円安のなか、賃金はどうなる?
公開: 更新:
「報道部畑中デスクの独り言」(第305回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、円安と賃金について---
中小企業を束ねる日本商工会議所の三村明夫会頭(日本製鉄名誉会長)が3期9年の任期を終えるのを前に、10月20日に会頭として最後の記者会見に臨みました。
三村会頭は柔らかな物腰、気さくに話す姿に親しみがありました。通常2期6年とされていた日商会頭の任期が延長され、異例の在任9年に及んだのも、三村さんの人柄によるところが大きいと思います。
そんな雰囲気に悪乗りし、私はある日の会見で、人気グループ・SMAPの解散問題に絡んだ質問をしたこともありました。当時、SMAPは東京パラリンピックの応援サポーターでもあったことから、五輪を支援する商工会議所の立場としての見解を聞こうとしたのですが……さすがにこじつけが過ぎたようです。
しかし、三村会頭は質問を受けとめ、逆にかつてメンバーの一部が以前、会頭と同じマンションに住んでいたという“スクープ発言”もありました。その後、私が質問の手を挙げると「SMAPの質問じゃないだろうな?」と“けん制”されることもありました。
時に和やかな雰囲気の会見でしたが、三村会頭自身の発言には骨太な“芯”があったような気がします。最後の会見でもそんな芯が垣間見えました。
「いまの日本経済は残念ながら円安は好ましくない。この円安をどうやって是正するか、具体的な手段がない状況だ。金融緩和政策を続けているが、消費者物価も狙い通り上がってこず、国内経済の刺激もそれほどなかった。金融緩和による影響・効果がどの程度だったか検証をやるべき。分析した上でどうするのかを考える時期に来ているのではないか」
円安が進むなか、これまでの金融政策が転換期にあるという認識を示しました。
また、連合が来年(2023年)の春闘で5%の賃上げを求める構想を掲げたことについて、「要求としては当たり前」と理解を示します。そして、「一律に賃上げどうのこうのではなくて、賃上げの原資があるところはやればいい」とした上で、このように述べました。
「日本の場合は特に円安もあって、ドルベースで換算した賃金レベルは、国際的にみても非常に低いというのももう1つの事実だ。いままでのスタティックな(=動かない)状況から付加価値を向上させ、賃金をアップさせ、おそらく消費者物価も上がる……諸外国にみられる正常な状態に移り変わる分岐点にあるのだろうかと思う」
日本はドルベースで賃金が20年間ほぼ変わらなかったために、相対的な地位はどんどん下がっていきました。OECD=経済協力開発機構の平均賃金の国際比較によると、2021年では日本は34ヵ国中24位の下位グループに甘んじています。
バブルのころの1991年は23ヵ国中12位、2000年は34ヵ国中18位、2010年は34ヵ国中21位とじりじりと順位を下げ、現在は韓国やイスラエルなどの後塵を拝しています。今後さらに円安が進み、円としての賃金が変わらなければ、ドルに換算した額は下がっていくため、順位はさらに下がる可能性があります。
国際的にみた賃金が下がるとどうなるか……賃金が安いので、海外から労働者に来てもらえなくなります。ならば日本人が働けばいいということになりますが、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが定着しました。日本人が国内にいながら、海外の企業で働くことも可能になります。より賃金の高い国に人材が流出することにもつながるわけです。
東京商工リサーチが行ったアンケートによると、来年度(2023年度)に賃上げを予定している企業は81.6%に上ります。大企業は85.1%、中小企業は81.2%ということです。一方、引き上げ幅については「2~5%」が41.5%と最も多く、次いで「2%未満」が35.8%、「5%以上」は4.2%にとどまっています。
まもなく、企業の中間決算発表の時期となりますが、円安、物価高のなかで賃金がどうなるかが1つの焦点になるでしょう。企業トップの姿勢が注目されるところです。(了)
この記事の画像(全3枚)