産業として成立させるために「大規模化」せざるを得ない「これからの農業」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が11月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。食品価格の動向調査について解説した。

産業として成立させるために「大規模化」せざるを得ない「これからの農業」

※画像はイメージです

食品価格動向調査 ~5品目が前週より値下がり

農林水産省が11月15日に発表した食品価格動向調査によると、11月7日の週の野菜小売価格は、調査対象の8品目のうち、大根やネギなど5品目が前週比で1%~5%値下がりした。

飯田)小売店の価格動向を迅速に把握するため、主要野菜の小売価格について、平成22年4月第2週から農林水産省が定点的に調査を行っています。その結果を消費者に提供している。毎週調査しているのですね。

佐々木)一時は上がっていたのですが、少し落ち着いてきてよかったかなと思います。

農業を理解していない人が多い

佐々木)先日、「アベマプライム」というネット番組で「農協はこれからどうなるのか」という議論をしましたが、農業を理解していない人が多すぎると思います。

飯田)理解していない人が多い。

佐々木)いまだに農業はおじいさんやおばあさんがやっていて、「かわいそうな農民たち」というようなイメージを持っている。しかし、「農業の担い手が高齢化している」ということが話題になったのは50年前からですよ。

飯田)おじいちゃん、おばあちゃん、お母さんがやっているような。

専業農家は少なく、兼業農家が増えている

佐々木)戦争が終わった時代の日本の農業人口は、約1400万人いたのです。いまは200万人を切っています。

飯田)現在は。

佐々木)私は福井などに行っていて、農業をやっている知り合いが多いのですが、専業農家の人は極めて少ないですね。大半が兼業です。市役所などに勤めていて、先祖代々の田んぼをなくすわけにはいかず、休日に田んぼの世話をしているような人が多いのです。

大規模化する農業法人が増えている ~大型スーパーなどと直接提携

佐々木)現状がどういう方向に向かっているのかと言うと、「辛いので、もう田んぼや畑を手放したい」というところが多いのです。そして、そういう田畑を譲り受けたり、購入して農業法人が大規模化する傾向にあります。

飯田)農業法人が。

佐々木)食産業からの要求もあるのです。いままでは、たくさんある零細農家から野菜を集めて農協がまとめて売っていた。しかし、それはサプライサイドの話なので、どのくらい安定供給ができるのかは、集めてみないとよくわからないのです。

飯田)どのくらい安定供給できるかは。

佐々木)イオンのような大規模スーパーや居酒屋チェーンは、どれくらい入ってくるのかが予測できないと困るのです。だから最近増えているのが、農業法人とイオンや居酒屋チェーンが直接提携して、長期契約でまとめて買うという形態です。

飯田)自分たちで育てているから、生育状況のデータなどがリアルタイムで入ってくる。野菜がどのくらい入るかの予測が立てやすくなるのですね。

佐々木)安定供給できる。

事前につくれる量がわかるので安定供給できる

佐々木)売る方としても、つくる方としても、買ってくれることがわかっていて、しかも農協経由だと値段が少し高いこともあります。だから大規模化が進んでいる。

飯田)そもそも同じ量が入ってくることだけが安定供給ではなく、不作だということが前々からわかっていれば対処もできるし、それが安定供給につながります。

佐々木)どういう土地で、どういう季節に、どのくらいつくるのかという計画が立てられるのかどうか。雨が多ければ「今年は少ないです」と事前に数字で出てくるとか。

大規模化する一方で、個別に消費者と小規模にやりとりする方法も

佐々木)一方で、私は茨城の「久松農園」さんという有名な農業法人から、毎月野菜を2回届けてもらっているのだけれど、個別に変わった味の野菜をつくり、東京のレストランなど、直接消費者とやり取りする。そういう2面で農業は進んでいるのです。

飯田)まさに佐々木さんの本のなかでも書かれた、「推し活」の部分と被ってくるわけですね。

佐々木)応援消費で小さな農業をやる人を応援するか、イオンなどが大規模につくるかという。兼業農家や、おじいちゃんおばあちゃんが細々と道の駅でピーマンを売っているような農家は、残念だけれど、なくなってしまっても仕方ないのではないでしょうか。

飯田)どちらかにシフトしていく形になる。

佐々木)そういうことです。結果的にそうならないと、日本の農業は強くならないと思います。

兼業農家のおじいちゃんやおばあちゃんが「道の駅」で売る100円のピーマン ~「安い値段で売って欲しくない」という専業農家の本音

佐々木)いつまでも「農業をやっている人はかわいそうだから、何とか維持させなければ」という感じでやっていても、あまりいいことにはならない。実際に、兼業農家のおじいちゃんやおばあちゃんが週末に農業をやって、100円くらいのピーマンを道の駅で売っているではないですか。

飯田)よく売っていますね。

佐々木)確かに安くて美味しいのだけれど、専業農家からみると、「100円で売られたら自分たちのビジネスが困るよ」という話なのです。

飯田)専業農家の人からすれば。

佐々木)それがある種、いい野菜を売ることに対する障壁になっている部分があります。「安い値段で売って欲しくない」という専業農家の本音があると思うのですが、「おじいちゃんおばあちゃんがせっかくつくっているのに」と言われてしまうと、なかなかそれも言えないということです。

飯田)他の産業だったら、「ダンピングしてはいけないでしょう」と言えるのですが。

佐々木)町工場が大量にあって、大企業がまったくない産業革命以前の世界のようです。

飯田)家内制手工業のような。

産業として成立させるために大規模化せざるを得ない農業

佐々木)産業として成立させるとなると、大規模化せざるを得ないのです。これは否定してはいけない話だと思います。

飯田)家内制手工業的なものに最適化しているような、いまの規制や法律を変えなくてはならない。

佐々木)「かわいそう」と言ってしまうと、すべて話が終わってしまうのです。

飯田)感情の部分になってしまいますね。

佐々木)ここから1歩出ていくことが大切なのだと思います。

飯田)その意味では、共通の土台となる「前提知識」がないまま感情が走っている。

佐々木)そうなのです。だから農業に興味のない人にも、もっと学んで欲しいと思います。

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