中国やロシアなどの「偽情報」にどう対応すればいいのか
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東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が11月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。国際ビジター・リーダーシップ・プログラム・プロジェクトについて解説した。
国際ビジター・リーダーシップ・プログラム・プロジェクト
アメリカのブリンケン国務長官はインド太平洋の安全保障を強化するために、9月から「国際ビジター・リーダーシップ・プログラム・プロジェクト」を開催した。日米豪印クアッド諸国の有識者をアメリカに集めてディスインフォメーション(偽情報)や外国干渉への対策を考えるプロジェクトである。
飯田)このプロジェクトには井形さんも参加されています。国務長官からメールがきたということですが。
井形)国務長官本人からではなく、「国務長官が行うプロジェクトに参加しませんか?」というメールがアメリカ政府の方からきました。いきなり“congratulations!”と、「あなたは選ばれました」と書いてあったので、何かのスパムかと思ったのですが、よくよく読んでみたら正式なメールでした。そこで「参加します」と伝えました。
中国やロシアなどが行う「ディスインフォメーション」にどのように対応すればいいのか
飯田)その後、実際に9月8日からワシントンD.C.、セントルイス、シアトル、カリフォルニアに向かったそうですが、どんなことを行ったのですか?
井形)メインで話した内容は、いわゆる「ディスインフォメーション(偽情報)」についてです。
飯田)偽情報。
井形)意図的に間違った情報を社会に広めるようなことを、例えばロシアや中国などの国々がアメリカに対して、あるいは日本やインド、オーストラリアに対してもやり始めている。それに「どう対応すればいいのか」と、みんなで議論してきた1ヵ月でした。
ファクトチェックだけではもはや足りない ~新しい手法
飯田)素人のわれわれが考えると、「間違った情報が出てきたら、正せばいいではないか。間違っていると言えばいいではないか」と思うのですが、いかがですか?
井形)どの国も最初はそう思って、ファクトチェックに多くのお金を入れたのです。「適当なことを言っている人がいるけれども、実はこのように調べていくと間違いでした」とすれば大丈夫だと思っていたら、残念ながら、そうではなかったのです。
飯田)違う。
井形)違うのです。いまはFacebook、ツイッター、TikTokなど、SNSで情報が入ります。そうなると、一度炎上してしまった偽情報は「バーッ」と広がってしまい、数週間後に「やっぱり違いました」と言っても、まったく注目されないのです。
飯田)拡散されてしまって。
井形)そのころには、また違うディスインフォメーションにみんな引っかかってしまっている。しかも、せっかく頑張ってファクトチェックしたものは、あまりバズりません。
飯田)なるほど。
井形)それでは遅すぎるということで、もはやファクトチェックでは足りない。どうすればいいのか、ということで、さまざまな新しい手法が出てきています。
プリバンキング ~あらかじめ「このような偽情報が広がるかも知れません」と情報のワクチン接種をする
飯田)どうしたらいいのですか?
井形)例えば「プリバンキング」と言われているものがあります。「将来的にこのような偽情報が広がるかも知れません」と予測できる場合に、「こういう偽情報が出るかも知れないから気を付けてね」と、情報のワクチン接種をするという形です。
飯田)情報のワクチン接種。
井形)「それをやっておくと有効だ」というような結果が出始めているのです。
飯田)そうなのですね。
井形)具体的にどんな成功例があったかと言うと、「ロシアがウクライナに侵攻するかしないか」というような場合に、アメリカ国務省では、ディスインフォメーションの対策を行うGEC(グローバル・エンゲージメント・センター)という機関があるのです。
飯田)GEC。
井形)そこが「ロシア側からきっと、このような情報が広がるから気を付けてくださいね」ということで、「このように言ってきます」というナラティブをあらかじめサイトにアップしていたのです。
飯田)サイトに。
井形)もちろんアメリカ国民がみんなそれを見ていたわけではないのですけれども、アメリカのメディアはさすがに見ていたわけです。
飯田)メディアは。
井形)実際に戦闘が始まると、GECが言っていた通りではないかと。これはきっとロシアのディスインフォメーションかも知れない、ということで、あらかじめ偽情報を拡散しないような意識ができたのです。まず、このプリバンキングが重要ではないかということになりました。
「これは違う情報だ」と言うのではなく、「これが正しい情報であると言い続ける」ことが重要
井形)また、「あの情報は間違っている」と言うのは、実は逆効果になる可能性もあります。すなわち、「この情報は嘘だ」と言うときに、偽情報の内容も広げてしまうのです。
飯田)そうですね。
井形)「その情報、どこかで聞いたな」となってしまうと、「この情報は間違っている」というストーリーのはずなのに、偽情報だけ覚えてしまうことがあるらしいのです。
飯田)タイムラインでざっと見ていると、「こういう情報もあるんだ」と騙されてしまうのですね。
井形)ですから、「これが違う」と言うのではなく、「これが正しい」と言い続ける。「本当に正しいナラティブを言い続ける」ということが重要なのではないか、と言われています。
ゲームで「ディスインフォメーション」を学ぶ
井形)あとはゲームです。意外だったのですけれども、国務省がいまコンピューターゲームをつくっています。
飯田)国務省が?
井形)「ハーモニースクエア」というオンラインゲームです。まだ日本語には対応していないのですけれども、英語で「Harmony Square」と調べると、実際に遊ぶことができます。このゲームはディスインフォメーション、「偽情報を悪い人たちが広めていますよ」という手法を学べるゲームなのです。あまり面白いものではありませんが。
飯田)つまらないのですか。
井形)やろうとしていることはわかります。「これは偽情報だ」と特定しやすくするために、教育の一環としてやっているのだと思います。
第2弾のゲーム「キャットパーク」
井形)「キャットパーク」という第2弾のゲームもつくっているとのことです。
飯田)「キャットパーク」。
井形)ドッグパークに猫を連れて行こうとしたら、犬派の人たちが猫派の人たちに対してネガティブキャンペーンをするというものです。まずは犬派に立って、ネコに対するネガキャンを自分が行う立場になる。そして猫派が悪者にされたときに、今度は猫派の立場になって、ディスインフォメーションをどうやって解いていくか考えるという、2パートに分かれて行うゲームらしいです。まだ出ていませんが。
飯田)まだ出ていないのですね。
井形)私は猫派なので、やらねばと思っているのですが。
飯田)私は犬を飼っているので……。
井形)では、ディスインフォメーションを広げて終わりですね。
飯田)ゲームも含め、いろいろな形でディスインフォメーションに対抗しようとしている。英語は世界言語でもあるから、「ディスインフォメーションが流れやすい」ということはあるのですか?
井形)間違いなくあります。日本では日本語を使うので、「言語の壁があるから大丈夫ではないか」と長らく思われていましたが、「そうでもないのではないか」というケースも最近出始めています。
飯田)AI翻訳も相当進んでいますものね。
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