バイデン大統領の説得によるペロシ議長の「訪台見送り」の期待が外れた中国 その「矛先」

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明海大学教授で日本国際問題研究所主任研究員の小谷哲男氏が8月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ペロシ米下院議長の台湾訪問について語った。

バイデン大統領の説得によるペロシ議長の「訪台見送り」の期待が外れた中国 その「矛先」

米・ペロシ下院議長の台湾訪問についてのニュースを見ている市民 台湾・台北 2022年8月2日 EPA/RITCHIE B. TONGO EPA=時事 写真提供:時事通信

ペロシ米下院議長が台湾に到着

アジア歴訪中のナンシー・ペロシ米下院議長は8月2日夜、専用機で台湾に到着した。現職の下院議長の台湾訪問は1997年以来、25年ぶりとなる。ペロシ議長は大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職で、台湾訪問に中国政府は強く反対しており、地域の緊張が一層高まることが懸念される。

飯田)8月3日午前には国会にあたる立法院を訪問したあと、蔡英文総統と会談し、記者会見を行うということも報じられていますが、どうご覧になっていますか?

小谷)ペロシ下院議長は今年(2022年)4月に台湾を訪問する予定だったのですが、ご自身がコロナ陽性になってしまい、延期されました。そのころから中国はあらゆるチャンネルでアメリカに対して、「ペロシ議長の台湾訪問はレッドラインだ」という警告を発していました。それでも今回は強行したということで、アメリカの台湾に対する支持の表明を、より重視したということだと思います。ただ、中国側としては反発せざるを得ない案件ですので、当面は緊張関係が続くのではないかと思います。

米中首脳会談でバイデン大統領にペロシ議長の訪台に対して強く牽制したのは、中国国内へ向けてのもの

飯田)7月末に米中間でのオンライン首脳会談がありました。そこでも中国側からかなりの牽制があったということでしたが、ある意味での規定演技のようなものなのでしょうか?

小谷)中国としては、バイデン大統領がペロシ議長を説得して、台湾訪問が見送りになるのを期待していたのだと思います。しかし、アメリカは三権分立ですので、行政府のトップが立法府のトップに指示することはできない仕組みになっています。それは中国もある程度、理解していたと思いますので、どちらかと言えば強く反発する、あるいは警告を発したという事実をつくりたかったのではないかと思います。

飯田)それを国内向けにも見せたいという中国側の意図もあるわけですか?

小谷)国内向けに「きちんと警告した」ということを見せるためです。そして、これから何かするでしょうけれども、「きちんと対応した」ということを説明しようとしているのだと思います。

ペロシ氏の訪台はレガシーづくりと、同じ民主主義国の台湾に対する支援を示すため

飯田)ペロシさんは次の中間選挙で、おそらく民主党が負けてしまい、議長の座を降りざるを得なくなるので、「レガシーづくりのために行くのだ」という報道も一部ではあります。選挙を睨んだ思惑もあるのでしょうか?

小谷)今回、ペロシ議長が台湾を訪問したからといって、中間選挙での民主党の不利な状況は変わらないと思います。その点は議長も十分わかっているでしょうし、選挙の結果で自分が議長を降りなければいけないということもわかっていると思います。そういう意味では、レガシーづくりと言えることもできるとは思います。

飯田)レガシーづくりであると。

小谷)一方で昨日(2日)、なぜ台湾を訪問するのかという理由について、米紙「ワシントン・ポスト」で説明しました。いま台湾が中国の圧力を強く受けているなかで、同じ民主主義を共有する台湾に対し、強い支援を示したいということです。もともと人権派として知られる議長ですから、そういう思いもあったのではないでしょうか。

ペロシ氏の訪台に反応が割れる台湾国内 ~歓迎する一方で中国による経済制裁や周辺での軍事演習を懸念する声も

ジャーナリスト・佐々木俊尚)日本から見ると、これでまた台湾と中国間の緊張が高まり、「大丈夫なのか」という不安がありますが、台湾国内の受け止め方はどうなのでしょうか? 大喜びという感じなのですか?

小谷)台湾国内でも反応は割れています。アメリカの強い関与を歓迎する向きもあれば、アメリカが台湾への支援を強化すると、中国の矛先がアメリカではなく台湾に向くのです。昨日、既に経済制裁と思われるものが発表されましたし、今後も明日(4日)以降、台湾周辺でこれまでにない規模の軍事演習が行われる予定ですので、懸念の声は台湾のなかにもあるようです。

中国の台湾周辺での軍事演習が台湾侵攻につながる可能性はほとんどない

佐々木)中国側としては、国内向けのデモンストレーションとして、台湾に向けて強い態度を示すことは必要だと思うのですが、実際に軍事的なエスカレーションがどこまで拡大するのかについては、どう見ていらっしゃいますか?

小谷)いちばん懸念されたのは、ペロシ議長が台湾を訪問する際に、中国軍が直接妨害するのではないかということでしたが、それはありませんでした。ペロシ議長が台湾を去ったあとに、3~4日ほどかけて大規模な演習が行われます。これはどちらかと言えば今回の訪問への反対の意を示すということであって、そのままエスカレートして台湾侵攻につながる可能性は、ほとんどないと考えていいと思います。

日本の先島諸島への影響も

飯田)中国の軍事演習の範囲ですが、日本に対しても影響が出るようなところで行う可能性はありますか?

小谷)今回は、台湾のほぼすべてを覆う形で演習が予定されています。一部、台湾の領海にも被っている部分がありますし、与那国島は台湾から約180キロしか離れていませんので、日本の先島諸島への影響も当然、考えておく必要はあると思います。

台湾周辺での軍事演習について日本への事前通告はなかった

飯田)このタイミングで、総理はNPT再検討会議への出席などでニューヨークへ行っていますし、外務大臣もこのあとASEANに行くということですが、事前通告は一切なかったと見ていいですか?

小谷)中国側としてはおそらく、急遽演習の計画を立てたのだと思います。岸田総理はニューヨークから戻ってきて、おそらくペロシ議長とも日本に来たときに会うのではないかと思いますが、当然、日本とアメリカも連携しながら緊張感を持って状況を見守るのだろうと思います。

飯田)ペロシ議長の台湾訪問のハレーションは、この先も影響がありそうですね。

佐々木)中国が現時点で、すぐに本格的な軍事侵攻を行うという話ではなさそうですが、軍事問題は事故的に突然、勃発してしまうこともよくあります。

飯田)そうですね。

佐々木)もし仮にそれが起きたら、日本とアメリカと台湾はどのような連携を取るのか。そこをもう少し議論しなければいけないと思います。何も議論していないですよね。有事が起きた際に防衛出動するのかどうか、その辺りの論点整理さえできていない状況です。そもそもアメリカと日本と台湾の軍事担当者が、どのような議論をするのかさえ進んでいないということが言われています。

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