筑波大学教授の東野篤子が8月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月24日でロシアの軍事侵略から半年となるウクライナ情勢について解説した。
ロシアのウクライナ侵略から半年、クリミア半島で戦闘激化の兆し
2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で、ロシア黒海艦隊の司令部がドローンによる攻撃を受けたと地元当局が明らかにした。8月24日でロシアの軍事侵略開始から半年となるが、現在も戦闘は続いている。
飯田)この半年の動きをどうご覧になりますか?
東野)既に長期戦のさまざまな特徴が5月~6月から出始めています。そのころは東部の状況が動いていましたが、そこでも非常に長い時間が掛かっています。しかし、9月~10月に一気に何らかの形で片が付くのかと言うと、そうではないわけです。
飯田)さらに長引く。
人道回廊から穀物の問題まで、さまざまな問題が露呈
東野)一方で、さまざまな問題が3月ごろから明らかになっています。人道回廊については、名前とは裏腹に人道的な要素がなく、むしろ危険だったり、まったく機能しなかったり。また、原発などが危険に晒されるだろうという指摘も出てきています。穀物の話も出ていました。
国際社会とウクライナの当事者の間で温度差がある停戦交渉について
東野)停戦合意についても、3月から行われてきましたが、この状況で停戦交渉してもダメなのではないだろうかということが、ブチャなどの展開を見て国際社会に印象付けられた部分もあると思います。
飯田)一般市民に対する虐殺が行われていたことが明るみに出ましたよね。
東野)あれは停戦交渉が行われている間に、平行して民間人への虐殺が行われていたわけですので、「停戦交渉を絶対視してはならない」というような空気が出てきたのだろうと思います。
飯田)停戦交渉を。
東野)これに関しては、国際社会とウクライナの当事者との間で温度差があるのだろうと思います。当事者のウクライナからすると、停戦など危なっかしくてとんでもない。ただ、国際社会にはまだ「早く停戦した方がいい」というような温度差があるのだろうと思います。
ウクライナが戦争を止めればロシアに支配されてしまう ~そんななかで停戦を受け入れることはできない
飯田)現在の犠牲の部分を重視して即座の停戦を求めるか、あるいは将来的な危険を除去するために戦い続けなければいけないかのせめぎ合いのなかで、ウクライナの人たちは将来の危険の方が怖いとみているのでしょうか?
東野)そうですね。いま戦いを止めたら犠牲はなくなるのかと言うと、その保証はどこにもないわけです。止めた瞬間に、もっと酷い殺戮が起きるかも知れない。また、いまロシア化と言われる現象が明らかになってきています。
飯田)ロシア化。
東野)戦いが止んだとしても、そのとき暫定的にロシアに支配されてしまっている地域に関しては、ウクライナ語が使えないかも知れない。ウクライナのカリキュラムに従った教育が否定されてしまったり、ウクライナの通貨であるフリヴニャが使えなくなって、かわりにロシアのルーブルになってしまうというような状況が、容易に想像できるのです。
飯田)ロシアに支配されているところでは。
東野)いま戦争を止めたところで、ウクライナが受けられるメリット……本当に人が死ななくなることが保証されるかどうかもわからず、ロシアが攻撃を止めるかどうかもわからない。そんな状況では、とても受け入れられないということだと思います。
ウクライナ国民の多くが「領土的な妥協をするべきではない」と思っている ~戦闘を続けるべきだと
飯田)ウクライナの人たちの選択として、世論調査などを見ると、むしろ「ここは引いてはいけない」という意見の人が大半を占めていますね。
東野)そうですね。7~8割の人が領土的な妥協をするべきではないと思っているのです。日本では、もしかするとゼレンスキー大統領はウクライナの人々を縛り付け、ゼレンスキー大統領が戦争をやりたいのではないかというイメージが強くあるのではないでしょうか。
飯田)ゼレンスキー大統領の方が。
東野)実態は逆で、ウクライナの人々がゼレンスキー大統領が弱腰にならないよう、厳しく見張っているという指摘もあります。そうである以上、政権としては戦争を止められないですよね。
