尹政権になり、「核保有」の議論が出ている韓国

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東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が10月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。東京都内で開催された日米韓の外務次官協議について解説した。

尹政権になり、「核保有」の議論が出ている韓国

North Korea launched the IRBM missile across the Japanese Island.(Photo by Seokyong Lee/Penta Press) Penta Press/共同通信イメージズ

日米韓の外務次官協議、北朝鮮への抑止力強化で一致

日米韓3ヵ国は10月26日、外務次官協議を東京都内で開催した。北朝鮮の核・ミサイル開発の進展を踏まえ、日米韓で抑止力の強化を図る方針を確認した。また、中国が海洋進出を強める南シナ海や東シナ海情勢をめぐり、力による一方的な現状変更の試みを許してはならないとの考えでも一致した。

「小型核弾頭を積んだ短距離ミサイル」が日本にとって脅威となるミサイル

飯田)北朝鮮情勢ですが、日本を飛び越えるミサイルが発射され、Jアラートが鳴るという事態が先日もありました。このところ、急に雲行きが怪しくなっている感じがしますが、いかがですか?

鈴木)北朝鮮が7回目の核実験を行うのではないかと言われています。7回目の核実験の目的は、「核弾頭の小型化」です。これまで北朝鮮が一生懸命実験してきた短距離ミサイルは、小さなミサイルなのですが、その小さなミサイルに載せられるような核弾頭の小型化を進めるとなると、核を持った短距離ミサイルが飛んでくる可能性があります。これは韓国と日本がターゲットになり得るということなのです。

飯田)小型核弾頭を積んだ短距離ミサイルが飛んでくる。

鈴木)日本を通り越してJアラートが鳴るということは、北朝鮮から見れば、アメリカに届くものをデモンストレートしているので、このミサイルは日本には落ちてこないのです。

Jアラートが鳴る「長距離ミサイル」より、鳴らない短距離ミサイルの方が日本にとって脅威となる

鈴木)Jアラートが鳴るものよりも、鳴らない短い射程のもので、小型核弾頭を搭載している。この組み合わせの方が日本にとって脅威であることは、認識しておく必要があります。

飯田)Jアラートのときは大騒ぎになりましたけれども、実際の脅威はそこではないと。騒ぐポイントが違う。

鈴木)もちろん、北朝鮮がアメリカに届くようなミサイルを持つことになれば、アメリカと北朝鮮の間の緊張が高まりますので、それはそれで困ります。

飯田)アメリカに届くようなミサイルを持てば。

鈴木)直接日本を攻撃し得るミサイルは、短い射程のものです。いまは技術的に核弾頭が大きいものしかつくれないので、大きなミサイルになります。基本的に日本に向けて撃つミサイルには、核弾頭は載らないのではないかと言われていますが、核弾頭が小型化すると、自由に選択できるようになります。そうなると、北朝鮮の脅威が一気に増すと考えるべきです。

尹政権になり、核保有の議論が出てきた韓国

飯田)そのミサイルが日本や韓国を狙ってくるとなると、日米韓の連携が大事になります。

鈴木)韓国は、これまでの文在寅政権が「南北融和」という形で北朝鮮との対話による平和を目指したわけですが、それは基本的に無理だというところから、新しい尹政権では、どちらかと言うと「対立的な抑止」の方向へ向かっています。「抑止するためには何をすべきか」ということで、いま韓国では核保有の問題が話題になっています。

飯田)核保有の問題。

鈴木)北朝鮮が核を持ち、しかも小型化も進んで韓国を狙うことになれば、韓国側も「抑止力として核を持つべきだ」という議論が出てきています。

第一段階としてアメリカの核を朝鮮半島に配備する「核共有」 ~韓国が核を持てば、「次は日本が核を保有するのではないか」と世界は見る

鈴木)もちろん、すぐにそんなことができるわけがありませんので、第一段階として、アメリカの核を朝鮮半島に配備する。いわゆる核共有(ニュークリアシェアリング)と言われるような話も、選択肢としてあるのではないかということです。まだ議論の段階ですが、そういう話も出てきています。

飯田)なるほど。

鈴木)これは我々も考えなければいけないことです。北朝鮮が核兵器を持つことによって、核のドミノが起こり、周辺諸国が核を持つことになる。当然、韓国が持つようになれば、次は日本ではないかという話も出てきます。

日米韓で北朝鮮の核を抑止する、同時にアメリカは日韓の核保有を食い止める

鈴木)我々の感覚としては、核を持つことは考えられない話ですが、世界からは「次は日本が核を持つのではないか」と見られるでしょう。そうならないためにも、日米韓で北朝鮮の核に対して抑止を行う。同時にアメリカとしては、韓国や日本の核保有を食い止めなければいけないということです。

飯田)アメリカの思惑としてはそういうことなのですね。

鈴木)ですので、なおのことアメリカも北朝鮮問題にコミットする……こういう循環が起きているのだろうと思います。

尹政権になり、「核保有」の議論が出ている韓国

2022年5月18日、韓国・光州で開かれた光州事件の追悼式典で演説する尹錫悦大統領(共同) 写真提供:共同通信社

韓国が核を持てば北朝鮮が狙うのは日本だけ

飯田)仮に韓国が核を持つと、北朝鮮としては「狙えるのは日本だけだな」となるわけですよね。

鈴木)北朝鮮はそう考えるでしょうし、日本も核武装をするのではないかと、みんな連想すると思います。その連想ゲームの結果、「本当に日本が核を持つのではないか」という疑いが強まってくると、日本には核を持つ気がなくても、日本が核を持つのではないかという謂れのない非難や圧力を受ける可能性もあるので、そういうことも想定しておかなければならないと思います。

