今年の景気は? 賃上げは? 企業トップの意向は?
公開: 更新:
「報道部畑中デスクの独り言」(第313回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2023年の景気について---
2023年、松の内も過ぎましたが、企業によっては成人の日をはさんだ3連休明けが“本格始動”というところもあるかも知れません。年が明けて、経済界では相次いで新年祝賀会、賀詞交歓会が開かれました。
1月5日に行われた恒例の経済三団体主催の新年祝賀会。今年も新型コロナウイルス感染防止対策が施された上での開催となりましたが、企業トップの「指定席」が設けられた昨年(2022年)に比べると、規制は幾分緩やかになりました。参加人数は620人あまり、昨年の約3倍ですが、例年の約1800人に比べると、まだまだ3分の1ほどにとどまります。
最大の関心は何と言っても「賃上げ」です。岸田文雄総理大臣はあいさつで「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい」と力を込めました。経団連の十倉雅和会長も、新年祝賀会後の記者会見で「ベアを中心に物価高に負けない賃上げをお願いしたい。企業の責務」と言い切りました。
ニッポン放送では、企業トップ4人にインタビューを試みました。
-----
「『賃上げ5%を超える』、インフレが当たり前のようになった。戦争も起こった。風景が変わった。社員にとって生活苦のないようにすることが経営の役割。大手企業はそれを目指してやっていくべき」(サントリーホールディングス・新浪剛史社長)(以下 サントリー)
「賃上げは前向きにやっていきたい。小売業として値上げをお願いしているが、賃金が上がらないと消費行動につながらない。消費者物価指数3%という数字は、1つのベンチマークとして検討しないといけない」(ローソン・竹増貞信社長)
-----
特に新浪社長は「賃上げ5%」を今年のキーワードに挙げており、鼻息の荒さが感じられました。一方、コロナ禍からの回復途上にある業界は、まだまだ慎重なようです。
-----
「航空業界全体が道半ば。従業員には昨年から賃金を維持し、賞与も4ヵ月。今年はもう少し上積みできるか。従業員のエンゲージメントを上げることのバランスをどうとるか」(ANAホールディングス・芝田浩二社長)(以下 ANA)
「運輸や観光業界は回復途上なので簡単には方向性は出せない。慎重に状況をみて最終的に判断する。状況が好転したということではない」(JR東日本・冨田哲郎会長)(以下 JR)
-----
さらに中小企業を束ねる日本商工会議所の小林健会頭も、記者会見で「賃上げできる年になることを切に期待している。そうしなければならない」としながら、中小企業の現状について「経営形態も千差万別。そういうものを全部ひとからげにひっくるめて、こうという指針を出すのはなかなか難しい」と苦しい胸の内を明かしました。
このように業種によってまだまだ温度差はあるものの、全体的に賃上げの機運は高まりつつあります。経団連の十倉会長は昨年、「従業員に成果の分配をするのは当然」とした上で、「一律にどうこうではなく、各企業が個別に決定していくべき」と述べていました。今年はこうした「他人事」のような発言は影を潜め、経営側に明らかな“熱量”の違いが感じられます。これから始める春闘=春季労使交渉の行方に注目です。
この他、今年の景気の見通し=「景気予報」、4人のトップは奇しくもほぼ同じ「曇りのち晴れ」でした。
-----
「どんよりした曇りが上期は続く、晴れ間が出てくるのが下期。まだまだ物価高が続き、戦争が終わる見込みはなく、インフレは続いていくだろうが、中国の景気も戻ってくるだろう。下期に期待している」(サントリー・新浪社長)
「足元曇り、ちょっと暗い感じの曇り。雨は落ちていない。そこから年末に向かって晴れ渡る。雲を破って太陽を見つけ出し、晴れの経済にしていかなければ」(ローソン・竹増社長)
「曇りの状態から薄日が漏れている、これから晴れてくる。秋ぐらいには秋空を見たい」(JR・冨田会長)
「航空需要は国内、国際ともに上向いている。支えている日本のビジネスに力強さを感じる。今年後半にはもっと顕在化してくる」(ANA・芝田社長)
-----
期待を込めた発言が目立ちます。ただ、昨年も「曇りのち晴れ」と述べるトップが多かったのも事実です。「薄曇りまで回復してきたとみていいのでは。もう少しで明るい日差しが回復してくると期待している」「曇りもようから晴れ間がようやく見えてきた」「夜明けが近い。間違いなくよくなってくる」という声が聞かれていたのです。
ロシアによるウクライナ侵攻という“想定外”の出来事が景気の雲行きに影響を与えたのは論を俟ちませんが、マインドが慢性的にどんよりしているのは気になるところです。
そして、今年のキーワードは?
-----
「“跳ねる”。コロナでずっと我慢して耐えてきた年から、大きく跳ねる年に」(ANA・芝田社長)
「“成長と分配、消費の好循環をつくる”。コロナで業界全体がボディブローを受けてきた。まだまだ回復途上、早く元の形に。根気よく取り組みたい」(JR・冨田会長)
「“グリーン・DXを実行に移す”。規制の再整備とDX、これが一体とならないと生産性は上がらない」(ローソン・竹増社長)
-----
アバターの活用など店舗改革を進めるローソン、改革のカギはDX(デジタル・トランスフォーメーション)ですが、今年も企業トップからはデジタルという言葉が頻出しました。
賃上げとともに機運が上がる国内投資について、JRの冨田会長は「デジタル化を地方にどう広めるか。観光業界もデジタル化を通じて生産性を高める業界になっていかなくてはいけない。人材はシステムだけでなく、業界に詳しい人と伴走型で」と語ります。一方、サントリーの新浪社長は「国内投資のキーは分散投資。国内に生産拠点を持つことでリスクに対応する。国外に出たものが国内に戻ってくることが重要」と、国内回帰に期待を寄せていました。
国内投資、デジタル、そして構造的賃上げ……日本経済はさまざまな方向転換を問われる年になりそうです。そして、舵を切った先は? 日本の将来を決めることになります。(了)
この記事の画像(全7枚)