「ファクトだけをチェックすればいいというわけではない」 ファクトチェックの難しさを2人のジャーナリストが指摘

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ジャーナリストの佐々木俊尚と、青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が10月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「日本ファクトチェックセンター」について解説した。

「ファクトだけをチェックすればいいというわけではない」 ファクトチェックの難しさを2人のジャーナリストが指摘

※画像はイメージです

日本ファクトチェックセンターが10月1日に設立

飯田)偽情報や誤情報対策を行うファクトチェック機関「日本ファクトチェックセンター」が10月1日に設立されました。Googleやヤフー株式会社などの支援を受けているということです。

佐々木)もう少し長期的に見なければいけませんが、JFC(日本ファクトチェックセンター)が行っているファクトチェックを見ると、オカルト記事の検証など、社会的に価値があるかどうか微妙なネタが多いのではないでしょうか。

飯田)微妙なネタが。

佐々木)一方で、イデオロギーによってファクトかどうかわからない話はたくさんあります。ウクライナ問題で言うと、国内の親露派が言論人に多く、そういう人の言うことが「どこまで本当なのか」というところに踏み込んで語らないといけません。しかし、どこまでが「ファクト」と言えるのかわからない問題が多いですよね。

峯村)そう思います。「ファクト」という言葉は軽々に使うべきではないと思います。ファクトを追求するには客観性と精緻な分析が必要です。そのファクトを「チェック」するという組織名は、「なかなか大胆な名前を付けるな」という印象があります。

そのファクトを誰がチェックするのか ~党派によって揺らぎが生じるその「揺らぎ」が判断基準として大事な部分

佐々木)福島原発事故で甲状腺がんが増えているという話があります。増えていること自体は間違いではないので、ファクトなのだけれど、一方で「それは過剰診断によるものだ」という批判もある。「何をファクトとして考えるのか」という部分は、党派によって揺らぎが生じてしまいます。その揺らぎの部分が、実は我々にとっての判断基準として大事な部分なのです。

峯村)そうですね。

佐々木)単純にファクトチェックそのものが難しいし、「ファクトを誰がチェックするか」ということにも関わってきます。

SNSで複数の専門家がシェアしているかどうかを「確からしさの基準」にする

佐々木)そう考えると、「事実かどうか」を厳密にファクトかフェイクかに分けること自体に無理がある。ツイッターなどのSNSであれば、情報をシェアするわけです。「誰がシェアした情報なのか」を見る方が大事なのではないかと思います。

飯田)誰がシェアしたのかを見る。

佐々木)ウクライナ問題であれば、峯村さんを始め30人くらいの安全保障や軍事専門家の方々のツイッターアカウントをリストに入れ、毎日ウォッチしています。その人たちが共通してシェアしているような記事が、必ずあるではないですか。

峯村)かなり被ります。

佐々木)「被っているということは、確からしい」という安心感があるのです。でも1人しかシェアしていない記事は、信用していいのかどうかわからないのです。

飯田)そうですね。

佐々木)「複数の専門家がシェアしているかどうかを確からしさの基準にする」というやり方がいいのではないかと思います。

ただファクトだけをチェックすればいいというわけではない ~世界観や価値観まで踏み込まなければ判断できないものがある

飯田)甲状腺がんの話が出ましたけれど、確かに検査すれば「がん化しているものがある」ということがわかります。でもお医者さんに言わせれば、子どものころの甲状腺がんに関しては、それが大きくなって健康を害することも一部にはあるけれど、ほぼない。何十年も経って亡くなったあとに「甲状腺がんがあった」とわかるぐらいだから、それをことさら検査して手術で切り取ることが果たしていいのかどうかは、別の議論になりますよね。

佐々木)そうなのですよね。一方で甲状腺がんが見つかる確率が高くなっているという話があるのだけれど、他県ではあまり実施していないから高く見えるだけで、実際に行われたケースを見ると、発症率はあまり変わらないという話もあるのです。

飯田)検査を。

佐々木)ファクトそのものよりも、周りにある話ですよね。飯田さんがおっしゃったような「実際に甲状腺がんにどこまで害があるのか」という話や、他の都道府県での事例など。ファクトチェックは世界観や価値観などにまで踏み込まないと、判断できないものがあるのだと思います。

飯田)ただファクトだけをチェックすればいいというわけではない。

佐々木)そうなのです。誰もが見たらわかるフェイクを見つけて、「これはファクトチェックで言うとフェイクだ」と言っても、「そんなこと言われなくても知っているわ」と返されてしまうのではないかと思います。