迫る核の脅威という安全保障上のリアリティが国会の議論でもない日本 ~国家安全保障戦略の改定を機に、リアリティに近付く安全保障議論を行うべき

飯田)日本が狙われる可能性があるから、核を持つかも知れないと見られている。でも、日本国内ではそんな議論は出てきていません。しかし、「お前たちは座して死を待つのか」と言われたときに、どう返すのか。先日、防衛研究所の高橋杉雄さんが、「我々はそういうリアリズムのなかで15年以上ずっと議論してきました」と話していましたが、ようやく世の中が追いつきつつあるという感じですか?

鈴木)それでも、やはりメディアを含めて、世間では安全保障上のリアリティのない状態で議論が進む傾向にあります。それは国会の議論でも、政府レベルでもそうだと思います。

飯田)リアリティのない状態で。

鈴木)年末に国家安全保障戦略が書き換えられる予定ですが、リアリズムが反映されて、その文書を土台にいろいろな議論が巻き起こっていくことになれば、少しずつリアリティに近付くような安全保障議論ができるのではないかと思います。

飯田)リアリティの意味で言うと、北朝鮮が核弾頭を短距離ミサイルに載せるかも知れないという話をされましたが、隣の中国やロシアは、もう既にそういうものを持っているという話ですよね。

鈴木)持っているのですが、それをいままで撃っていないのは、やはり核抑止という全体のグローバルな枠組みがあるからです。

飯田)核抑止という。

鈴木)中国にしても、ロシアにしても、もし日本に向けて撃てば当然、日米安全保障条約がありますから、アメリカの核の報復を覚悟して撃たなければいけないわけです。

飯田)報復を覚悟して。

鈴木)それほどのリスクを負うまでの価値があるかと言うと、いまのところはまだない。だから核兵器を落とすことはしてこなかったわけです。

今後、プーチン大統領が「核戦争を覚悟しても侵攻することがあるかも知れない」という怖さ

鈴木)今後、特に米露関係、米中関係が悪化していくと、その辺りの核抑止の考え方もまた変わってくる。つまり、「アメリカと戦争してでも何かを達成したい」という目標が本当にあれば、どうなるかわかりません。ロシアによるウクライナ侵攻も、もしかしたらアメリカが介入するかも知れないというリスクを背負ってやっているわけです。

飯田)ロシアは。

鈴木)実際は介入していませんが、もしウクライナに侵攻して、さらにバルト三国やポーランドに入れば、確実にアメリカと戦争をしてでも、最終的には核戦争になってでもポーランドを占領したい、バルト三国を占領したいということになるわけです。いまのプーチン大統領には、もしかしたら「核戦争を覚悟してでもやることがあるかも知れない」という怖さがあります。

核抑止が破れたとき ~北朝鮮、ロシア、中国に囲まれた日本はどうするのか

鈴木)3期目に入った習近平氏も、自分が達成したい何かがあるかも知れない。例えば、台湾統一という目標があるとすると、それを達成するために、あらゆる犠牲を厭わないと言い出せば、これは怖いわけです。

飯田)怖いですね。

鈴木)あらゆる犠牲のなかには、核兵器による犠牲も含まれ得る。そう考えると、これまでのようにアメリカの核の傘、拡大抑止のなかで自分たちが守られているという理屈自体が効かなくなってくるのです。

飯田)そうですね。

鈴木)核抑止の理屈が効かなくなると、これはこれでかなり危ない。「抑止が破れる」と言いますが、そのときはどうするのか。何が起きるのかを考えておかなければいけない局面になる可能性もあります。こういうリアリズムが、北朝鮮、ロシア、中国という国に囲まれている地域に住む、我々の課題なのだろうと思います。

今後、鈍化した中国の経済を誰が運営するのか

飯田)いままでであれば、中国には「そんなことをしたら経済が大混乱になってしまうぞ」と言われていたのですが、新しい3期目の顔ぶれを見ると、それを止める人がいないのではないかという懸念があります。

鈴木)今回の常務委員会のメンバー、いわゆるチャイナセブンと言われている人たちを見ると、基本的には習近平さんの子飼いの人たちで、経済をマネージできるような人がほぼいないのです。

飯田)そうですよね。

鈴木)そこが気になるところです。頭のいい人たちではあるので、それほどおかしなことをやるわけではないにしても、いま直面するさまざまな問題があります。特にゼロコロナ政策です。ゼロコロナ政策がもたらした「経済的な成長の鈍化にどう対応するのか」というところが大きな問題です。

飯田)経済の鈍化にどう対応するのか。

鈴木)今後の経済運営について、新しいチャイナセブンは何をやろうとするのか。自分たちの権力を維持するために、ずっとこれを続けるのか。それとも経済のためにやるのか。その辺りの判断を誰がするのか。それが見えないところが怖いなと思います。

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