ロシアが描くキエフ制圧後の「勝手な」ストーリー
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月7日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ情勢について解説した。
停戦協議をするもまとめる気のないロシア
ウクライナの交渉担当者ダビド・アルハミア氏は3月5日、自身のフェイスブックに、ロシアとの3回目の停戦協議が7日に行われると投稿したことをロイター通信が伝えている。一方ロシア側は、7日に始まる可能性があるとするに留め、確定的な発表はしていない。
飯田)2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻ですが、もう10日あまりが経過しました。
須田)停戦協議について、ロシア側はまとめるつもりがまったくないのだと思います。ウクライナもロシア側のそうした空気感や動きについては掴んでいる。ただロシアとしては、こうした停戦協議を続けて行かないと国際社会が納得しないし、何よりもロシア軍が有利になる状況をつくり出すために、時間稼ぎをしなくてはなりません。そのために引き伸ばし工作に入っているのではないでしょうか。
飯田)時間稼ぎのために。
須田)それはロシア側の交渉団のメンバーを見れば明白です。ほとんど自分たちで権限を持っていない。その場で何も決定することができず、持ち帰らないと何も決まらないというメンバー構成になっています。まったくやる気がないということが伺えます。
民間人退避のための人道回廊の設置に同意するも
飯田)第2回の協議で、民間人避難のための人道回廊を設置する方向で合意したと表には出ていますが、実行性は怪しいようですね。
須田)戦闘が収まっていないですからね。人道回廊をつくっても、そこを通れば危険にさらされますから。
飯田)銃撃されるなどの心配があると当然、使えなくなる。
交渉ではない
須田)しかも当初、ロシア側がウクライナに突き付けた条件がさらに追加されて、東部2州に関しては独立どころか、「主権を認めるのであれば」ということです。そして、「まずウクライナが戦闘行為を止めろ」という条件です。さらに条件が加えられています。そんな交渉など普通はあり得ません。
飯田)「これはもう交渉ではない」という話になって来る。もはや妥協点を探る対話ではないわけですものね。
須田)「譲歩できない」ということは、まだ理解できなくもないのだけれど、譲歩するどころか、さらに強気になってどうするのかと思います。
飯田)何のための交渉だという話にもなりますよね。これは国際社会に対してのパフォーマンスなのかという。
キエフを制圧してゼレンスキー大統領を排除し、傀儡政権との間で都合のいい和平合意を結ぶ ~ロシア側のストーリー
飯田)現状として、南部や東部の都市で包囲戦などが行われ、市民の命にも影響が出て来ています。この状況は長い間続きそうですか?
須田)アメリカサイドの情報ですが、ウクライナに侵攻した、あるいはウクライナを取り巻いているロシア軍の全兵力は17万人程度とされているではないですか。軍事の専門家に言わせると、17万人ではウクライナ全土を掌握して占領することは不可能なのです。
飯田)17万人では。
須田)最終的なゴールはどこにあるのかと言うと、首都キエフを制圧してゼレンスキー大統領を排除……この場合は生死を問わずということになって来ると思います。その上で傀儡政権をつくり、その傀儡政権との間で、ある種の和平合意のようなものをロシア側に極めて都合のいい状況で結び、結果的にウクライナはロシア陣営に留まるというシナリオです。
日本にも送られているロシア側からの偽情報 ~東部2州で虐殺が起こっていた
須田)ただ、これについては否定的な見方もあります。ロシアとしては、「東部2州の主権、独立を認めれば撤退する」のだという。それを主張している人たちは、ロシア寄りの情報によって判断しています。
飯田)ロシア寄りの情報で。
須田)その辺りの情報が多く発信されているのです。はっきり申し上げると、私のところにもロシアの事情に詳しいという日本人、あるいは日本在住のロシア人、ロシア大使館の関係者などから似たような情報が来ます。
飯田)そうなのですか。
須田)私自身はそれを偽情報と認識しています。裏が取れませんから。
