米下院議長選「15回投票で決着」が物語る「共和党内の劣化」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が1月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米下院議長の役割について解説した。

米下院議長選「15回投票で決着」が物語る「共和党内の劣化」

※画像はイメージです

米下院議長と日本の衆院議長の違い

米下院の議長選は1月7日、多数派の野党・共和党のマッカーシー院内総務が過半数を獲得し、議長に選出された。4日間、15回におよぶ投票の末の決着で、下院議長選で10回以上投票が行われたのは164年ぶりとなる。

飯田)産経新聞の連載コラム「宮家邦彦のWorld Watch」に、米下院議長と日本の衆議院議長の違いについて書かれています。

宮家)日本の衆議院議長は、名誉職のようなところがあるではないですか。功成り名を遂げた方が最後に務めると。党籍を離脱して中立で行うというイギリスの伝統なのだけれど、アメリカはそうではないのです。アメリカの下院は2年おきですから。

飯田)改選が。

宮家)435議席あるのだけれど、下院議長は多数派政党の実質的な政治リーダーなのです。無党派や超党派どころか、党派性丸出しなのですよ。

多くの権限を持つ米下院議長

飯田)米下院の場合は。

宮家)日本で言えば幹事長や議運委員長、国対委員長など、そういうものを集めた権限を持っているわけです。相当細かいことまで、法案をどのように通すかということまで決められる人なのです。

飯田)下院議長が。

宮家)その人がなぜ15回も手こずったのか。架空の話をしますが、日本で言うと、例えば20人しかいない弱小派閥の人たちがいるとします。その人たちが大幹事長に楯突いて、「俺たちの言うことを聞かないと法案を通さないぞ」と言っているわけです。日本であれば、「何を言っているんだ」と、そんな連中は干したらいいのですよ。

強硬派の議員が言いたいことを言えるようなシステムになりつつある ~米共和党の劣化、米保守の劣化

宮家)ところが、アメリカでそれができないのはなぜかと言うと、その20人がトランプ系だからです。超強硬派ですから、まず彼らは選挙に勝てるのですよ。トランプ前大統領の支持者が背景にいるから、その意味では強硬なことが言えるし、党の執行部も干せない。今回新下院議長は相当な譲歩をして、ようやく選ばれたのです。相当に譲歩したということは、昔より下院議長の政治力が落ちているということです。例えば議長の解任動議を1人で出せるとか。

飯田)いままでは、ある程度の人数がいないと出せなかったわけですよね。

宮家)強硬派の議員が反対する法案は、その気になれば全部潰せますし、予算案についても文句を言えるようになっている。要するに強硬派の人たちが言いたいことを言えるようなシステムになりつつあるわけです。そうすると議会が機能しなくなってしまいます。

飯田)議会が機能しなくなる。

宮家)それが本当にアメリカにとっていいことなのかと言えば、いいわけはないのだけれども、それだけアメリカの共和党内が劣化しているし、アメリカの保守が劣化しているということです。

昔のような形で下院議長が仕切れる時代ではない

飯田)しかも、トランプさん自身もマッカーシーさんに投票するよう呼びかけていたのですが、それも受けなかった人たちがいる。

宮家)各選挙区の事情があるだろうし、トランプさんの力だけではないわけです。トランプ現象はトランプさんがいなくなっても続きますから、その動きを代弁している人たち約20人、しかもみんなダイハードの人たちですから、昔のような形で下院議長が政治を仕切れる時代ではない。「共和党が多数派を握った」と言いながらも、思い通りには議長が運営できない、議事運営できなくなる可能性があるという意味では、困ったことだと思います。

大譲歩をして強硬派の軍門に下ってしまったマッカーシー下院議長

飯田)それだけ下院議長の権限が強く、手放したくないとなると、例えばもう少し考えの合う民主党の人たちを抱き込むことはできないのですか?

宮家)それも最後の手段として考えていたかも知れません。でも、それをやってしまったら混乱しますよね。そうなると、いままで彼を支持していた共和党の人たちが「民主党に魂を売ったのか」と離れていくわけです。これもまた毒饅頭であり、食べることはできません。

飯田)そうですね。

宮家)マッカーシーさんはそれなりに力がある人だったけれども、苦労に苦労を重ねて、やはり共和党のリーダーとして残りたかったのでしょう。そのために大譲歩をして、ある意味で強硬派の軍門に下ってしまったところがあると思います。

混乱からものが生まれてくるのがアメリカのすごいところ

飯田)かつて債務上限の引き上げができず、予算が通らずに政府が閉鎖されたことがありました。

宮家)それは今回の事態があってもなくても起きる、アメリカらしい現象です。あの混乱から新しいものが生まれてくるのがアメリカのすごいところですから、このぐらいで驚いてはいけないのだろうと思います。164年ぶりかも知れないけれど、こんなものだと腹を括りましょう。

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