新体制となる立憲民主党がどのような対応をするかも注目されます。
クローズアップされたもう1つの問題は、ガソリンをめぐる「トリガー条項」です。これが導入されたのは2010年、旧民主党政権のころで、ガソリンの価格が高騰したときに、揮発油税などの税率を時限的に引き下げるというものです。しかし、東日本大震災の復興財源を確保するために一時凍結され、現在に至っています。
昨今の原油価格高騰の状況を受け、これを解除すべきかどうかが議論になっているのですが、これについて松野博一官房長官は記者会見で否定的な考えを示しました。その理由が「ガソリンの買い控えや、その反動による流通の混乱、国・地方に多大な影響を与える」というものでした。
この2つの話には共通するものを感じます。それは「政治家と国民との意識のかい離」です。トリガー条項の解除でなぜ「ガソリンの買い控え」が起こるのか……むしろ、このままガソリンの値段が上がって行けば、さらに買い控えが起こるのではないか。
ガソリンは物流など、我々の生活や仕事に直結しており、その値段に国民は多大な関心を持っています。こうした政治家の発言を聞くと、市井とは無縁の“浮世離れ”したものを感じます。毎日、黒塗りのクルマの後席に座り、移動しているセンセー方はそうした感覚がマヒしているのではないかと思わざるを得ません。
文通費についてもしかりです。文通費は戦後「通信費」として125円の支給が始まりましたが、その後徐々に値上げされ、1993年に100万円となって現在に至っています。経費ではあるものの、使い道の報告や公開の義務はない、いわゆる「渡し切り」。歳費と合わせて振り込まれるため、国会議員の「第二の給与」と呼ばれます。
政治家に文通費が不要とは申し上げません。必要であれば堂々と使えばいいと思います。「我々の税金ではないか」と目くじらを立てるつもりもありません。
ただ、例えば、交通費は普通の企業では1つ1つの領収書などをもとに精算し、経理処理しています。政治の世界でこのような「渡し切り」のシステムがあることで感覚がマヒし、国民の姿が見えなくなっているとすれば、看過できないと思います。
文通費を「渡し切り」から、領収書も添付して実費精算にすべきという議論も出ていますが、やましいことがなければ実費精算で何の問題もないはずです。事務処理が増えるのかも知れませんが、市井では当たり前にやっていることです。それこそ、推進している「デジタル化」が威力を発揮するのではないでしょうか。
よく「永田町の論理」などと言われますが、国会周辺を取材していると、過去の経緯に縛られ、何も変われないということに出くわします。これもその1つだと感じますが、臨時国会ではどのような議論となるでしょうか。(了)
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