再び世界は新たな「冷戦」時代へ 現実は変わらなかった

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が7月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。6月29日に始まった環太平洋合同演習(リムパック)について解説した。

再び世界は新たな「冷戦」時代へ 現実は変わらなかった

ロシアのプーチン大統領(ロシア・サンクトペテルブルク) AFP=時事 写真提供:時事通信

多国間軍事演習「リムパック」がスタート 台湾は不参加

米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」が6月29日、ハワイ沖などで始まった。8月4日までの予定で、日本やオーストラリア、イギリスなど26ヵ国が参加し、アメリカは各国と連携して中国の脅威に対処する姿勢を打ち出す方針となっている。台湾は参加しない。

飯田)台湾について、アメリカ議会はリムパックに招待するべきだと。

宮家)アメリカ議会には反中の議員が多いですからね。しかし、そう簡単ではありませんよ。リムパックは2年に1回くらい開かれていて、規模が大きく、太平洋を中心とした海洋国家が集まって行われているものです。

飯田)太平洋中心の海洋国家が。

宮家)「台湾は不参加」と言うのは当然でしょうね。最近台湾問題がクローズアップされてきていますが、おそらくリムパックは、台湾有事を想定した作戦計画に基づいて行われる演習ではまだないと思うのです。

飯田)まだ台湾有事を想定したものではない。

宮家)アメリカが台湾に対してどのように関与するのかということ自体も、バイデン大統領が「軍事的関与をする」とは言ってしまったけれど、本当に米軍が動くのかどうかは、また別の話だと思います。その意味では、台湾が今回参加してもしなくても、軍事態勢として急に何か新しいものができるとは思いません。

飯田)軍事態勢として。

宮家)逆に言えば、もし台湾が参加したら大変ですよ。中国は猛反発するでしょう。ただ、猛反発しても、「それがどうした」という話なのだけれどもね。彼らが台湾問題で静かにしていたら、何の問題もないのだから。

中国とロシアを牽制するには強いNATOが必要 ~ヨーロッパの戦域とインド太平洋地域が密接に関連している

宮家)大きな動きという点では、NATO首脳会議です。皆さんに理解していただきたいのは、いままでG7サミットも含めてですが、中国の問題をこの種の首脳会議の政治文書のなかに入れ、中国について懸念を表明する、または中国を名指しするということ、それ自体大変なことだったのです。

飯田)中国の問題を。

宮家)10年ぐらい前でしたか、長いG7サミットの政治文書のなかに、最後に少しだけ南シナ海のことが触れられるようになりました。それでも、中国のことかと思ったら、中国を名指しはしない、という時代もあったわけです。G7ですらそうですから、ましてNATO首脳会議で中国に言及するなんて昔は夢また夢でした。当時は経済関係が拡大していたので中国の自己主張外交に関心がなかったわけではないけれど、関心は今ほど強くはありませんでしたね。ヨーロッパの人たちに対しては、「あなたたちはロシアばかり見ているけれど、日本は中国とロシアの両方がご近所にいるのです。あなたたちのように1つではないのですよ」とよく言っていましたが、あれからずいぶん状況は変わりましたね。

飯田)当時とは。

宮家)今回は日本の首相がNATO首脳会議に呼ばれた。しかも日本だけでなく、豪州や韓国もでしょう。

飯田)ニュージーランドもですね。

宮家)それはヨーロッパの戦域……英語ではシアターと言うのだけれども、ヨーロッパの戦域とインド太平洋地域、もしくは東アジアの戦域が密接に関連始めているということです。「ロシアと中国が連携を始めたから、いままで以上に相互の関連は深まる」という問題意識がグローバルに拡大している。それは日本にとって、非常にいいことです。

飯田)グローバルに拡大していることは。

宮家)日本だけでロシアと中国両方の抑止などできるわけがありません。だからアメリカと一緒にやるのですが、日米2ヵ国でもできない。クアッドがあるけれど、クアッドは軍事同盟ではないし、AUKUS(オーカス)は軍事同盟だけれど、まだ始まったばかりです。

飯田)AUKUSも。

宮家)ロシアと中国の連携を牽制(けんせい)し、抑止するためには強いNATOが必要なのです。今のようにインド太平洋にも関心を持つ強いNATOが動き始めているということは、時代が変わってしまったなと思います。10年前とはまるで違うイメージを持っています。

再び世界は新たな「冷戦」時代へ 現実は変わらなかった

28日、覚書の署名後に記念撮影に応じる首脳ら。左からストルテンベルグNATO事務総長、トルコのエルドアン大統領、フィンランドのニーニスト大統領、スウェーデンのアンデション首相(ロイター=共同) 2022年6月28日 写真提供:共同通信社

NATO首脳会議でわかる「大きく動き始めた国際政治」

飯田)強いNATOが、ある意味でロシアを中心に引き付けてくれれば、東アジアも。

宮家)ロシアのおかげなのですよ。プーチン大統領がウクライナ侵攻などしなければ、NATOはあれほど結束しませんから。

飯田)フィンランドとスウェーデンがいよいよ加盟する。

宮家)トルコが反対するふりをしていましたが、筋書き通りです。トルコにとっては反体制派の連中が支援されているので、フィンランドとスウェーデンは目の上のたんこぶだったのかも知れない。しかし、今回トルコの最大の目的は、アメリカとの関係改善だったのだと思います。

飯田)アメリカとの。

宮家)今回アメリカはトルコに妥協したのです。すぐには言えないだろうけれど、F16を出すとか出さないとか言ってね。でも、トルコはロシアから地対空ミサイルシステムS400を導入しているのですよ。「やめなさい」とアメリカに言われたのに。