飯田)総動員令等が出ているため、「強権的にやっているのでは」というイメージを持つ方もいるかも知れませんが、実際は逆なのですね。
東野)一刻も早く戦争が終わって欲しい、「総動員令はどうなのか」と思っているウクライナの人も当然いるとは思いますが、多くの人はその逆です。
現状ではどの国も停戦に持っていくことはできない ~存在感を示しているのはトルコのエルドアン大統領だけ
飯田)ウクライナ国民の方がそう考えているのであれば、他国の人間が「いますぐ止めるべきだ」などと言うのは、「筋が違う」ということになりますよね。
東野)そうですね。面と向かってウクライナに「いますぐ戦争を止めましょう」と外交ルートなどを使って圧力を掛けるような国は、いまのところはないと思います。世論として、よく言われるのがイタリアやドイツ、フランスなどを中心に、「ウクライナとしては領土的にいささか妥協することがあっても、早期の戦争終結を目指すべきではないか」という見方があるようです。しかし、これも押し出せる状況にはないと思います。
飯田)ウクライナに対して。
東野)いま挙げた国々は、戦争終結に向けて外交的には頑張っていますが、決定打ではないのです。いまのところ仲介に出られるアクターが限られていて、唯一、存在感を示せているのはトルコのエルドアン大統領だけです。エルドアン大統領も、「いますぐに止めましょう」ということではなく、穀物や原発に関する合意など、1つひとつの問題ごとにアプローチをしている状況ですので、一気に停戦に持っていくようなことはしていないというのを忘れてはならないと思います。
IAEAの査察についても「原則、支持する」というロシアだが、完全に応じるかは不透明
飯田)ザポロジエ原発をめぐって、ここが砲撃を受けている件では、ウクライナとロシア双方がお互いを批判しています。21日にはバイデン米大統領、ジョンソン英首相、マクロン仏大統領、ショルツ独首相との4ヵ国首脳電話会談が行われたという速報が入りました。イラン核合意の再建協議についても話され、なかでもIAEAの査察団をどう入れるかについても難航しているそうですが、ここでも糸口は見つからないということでしょうか?
東野)IAEAの受け入れに関しては、「原則、支持する」というのがプーチン政権の表向きの態度になっています。これは驚くことではなく、いつもロシア側は「協力するつもりはある。協力しないのは常にウクライナ側だ」と言ってきました。しかし、「受け入れる」と言ったところで、実行に移されるのかどうかという問題があります。IAEAの査察に完全な形で応じるのかも不透明ですよね。
「IAEAの査察を認めさせる」G7で決めたことを一丸となって押し出すことが重要
飯田)日本としてはどうアプローチするべきだと思いますか?
東野)IAEAの査察を認めさせることは、G7のしっかりした意向でもあるわけです。ですので、まずは「G7の結束を乱してはならない」ということが重要です。G7で決めたことは一丸となって押し出していくという、この基本線を守ることだと思います。
ヨーロッパで進む「脱ロシア依存」 ~日本も検討するべき
飯田)各国でロシアに制裁を行っていますが、他方で日本はサハリンのガス田等で権益を持っています。ここに関しては、契約を更新しようかという報道も出てきていますが、どうアプローチするべきなのでしょうか?
東野)日本のエネルギー安全保障を考えても、難しい立場にある方々が多くいらっしゃることは理解できます。しかし、ヨーロッパの例を見ると、完全にプーチン大統領はエネルギーを武器化して、「止める、止めない」ということで揺さぶりを掛けてみたり、あるいはフィンランドやスウェーデンがNATOに加盟する方向になったときは、「ではフィンランドには供給しません」などと脅すのです。
飯田)ロシアが。
東野)やはり、エネルギー供給者としてのロシアは、このように揺さぶりを掛ける存在なのです。その国と一生懸命取引を続けるということは、国際的な評判のリスクを負うことになります。
飯田)国際的な評判のリスクを。
東野)「評判は悪くなってもいいのだ」と割り切ったところで、果たしてエネルギーを確実に得られるのか、その保証はどこにもないのです。ヨーロッパでは、制裁と絡んで「脱ロシア依存」が進んでいます。日本もそういうところをメインに検討する必要があるのかなと思います。
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