工場長に辞表を出されても「納豆づくり」を見直した「ひげた食品」
公開: 更新:
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
新型コロナウイルスが全国に拡大した2020年、関東ではなぜか茨城県の感染者が極端に少ないと言われていました。そして、「納豆を食べているからではないか?」という噂が一人歩きし、巣ごもり生活のなか、安くて栄養豊富な納豆が売れに売れて「コロナ特需」となります。
あれから3年が経ち、いまは再び3個パックで100円を切る従来の価格競争に戻っています。
納豆王国・茨城県には、水戸を中心に20社ほどの納豆メーカーがあります。100年以上の老舗が多いこの業界で、今回ご紹介する茨城県土浦市の「ひげた食品」は、昭和44年創業。「弊社は新参者なんですよ」と常務の塙武仁さんは言います。
塙さんの祖父が納豆づくりを始め、天狗納豆総本家「笹沼五郎商店」の天狗ブランドを借りて、納豆を販売していました。
塙さんは大学を卒業すると、食品関連の商社に就職します。現在の社長は塙さんの母親が務めているそうです。その母を助け、「子どものころから食べてきた納豆を自分でつくってみたい」と、12年前の2011年の夏、26歳のときに土浦へ帰ってきました。
入社した塙さんの初仕事は、クレーム処理でした。クレーム内容は、例えば「納豆が糸を引かない。どういうことだ!」などで、塙さんはスーパーの各店舗から商品を回収しました。
塙さんは工場長と、とことん話し合います。工場長は「俺のつくり方で間違いないんだ。他社に相談して聞くのは恥だ!」と、いままでの手法を変えません。塙さんは、「日々向上心がなければ美味しい納豆はつくれない」という考え方です。
その結果、「俺がやる!」と塙さんが宣言。納豆をつくったこともない26歳の若造がそんなことを言い出したので、「だったら俺は辞める!」と工場長が辞表を出し、男性の従業員も「あんな若造の下で働けるか!」と、ことごとく辞めていきました。
残った従業員とパートの主婦で、納豆づくりが始まりました。
「納豆づくりで気をつけたのは、納豆菌がいい塩梅に発酵できるように心がけたことですね」
塙さんは夜中3時に起きて、誰よりも早く4時に出社。従業員が集まった5時半から納豆づくりが始まり、午前中に終了しますが、それからいろいろ仕事があって、塙さんが帰宅するのは夜10時ごろです。
「できれば8時に帰って、3人の子どもが寝る前の顔を見たいんですよ」
そんな生活を続けていると、周囲から「ひげたの納豆が美味しくなった!」と嬉しい声が聞かれるようになりました。
2015年には、いままでの「天狗マーク」から、「これは納豆なの?」と思わず手に取りたくなるデザインに一新。「無印良品を目指したデザインにしたかった」と言うだけあって、お洒落な洋菓子のようなパッケージに変わりました。
「年配の方には『昔の天狗マークがよかった』と言われることもありますが、若い方には『シンプルでかっこいい』と評判がいいですよ」
コロナ特需も終わり、現在は従来の価格競争が始まっています。営業先で「納豆は安くないと売れないよ」と門前払いを食らうことも……。3個パックで100円を切る大手の納豆には太刀打ちできません。
「ひげた」の納豆は厳選した国産大豆を使っていますが、塙さんが注目したのは県内の有機大豆でした。土浦市の隣町・阿見町の農業振興課の紹介で、元茨城大学農学部教授の高原英成さんと出会います。
「高原先生が運営する環境保全型『のらっくす農園』を見て驚きました。ふかふかの土なんです。『ここならきっと美味しい大豆がとれるはず』と思いました。もう一目惚れでしたね。高原先生の指導のもとで大豆栽培を始め、去年(2022年)、その農園を受け継いで自社農園にしたんですよ」
土づくりには「鶏ふん」と「米ぬか」を肥料として使っています。納豆業界では「全国的にも珍しい取り組み」だそうです。自社栽培の有機大豆100%を使った新商品『実花わら納豆』は、ネット通販や直売所に出すと即完売。「どうしたら買えるの?」と嬉しい電話がかかってきます。
最後に、「納豆づくりの面白さは?」と伺いました。
「納豆づくりは子育てと一緒。毎日毎日、違った顔を見せてくれます。機嫌のいい日もあるし、悪い日もある。そこが面白さですね」
オンリーワンを目指す「ひげた」の納豆は、塙さんの努力とこだわり、そして粘り強さが隠し味になっています。
■ひげた食品株式会社
住所:茨城県土浦市田中2-9-8
電話:029-821-8941
https://www.higeta-natto.co.jp
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