いま流行りのDX、GX、クルマの世界では?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第304回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、クルマの世界のDX・GXについて---

セドリック(430型)280Eブロアム(日産自動車提供)

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「科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXの4分野に重点を置いて、官民の投資を加速させます」

岸田文雄総理大臣は10月3日の所信表明演説で、このように表明しました。

政界・経済界を中心にDX、GXという言葉が最近よく使われます。DXは「デジタル・トランスフォーメーション」、GXは「グリーン・トランスフォーメーション」のこと。デジタル社会、カーボンニュートラル社会への変革を求める意味で使われています。ただ、まだまだ「お馴染みの言葉」とまではいっていないのが実情です。

一方、自動車ファンにとってはDX、GXという言葉は懐かしい響きです。

まずはDXですが、これは「Deluxe=デラックス」のこと。本来の意味は「高級なさま」「豪華なさま」です。デラックスなホテル、デラックスな食事、何とも胸ときめく言葉です。

ただ、こと自動車の世界に限れば事情が違ってきます。特に50代以上で小さいころ車に親しんだ世代は、この「デラックス」という言葉は違う印象を持っている人が多いと思います。

クルマにはその車種ごとにグレードというものがあります。廉価仕様、普及・量販仕様、豪華仕様、スポーツ仕様、期間限定の特別仕様など……それぞれの性格や装備の有無によって、グレードが分けられていきます。

昔はこのグレード構成が複雑怪奇でした。1つのクルマのなかに「24車種54タイプのワイドバリエーション」などとうたっていたものもありました。出た当初はシンプルでも拡販戦略のなか、どんどんグレードが増殖していくのです。

日産自動車を例にとると、以前、セドリックという高級車がありました。当初は標準仕様のSTD(スタンダード)、豪華仕様のDX(デラックス)というシンプルなグレード構成だったのですが、どんどんエスカレートしていきます。「カスタム」「スペシャル」「パーソナル」という、どれがいちばん上なのかわからないグレード構成もありました。

私が物心ついたときのグレード構成はこうでした。セドリックとしては4~5代目あたり。底辺にはSTD、標準仕様と言っても、シートはビニール。ラジオもついていません。その上がDX、さらに上がGL(グランド・ラグジュアリー)という上級仕様。これにS=スーパーがついたSGL、さらに豪華になったSGLエクストラ、そして頂点の超豪華仕様「ブロアム」が追加されます。

2022年10月3日、参議院本会議で所信表明演説を行う岸田総理~出典:首相官邸HP(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/3shu_san_honkaigi.html)

2022年10月3日、参議院本会議で所信表明演説を行う岸田総理~出典:首相官邸HP(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/3shu_san_honkaigi.html)

ブロアムとは箱馬車の意味で、何でもGMの高級ブランド、キャデラックにあった高級仕様のブロアムにあやかったのだとか。さらには、これに飽き足らず「ブロアムVIP」なるものすごい名前も登場していました。

他の車種も当時は似たり寄ったりで、STD、DX、GLを基本に、サニーがSGLの豪華仕様にスポーツ仕様のGX……そう、GXはサニーのスポーツ仕様のグレード名でした。そして豪華さ、スポーティさの両方を併せ持ったSGXに発展します。ブルーバードはスポーツ仕様として、SSS(スーパー・スポーツ・セダン)があり、その先に豪華仕様のXタイプ、スポーツ仕様のSタイプがありました。

ローレルはSGLの上にメダリスト、さらにこのメダリストに豪華仕様の「クラブL」、スポーツ仕様の「クラブS」、「メダリスト・エミネンス」という絢爛なグレードも一時期あり、豪華仕様だったメダリストが普及仕様のような存在になっていきました。

そして、現在も続くスカイラインは伝統のGT(グランド・ツーリング)が君臨。これにも当時は豪華仕様のX、スポーツ仕様のSが存在していました。車種ごとにグレード名も微妙に違い、それがまた個性となっていました。

一方で、DXはさまざまな車種にもありましたが、デラックスとは言うものの、ラジオが辛うじてつき、シートは座面中央のみが布地の「セミ・ファブリック」という仕様でした。いつしか国産自動車の世界では、デラックスというのは豪華でも高級でもなく、スタンダードに次ぐ「下から2番目」という意味を持つようになりました。

日本の自動車メーカーはかつて、このように新たなグレードを次から次へと出して、既存の車種を一気に陳腐化させ、「グレードアップ」なる言葉で買い替え需要を促してきました。現在はコスト的にも無駄とされ、不毛な販売競争も影を潜めて、シンプルなグレード展開となっています。

日産の「ノート」では廉価仕様のS、量販仕様のX、上級仕様のG(「ノート オーラ」に存在)の3本柱に、スポーツ仕様のNISMOといった具合。このS、X、Gという展開は、デイズやリーフ、エクストレイルなどの量販車種を中心に採用されています。

しかし、かつてあった車種ごとに特有のグレード、“上へ上へ”と膨らむグレード展開は、右肩上がりだった自動車業界の活力の象徴であったかも知れません。古き良き時代として懐かしく感じます。

なお、昔日の名残というわけではないでしょうが、DXというグレード自体は、日産ではいまもキャラバンやバネット、クリッパーなど、主に商用車に使われています。これらの上級グレードにはGXもあり、どっこい健在です。(了)

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