外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が1月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理とカナダ・トルドー首相との会談について解説した。
岸田総理がカナダのトルドー首相と会談
主要7ヵ国(G7)首脳会議の議長として欧米の5つのメンバー国を歴訪中の岸田総理大臣は、4ヵ国目となるカナダのトルドー首相と会談し、経済安全保障分野で連携する方針を確認した。また、海洋進出を強める中国をめぐり、力による一方的な現状変更の試みに反対することでも一致した。
飯田)ヨーロッパ各国、フランス、イタリア、イギリスと回って、カナダを訪問しました。
宮家)カナダ訪問は地味ですが、とても重要です。カナダは去年(2022年)の11月にようやくインド太平洋戦略を発表しましたが、「いまごろか」と思うではないですか。アメリカの隣国なのにね。G7でもあるし、NATOにも入っているわけです。ところが、G7のなかでも温度差があります。イギリスやアメリカなどの海洋国家は、日本と発想も似ています。だから安保条約があり、円滑化協定もイギリスと今度つくるわけです。そこはうまくいっている。
G7でも温度差が違うカナダ ~少しずつ中国に対する態度が変わりつつある
宮家)ヨーロッパで言うとフランス、ドイツの大陸国家は、中国との関係について日米とは違いましたが、最近ようやく少しずつ考え方を変えているような感じはします。そして、太平洋にある国でも少し考え方が違うな、というのがカナダだったわけです。
飯田)考え方が違う。
宮家)他にも、G7ではないけれど、例えばニュージーランドは日本以上の島国であり、日本以上の平和国家です。核が大嫌いな国ですからね。それらの国々でも、中国に対する態度が少しずつ変わりつつある。
カナダをG7の協調に持っていく重要な会談
宮家)「インド太平洋戦略」を発表することの意味は大きい。誰も言わないけれど、「インド太平洋」という発想自体が中国抑止なのですから。そういう言葉を使うことについて、中国との関係を考えたら、一部の国は躊躇していた。韓国も使い始めたのはつい最近です。
飯田)去年(2022年)の年末ぐらいですね。
宮家)東南アジア諸国もいろいろと考えながら、「インド太平洋」の概念に乗ってきた。その流れのなかで、今回のカナダ訪問を考えると、ただ単にG7議長国というだけではなく、カナダが示している対中政策を変えるような動きをうまく使いながらG7全体の協調に持っていくという、非常に重要な会談だと思います。
カナダを小国と見る中国 ~国際情勢を見ると、トルドー首相との会談は重要な一歩
宮家)何ヵ月か前に、習近平さんとトルドーさんが2人で話しましたよね。
飯田)G20のタイミングで。
宮家)すごく失礼なことを習近平氏が言ったわけでしょう。
飯田)首脳会談の中身が漏れていると。「しっかりしろ」というようなことを。
宮家)相当失礼なことを言ったわけです。
飯田)私たちは民主国家だから、メディアに対してそんなことはできません。
宮家)中国はカナダを小国として見ているのです。顔や言い方でわかってしまうでしょう。アメリカに対してはそんなことを言いませんから。そういう意味では、カナダも中国との協力はダメだと考えた。それで徐々に対中政策が変わっていった、そこへ議長として岸田さんが行き、G7の協力をもう1回謳い上げる。長編動画として国際情勢を見ると、今回のカナダ訪問は極めて重要な一歩だと思います。
飯田)ここでカナダが転換したところを離さない。
宮家)離さずにこっちに持ってくる。そしてG7で方向性をはっきりさせると。
温度差のあるG7をまとめる形でメッセージを送る ~日本の国益にとって大事なこと
宮家)もちろんドイツなども、問題がないわけではありません。ドイツの人には申し訳ないけれど、ドイツはまだ中国市場をかなり意識して動いています。
飯田)去年、習近平氏の3期目が決まったあと、G7としてショルツ首相が訪中しています。
宮家)ショルツさんは日本に最初に来たから、それはそれでいいのだけれど、そういう意味では、G7といっても温度差がある。そこをうまくまとめる形で、正しいメッセージを隣国に送る。隣国というのは中国だけではなく、韓国も含めてです。そして東南アジアも含めて送ることが、極めて日本の国益にとって大事なことだろうと思います。
日英円滑化協定への署名は1つの一里塚
飯田)いままで4ヵ国を歴訪してきました。この流れをどうご覧になりますか?
宮家)確かに日米同盟はしっかりと進化しているのですが、イギリスと円滑化協定をつくったでしょう。その前にはオーストラリアとも署名しました。円滑化協定とは何かと言うと、うまい言葉を考え付いたなと思うのですが、要するに「地位協定」です。地位協定の初歩的な段階のものだと思えばいいでしょう。
飯田)以前は訪問部隊地位協定という名前でした。
宮家)外国の部隊が来たときにその法的地位をどうするかということが目的ですが、対象は訓練だけではないのです。その気になれば有事の際でも、権利義務関係ができるということです。地位協定だと言うつもりはないけれども、その流れのなかにある1つの一里塚だと思いますので、極めて重要です。
多国間の枠組みを重層的に構築することによって、NATOと同じような抑止力を持つことになる
宮家)次にカナダとも円滑化協定をつくれば、当然のことながら、日本周辺で何かあったときには協力し合うことが「円滑化」されるということです。それを「平和国家ではなかったのか」と批判的に考える人もいるかも知れませんが、平和を守るために円滑化協定をつくっているという意識に変わっていただきたいと、個人的には思います。
飯田)日本に何か攻撃的なことをすれば、後ろにいるアメリカだけでなく、世界中を敵に回すことになるのだと。
宮家)そういうことです。日本周辺でNATOのような多国間の同盟関係はもうつくれないと思うし、同じものをつくるのはもちろん無理なのですが、いろいろな二国間、もしくは多国間の枠組みを重層的に構築することによって、NATOと同じような抑止力を持つことは可能性としてあり得る。実際に今はその方向に動いています。
飯田)NATO同様の抑止力を。
宮家)その方向を固めていくために、長いプロセスですけれども、いまの議長国としての立場をうまく活用しながら、日本の国益を最大化する。これが岸田さんのやっている外交です。
飯田)外交の一連の流れで、この先をどうするか。長いスパンや長い視野で見たときに、いまの役割が見えてくると。
宮家)1回の会談で一気にすべてうまくいくわけがありません。外交は積み重ねで初めて結果が出るものです。長い目で見ると、見方が変わってくるでしょう。
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