飯田)散々止めたのに。

宮家)その意味では、アメリカがトルコやサウジアラビアも含め、リベラルなバイデン政権からすれば考えられないような強権の国と関係改善せざるを得ないほど、国際情勢が大きく変わってしまったということでもあるのです。

飯田)国際情勢が。

宮家)だからバイデンさんは、これから中東に行くのです。記者会見で「サウジに行って、もっと石油を出せと言うのですか?」と聞かれた際、「そんなことは言わない。湾岸協力理事会(GCC)全部にそう言うのだ」とバイデンさんは答えていますが、「では、やっぱりそう言うのではないか」ということですね。今回のNATO首脳会議では、確かに国際政治が大きく動き始めたなという印象を持ちました。

冷戦時代と何も変わらない世界が戻ってきた ~やはり現実は変わらなかった

飯田)昨日(6月30日)、辛坊治郎さんと夕方の番組をやっていて、宮家さんに聞いておいてもらいたいという話があったのです。まさにNATOの話で、かつては軍事的な同盟ということで軍事戦略面から語られることの多かったNATOが今回、ロシアあるいは中国に対して、価値観の部分での声明や戦略文書が出された。これは自由民主主義を重視する国々と、権威主義的な中露という2つに世界が収斂されていくということなのか、「新冷戦的な流れ」になるのか、「その分岐点にきているのではないか」という指摘があったのですが、どう思われますか?

宮家)おっしゃる通りだと思います。冷戦時代にNATOができた背景には、共産主義という独裁体制があり、西側が次々と浸食されて東ヨーロッパがソ連の衛星国になったわけです。それに対する危機感から、NATOの結束が始まったわけですけれど、ソ連が崩壊して一瞬それが弛緩してしまったわけです。

飯田)緩んだ。

宮家)緩んでしまって、「歴史は終わった。これからは平和なのだ、民主主義がずっと続くのだ」というようなことを言っていた人がいたのです。

飯田)これからは民主主義が続いていくと。

宮家)しかし、それは大間違いだったわけですよね。プーチン大統領を見ろ、昔と変わっていないではないかと。昔と同じようなことをしているし、むしろソ連が例外で、ロシア帝国は前から変わっていないではないかと。となると、名前や形、ニュアンスは違うかも知れないけれど、西側諸国がロシア帝国・ソ連と対峙した時代がまた戻ってきたということです。

飯田)また冷戦時代が戻ってきた。

宮家)ロシアが復活したかどうかはわからないけれども、プーチン大統領が考えていることも、ピョートル大帝が考えたことも、あまり変わらないのではないかということです。そこまで言うつもりはありませんが、そういう時代に戻った可能性がある。もしくは、我々が90年代から10年~20年、夢を見ていたが、今やその夢は覚めてしまった。「やはりロシアの現実は変わらなかった」と見ればいいのではないかと思いますが、どうでしょうか。

プーチン大統領のウクライナ侵攻によって、NATOが中国にも懸念を示すのは日本にとっていいこと

飯田)今回改定されたNATOの「戦略概念」では、ロシアに対しての書きぶりが180度変わった。これは当たり前なのですけれども、NATOはそれまで中国に関しては、眼中にもなかったのが……。

宮家)NATOの人たちが中国について、脅威とは言わないけれども、懸念をあのように書くというのは、一昔前は想像もつかなかったことです。その意味で、これもまたロシアが判断ミスをした結果というわけですね。

飯田)ロシアが。

宮家)ウクライナに侵攻して、自分たちの勢力圏を拡大しようと思ったけれど、ロシアは大失敗した。それだけではなく、中国まで巻き込んで、中国の敵を増やしてしまった。中国もNATOとの関係が悪化するのですから。

飯田)バルト海はNATOの内海化し、黒海の方は出口にトルコがいる。そうなると、極東のウラジオストクの方が出口になるのかと。そこがつながってくるかも知れないわけですからね。

宮家)ロシア帝国を維持するために、「東の方、すなわち中国方面は大丈夫だから西の方に行くか」とプーチンさんは思ったのかも知れないけれど、それほど簡単な話ではなさそうです。

飯田)単純な話ではない。

宮家)その意味では我々にとって、ロシアの問題と中国の問題に対し、ほぼ同じレベルで懸念が高まっていること自体はいいことなのです。対立が深まることがいいことなのではなく、ロシアだけでなく中国も「抑止をしなければいけない」という理解が広まっていることがいいことなのです。

飯田)中国も。

宮家)日本の選挙では、以前であれば安全保障の問題などイシューとしてはあまり大きな関心がなかったのです。しかし、今回の参院選では関心が高いわけでしょう。変わったなと思いましたね。これもプーチンさんの大判断ミスの影響だと思います。

飯田)日本としては、東アジア、インド太平洋にアメリカを含め、各国のコミットメントをいろいろな形で強めていくというのが大事ですか?

宮家)アメリカはいまヨーロッパに引きずり込まれているのだけれども、「そこはNATO全体が頑張ってください」。そして、アメリカには「インド太平洋もよく見てください」ということです。まあ、今年もリムパックが始まり、きちんと中国のことを考えているらしいからいいのですけれど。

忘れてはいけない中東の存在

宮家)もう1つ、忘れてはいけないのが中東です。安全保障の問題では、欧州と中東と東アジアが完全に緊密化しているわけです。これも何とかしなければなりません。

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