「ファクトだけをチェックすればいいというわけではない」 ファクトチェックの難しさを2人のジャーナリストが指摘

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初歩的なミスをしている

峯村)私の朝日新聞時代の後輩でシンガポール支局長などを務めた古田さんや、学術界で一緒に仕事している人たちも入っているので、メンバーとしては期待しているところはあります。一方で、ファクトチェックする側の訂正が多いことが気になります。

飯田)訂正が多い。

峯村)しかも、かなり初歩的なミスをしている。学生のバイトさんがやっているということもあると思うのですが、それは言い訳にすぎません。ファクトをチェックしなければいけないのに、ファクトチェックを銘打つ人たちが頻繁に間違っている。いきなり初手からクレディビリティがないと感じています。

佐々木)先日もツイッターで「インフルエンザワクチンはmRNAではない」というものがあって、「mRNAとはどういう意味だ」と突っ込まれていました。「mRNAワクチンではない」のならわかるのですが、「そんな単純な表記間違いをしていて大丈夫なのか?」とよく言われていますね。

新聞社のファクトチェック機構の現状

飯田)今回、ファクトチェックセンターが報道機関を除外しました。「報道機関はそのなかにファクトチェックを行う機構があるから」という理由です。お二方は新聞社にいらっしゃったわけですが、ファクトチェック機構がいま機能しているかどうかに対して、疑問を抱く人が多い気がするのですが。

佐々木)原稿を出す段階でデスクなど上の人がチェックするのですが、どこまで専門性があるかというと、厳密にはないのです。結果的に出たあとでチェックされるケースが多い。一方で、新聞社がどこまでチェックできているかというと、紙面審査委員会などにご意見を伺うことはするのです。

飯田)ご意見番的な。

佐々木)実際には有名な有識者の方にご意見を聞いて、座談会を開き、内容をダイジェスト的に記事に載せて終わりにしてしまっているケースが多い。徹底的に間違いを紙面審査委員会などに指摘され、それに関する分析を紙面で行ったケースが過去にあるかと言うと、あまりないかなという印象ですね。

飯田)朝日新聞はパブリックエディター制など、新しいことをやろうとしていた部分もあったような気がします。

峯村)パブリックエディター制は結局、朝日新聞に近い人に来ていただき、それに対してご意見をいただいて「拝聴しました」と「サラッ」と言い訳したようなものを載せているのが実態です。それだけで客観的な報道ができるかどうかは疑問です。慰安婦証言を巡る誤報もそうですが、ああいうものこそ早くチェックして直した方がいいのではないかと、勧告すべきだと思います。

両方の党派を交えるというくらい、思い切ったことをやってもらってもいいのではないか ~第三者機関による検証は必要

佐々木)朝日新聞は、福島原発の廃炉作業で水が出ているALPS処理水を「汚染水」と呼び続けてきました。最近、ようやく「処理済み汚染水」と言うようになりましたが、なぜ「汚染水」と呼び続けているのか。そこにポリシーがあるのだとしたら、それを開示して説明して欲しいです。

飯田)汚染水と呼ぶのであれば。

佐々木)その説明を一切しないまま、ひたすら批判されても、汚染水と呼び続けたのはなぜなのかがブラックボックス化していて、基準が公に示されていないことが問題だと思います。他者に対しては説明責任を求めていたのに、自分たち側の説明は一切しないというところの不信感は、やはり大きいと思います。

峯村)まさにおっしゃる通りで、「シレッ」と修正してしまうことが多いのです。しっかり「ごめんなさい。いままでこうだったのですが、認識を誤っていました」と謝るべきだです。「新聞社は完璧ではないですから」という前提で。アメリカはそうですよ。「うちの党派性はこれです。うちは共和党支持なのです」とはっきりと明言すればいいと思います。

飯田)アメリカのように。

峯村)それを「シレッ」と直して、しかも検証しない。本来ならば、「それによってどれだけ日本の国際的なイメージを下げたのか」などを検証すべきですけれど、なかなか自分たちでは難しい。だからこそ、第三者機関による検証は必要なのだろうと思います。

飯田)ファクトチェックセンターを、お墨付きだけの機関にしてはいけないということですね。

佐々木)そうなのです。本当はもう少し党派を超えて、左右両方の党派を交えるというくらい、思い切ったことをやってもらってもいいのではないかと思います。

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