はやぶさ2、WBC……チームが1つになるということ

By -  公開:  更新:

「報道部畑中デスクの独り言」(第321回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、探査機「はやぶさ2」を総括する記者会見について---

はやぶさ2プロジェクトメンバー

画像を見る(全10枚) はやぶさ2プロジェクトメンバー

小惑星「リュウグウ」からサンプル=砂粒を地球に持ち帰るなどの快挙を果たした探査機「はやぶさ2」について、これを総括する記者会見が3月20日に行われました。場所はおなじみ、JAXA=宇宙航空研究開発機構の相模原キャンパス。

探査機のリュウグウへの着陸、地球への帰還、サンプル運送、カタログ化、そして初期分析……一連のプロジェクトを担った関係者が、論文発表などでひと区切りがついたのを機に一堂に集いました。

記者会見が行われたJAXA相模原キャンパス

記者会見が行われたJAXA相模原キャンパス

「計画を超えた成功。やりたいことをすべてやった上で、それ以上の成果が収められた。本当に心の底から喜びたい」

探査機の運用を担った元プロジェクト・マネージャでJAXAの津田雄一教授は、胸を張りました。その上で「これは本当に実力だけではなく、運も必要。いかに幸運をとらえて、成功に転換するかということは紙一重。冷や汗をかいたこともたくさんあった」と振り返り、「勝って兜の緒を締めよという気持ち」と語りました。

記者会見 右からJAXA津田雄一教授、澤田弘崇ファンクションマネージャ、名大・渡辺誠一郎教授

記者会見 右からJAXA津田雄一教授、澤田弘崇ファンクションマネージャ、名大・渡辺誠一郎教授

津田教授には久しぶりに会いましたが、運用当時に比べて、大きく重たいものから解放されたような、そんな表情にも見えました。

思えば、探査機「はやぶさ2」が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられたのは2014年12月、いまから8年以上前にさかのぼります。その後、2018年にリュウグウに到着、2回の着陸に成功し、2020年にリュウグウから得たサンプルを地球に持ち帰りました。

「いろいろな困難があった。工学的にも地下物質をとるのは挑戦だった」

X線CTスキャナー X線を使って構造を分析する

X線CTスキャナー X線を使って構造を分析する

津田教授が特に思い入れのある出来事として挙げたのが、2019年、2回目の着陸のとき。以前、小欄でもお伝えしましたが、1回目の着陸でつくった人工クレーターから地下物質を採取するというミッションでした。

地下物質からは表面物質よりさまざまなことがわかるけれど、その「お宝」が積もっている場所は平らではなく、着陸が非常に難しい場所。着陸すべきか、大きな議論になったと言います。

容器へのサンプル回収は大気から遮断し、窒素環境で行う

容器へのサンプル回収は大気から遮断し、窒素環境で行う

当初、クレーターから近い、平らな領域を目指したものの、ターゲットマーカーを落としたところで探査機が異常を検知、アボート=離脱となりました。それが2019年5月15日のこと。

しかし、その際に探査機に仕込んであったカメラがリュウグウ表面の画像を撮影。そこには別の平らな場所が写っていました。検討の末、着陸を決断。7月11日に着陸に成功したわけです。

「けがの功名のようなところもあったが、技術的な準備、科学的な分析、運、すべてがかみ合って地下物質をとることに成功した」(津田教授)

リュウグウからのサンプル

リュウグウからのサンプル

当時の取材メモを紐解くと、関係者は“願かけ”に「カツ丼」や「カツカレー」を食していましたが、異常を検知して以降、店を変えたことが記されていました。

これまでの初期分析で、サンプルからはおよそ2万種類の有機分子が見つかりました。このなかには生物の体に欠かせないアミノ酸なども含まれます。また、液体の水が含まれていることも判明し、地球の生命の起源が宇宙から飛来したという説を強化するものとなりました。はやぶさ2の一連のプロジェクトに関する論文は、これまでに約300本に上ります。

今後はNASAが打ち上げた「OSIRIS-REx(オシリス-レックス、オサイリス-レックスとも呼ばれる)」という探査機が持ち帰るサンプルとの比較が待っています。このサンプルは「Bennu(ベヌー)」というリュウグウに似た小惑星からのものです。

リュウグウからの気体を閉じ込める

リュウグウからの気体を閉じ込める

探査機は今年(2023年)9月に地球に帰還する予定。はやぶさ2プロジェクトチームのメンバー、名古屋大学の渡辺誠一郎教授によると、ベヌーのサンプルは日本にも配分される予定であり、リュウグウのサンプルとどこが共通で、どこが個別の特徴を持っているのかを比較するということです。

JAXA相模原キャンパスには、すでにベヌーからのサンプルを分析するためのクリーンルームが用意され、記者会見の日、報道陣にも公開されました。

渡辺教授は次の目標として「ぜひ彗星に行きたい」と語ります。10年以上かかるミッションになりそうですが、彗星の氷のなかには太陽系初期の情報が保存されている可能性があるということです。津田教授は彗星の候補はいくつかあるものの、具体的にはまだ明かせないと話していました。「勝って兜の緒を締めよという気持ち」という発言は、次の目標に対するものでもあるのでしょう。

OSIRIS-REx分析用のクリーンルーム 試料の到着を待つ

OSIRIS-REx分析用のクリーンルーム 試料の到着を待つ

世界に誇るべきは、はやぶさ2の偉業、サンプルの初期分析だけではありません。これらをつなぐ運搬、保存作業にも高い技術が込められていました。

カプセル回収班のJAXA国際宇宙探査センター、ファンクションマネージャの澤田弘崇さんによれば、サンプルを地球の大気に触れずに持って帰ることは日本だけしかできないと言います。新開発のメタルシール機構によるもので、砂粒だけでなく、リュウグウから来た気体も閉じ込めることができました。

澤田さんは「サンプルキャッチャーの蓋を開き、初めて(サンプルを)見たときの感動は、いまも胸が熱くなる」と振り返ります。そして、「はやぶさ2の最高のチームがあって、初めて成功させることができた」と力強く語りました。

OSIRIS-RExのクリーンルームに入る予定の機器イメージ

OSIRIS-RExのクリーンルームに入る予定の機器イメージ

今週はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本代表が見事、14年ぶりの王座を奪還しましたが、チームが一丸となることの素晴らしさ、尊さを実感します。そして、それが日本という国の強みであるとも感じます。

一方、はやぶさ2はいまも「第二の旅」を続けています。それが2031年夏に別の小惑星に向かうという、いわゆる「拡張ミッション」のプロジェクト。津田教授によると、機器の劣化はあるものの、大きな不具合はなく、長旅は順調だということです。はやぶさ2もまだまだ現役の「チームの一員」です。(了)

Page top