防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が6月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7サミットで日米英加が合意したロシア産の金の輸入禁止措置について解説した。
G7サミットで日本・アメリカ・イギリス・カナダの4ヵ国がロシア産の金の輸入禁止で合意
ドイツで開かれている先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)で6月26日、日本・アメリカ・イギリス・カナダの4ヵ国が対ロシア制裁を強化し侵略の資金源を断つため、ロシア産の金の輸入禁止措置で合意した。
飯田)G7サミットは28日まで行われます。主要なテーマとしては、ウクライナ情勢について議論されています。2日目までの様子が報道されていますが、一連の協議をご覧になっていかがですか?
高橋)大事な目的は西側主要7ヵ国の団結を示すことや、食糧危機への対応を示すこと。あとはアフリカや中東における西側の方針への支持を高めていくためには、どんな措置が必要かを話し合うことです。
G7だけで世界の方向を決められる時代ではない
飯田)G7以外の国々からはインドのモディ首相や、アフリカからはセネガルも招待されています。この辺りの温度差を何とかしなければならないということですか?
高橋)実際に、制裁を実施している国の方が実施していない国よりも少ないですし、ロシアの情報戦が中東・アフリカに向いていますから、味方を少しでも増やしていくことは必要だと思います。
飯田)日本も議論に加わっていますが、かつての常識で言うとG7で世界が決まっていくような、ある意味、「世界のマジョリティー」だと思っていました。むしろ、我々は少数派だと思わなければならないですか?
高橋)新興5か国(BRICS)という言葉があるように、G7の国々の経済力や影響力も相対的に低下してきているので、G7だけで世界の方向を決められるわけではないということですね。
ロシア産の金の輸入禁止措置にフランス・ドイツ・イタリアの3ヵ国が合意していない理由
飯田)新聞の見出しには、「日米英加の4ヵ国がロシア産の金の輸入禁止で合意した」とあります。残りのフランス・ドイツ・イタリアの3ヵ国は合意していません。大陸ヨーロッパの3ヵ国と、海に面した国々で少しスタンスが違うようにも見えますが、どういう状況なのですか?
高橋)この辺りは金融マーケットの影響が強く、ロシアの金の輸出の7割以上がイギリス向けなので、基本的には「イギリスが参加すればいい」ということのようです。ただ、2月に比べても3月では量が激減しています。
飯田)既に?
高橋)はい。激減しているので、現段階でイギリスを含む4ヵ国が金の輸入を禁止しても、影響力は限られているだろうと。金の輸入を禁止するのは、ドル決済を止めているので、「ドルに代わって金で決済するのを止めるため」ということになります。しかし、中国を含めて別のところに金が流れているので、影響力は限られているのではないかという見方のようです。
石油とガスの値上がりでロシアのキャッシュは制裁前よりも増えている
飯田)金を決済手段として使うためだったのですね。西側の制裁はさまざまな形で、銀行に対しての制裁やデフォルト(債務不履行)の話も出てきています。「これが果たして効いているのか」ということですが、どう思われますか?
高橋)実際にロシアが得ているキャッシュは、制裁前より増えています。理由としては、石油とガスの値上がりで、量は減っていますが値上がり分のキャッシュが増えています。制裁の効果は現時点では限られていると言えます。
「レーザージャイロ」の輸出規制で高度な誘導兵器がつくれないロシア
高橋)ただ、同時に輸出管理による影響は大きい。例えば半導体の輸出規制などで、最新鋭のミサイルの部品が手に入らなくなっています。精密誘導兵器には絶対に必要な「レーザージャイロ」という部品があるのですが、ロシアはレーザージャイロの輸入の100%を西側に依存していたので、高度な誘導兵器がつくれなくなっていると言われています。
必ずしもロシアに宥和的とは言えないフランス ~自走榴弾砲をウクライナに供与
飯田)精密誘導兵器だけでなく、民生品にも影響力は出てきますか?
高橋)間違いなく影響が出てくると思います。例えば航空機などが大きな影響を受けると思います。
飯田)G7の7ヵ国の足並みについてですが、フランスのマクロン大統領などは、早期停戦についても議論すべきだと言っています。一方で、日本も含めてアメリカ・イギリス・カナダはウクライナを全面的に支援していくということですが、これは立地条件による違いもありますか?
高橋)イメージ操作のようなところもあるのではないでしょうか。
飯田)イメージ操作。
高橋)フランスのマクロン大統領はときどき不規則発言をしますが、フランスはカエサルという自走榴弾砲をウクライナに供与しています。これだけの銃火器を供与している国はそれほどありません。ですので、フランスがロシアに宥和的とは必ずしも言えない部分があります。
飯田)言動だけでなく、実際の支援の様子まで見なければならないのですね。銃火器というと、「ハイマース」という多連装ロケットが注目されますが、実際はいろいろな国がいろいろなものを出しているのですね。
高橋)そうですね。ドイツの榴弾砲もようやく届いて、実戦投入されたという報道が数日前にありましたから、約束したものが少しずつ届いているようです。
まだ兵器が足りないウクライナ
飯田)ゼレンスキー大統領がG7のなかで演説し、「兵器をもっと送ってくれ」とアピールしました。「まだまだ足りない」というのが現場の認識ということですよね?
高橋)しかもロシアはいまの主戦場であるドンバス地方で、自分たちの強みである砲兵火力を前面に押し出して戦っています。そうすると、砲兵火力の数で対抗する必要がありますので、「まだまだ足りない」というゼレンスキー大統領の言葉は本音なのだと思いますね。
今後、日本がウクライナの復興支援に関わるべき余地はある
飯田)一方でG7サミットが行われる直前に、ドイツのショルツ首相が自国の議会で演説していましたが、この先の復興支援についても、G7で協議するのだというような話がありました。まだ先の問題かも知れませんが、日本としてできることはあるでしょうか?
高橋)いろいろなことがあると思います。既に戦場ではなくなったキーウ周辺や、西部の地区でのインフラ復興はニーズが高いので、どのタイミングで始めるのかというのは大きな論点だと思います。武器ではない支援ということで言うと、日本がやるべきことはかなりあると思います。
飯田)あれだけの小麦畑が広がっていて、そこに地雷などが仕掛けられています。地雷や不発弾の処理については、日本は技術があります。
高橋)同時にマンパワーも必要なので、外国が支援するというのも、それだけでどうにかなるわけではないと思いますが、関わるべき余地はあると思います。
NPO法人による地雷除去という可能性も
飯田)実際に派遣することになれば「戦場か、そうでないか」ということが国会でも論戦になると思いますが、この認定をどうするのか。
高橋)そこは自衛隊がやる話ではないところがあるので。
飯田)民生で。
高橋)例えば、カンボジアの地雷除去はNPOでやっています。
飯田)NPO法人でやっていますよね。
高橋)もちろんウクライナ自体は、いまは戦場ですので、法人の渡航の是非の問題もあります。戦争が終わらなければ難しいと思いますね。
復興支援における日本への期待も
飯田)ドイツがここを気にするのは、「復興で金を出すのは自分たちだ」と覚悟しているからだと思いますが、その辺りの支援が日本にも期待される部分はあると思いますか?
高橋)あると思います。そこで中国が支援するとなると、あまりいいことにはならないので、G7としては「自分たちでやりたい」ということだと思います。
飯田)今回、発展途上国へのインフラ投資に81兆円を出すということを発表しました。これは「一帯一路」への対抗だとも言われていますが、ウクライナも視野に入っていますか?
高橋)いまの段階では、そこまで明確に意識しているかどうかはわかりませんが、いずれは入ってくると思います。
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