飯田)偽情報として。
須田)なぜそういう主張をロシア側がするのかと言うと、もともとウクライナ政権にはナチズムが入っていると。これはプーチン大統領の主張と一致するところです。そして、そういう勢力は人権をないがしろにするから、東部2州で相当な虐殺が起こっていたと。「それを守るためにロシア軍が出動したのだ」という主張なのです。
飯田)虐殺が起こっていたからと。
須田)それに沿う形にすると、最終的に2州の独立を認めればいい。とは言っても、他国のなかで勝手に分離独立を認めるというわけにはいきません。確かに未承認国家、国際社会から承認されていない国というのはいくつかあるのです。なぜかと言うと、いまの国際ルールではまず母国、マザーランド、つまりウクライナ東部の2州が独立するのであれば、ウクライナと合意してから初めて分離独立できるのです。
飯田)そうですよね。
須田)そうしないと、勝手に独立するような形で動かれてしまい、大混乱に陥ってしまいます。それを力ずくで行うことは認められないというのが国際ルールのはずです。
飯田)国際ルールでは。
須田)そこで「東部2州については、国際ルールではない形で決着をつけろ」というのがロシアの要求です。とてもではないですが、ウクライナはもちろんのこと、国際社会では受け入れられません。
クリミア併合の時期から日本への情報戦が仕掛けられていた
飯田)いくつもそういった矛盾点は指摘できると思います。ナチズムだと言っているのだけれども、そこを率いているゼレンスキー大統領はユダヤ系の人なので、ナチズムをやるはずがない。その1点だけでも矛盾があります。その他にも、いろいろなところに出ています。
須田)いろいろと突っ込みどころ満載ですからね。
飯田)しかし、ウクライナ危機の前には、情報戦が戦場や当事国のなかで起こるということは言われていましたが、遠く離れた日本でも行われているというのは驚きます。そういう時代になって来ているということですね。
須田)しかも、これまでの専門家などの主張や報道を見ると、そういう情報戦はいま仕掛けられている、あるいは2月24日のウクライナ侵攻をきっかけに情報戦が起こって来たのかと言うと、そうではありません。
飯田)今回起こったわけではない。
須田)検証してみると、2014年のクリミア併合辺りから日本では情報戦が仕掛けられていたと思われます。そういう意味でも、きちんと検証しないと、情報が虚実入り混じっているのだと思います。
飯田)もちろんウクライナ政府の方が100%、まったくの正義なのかと言うと、いろいろな議論があるところかも知れません。かつては腐敗が酷かったということもあるかも知れない。しかし、今回に関しては、国際法を無視して力による現状変更を試みるということが、まず批判されなければなりません。
須田)そこが問われているのです。
飯田)そこは「どっちもどっちだ」という話ではないわけです。
アンバランスなロシアの国家財政 ~いつまで持つのか
須田)経済問題から言うと先週末、実に驚くべきことが起こりました。ルーブル建て、ロシアにとっては自国通貨建ての国債に関し、非居住者に向けての利払いをストップしたのです。つまり、自国通貨建ての国債が事実上のデフォルトに陥りつつあるということです。もうそういう状況になっているのです。本来であれば、「自国通貨建ての国債は破綻しない」という言われ方をしているでしょう。
飯田)そうですね。
須田)それが常識なのですが、デフォルト危機に陥った。今週の週明けの金融マーケットは、かなりリスキーな動きを展開すると思います。
飯田)ルーブルが各通貨建てで売られ続けているというところの信認が、完全に失われたということが引き金ですか?
須田)ルーブルが大暴落しているわけですから。そういう意味で言うと、国家財政も持たないだろうということです。ロシアの国家財政はアンバランスなのです。税収の4割がエネルギー関連企業からの税収によって賄われていますが、果たしてそれが持つのかという状況になって来ています。
飯田)他の通貨も含め、ドルでのやり取りが止められつつあるなかで、そこに中国が接近することはありますか?
須田)それを買い支えようとしても、日本もヨーロッパも中央銀行は外貨準備を凍結していますからね。非常に危険な状況です。
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