アフリカ4ヵ国訪問で岸田総理に求められる「グローバルサウス対策」

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。大型連休に予定される岸田総理のアフリカ4ヵ国訪問について解説した。

アフリカ4ヵ国訪問で岸田総理に求められる「グローバルサウス対策」

2023年3月20日、共同記者発表~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/20india.html)

岸田総理、大型連休にアフリカ4ヵ国を歴訪へ

岸田総理が大型連休にアフリカ4ヵ国を歴訪する方向で調整に入ったことがわかった。政府関係者によると、日程は4月29日~5月5日の7日間で、エジプト・ガーナ・ケニア・モザンビークへの外遊を調整している。

飯田)先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)を前に、グローバルサウスと呼ばれる新興国、途上国との関係強化を図る狙いがあると報じられています。一連の動きを見て、いかがですか?

神保)G7の大きな柱の1つは、グローバルサウスへの対策です。ウクライナ問題もあってG7は結束したのですが、実は世界はそんなに結束しているわけではありません。

世界秩序のなかでグローバルサウスの国々とプレーヤーとして協力できるか

神保)特に世界秩序のなかで、「グローバルサウスの国々とプレーヤーとして協力できるか」は大きなテーマです。

飯田)グローバルサウスの国々と。

神保)グローバルサウスの国のなかで手薄になっている場所が、アフリカ、中東の辺りだと思います。今回はエジプト・ケニア・ガーナ・モザンビークを訪問予定ですから、北米、「アフリカの角」一帯、西アフリカ、アフリカ南部で地域的にはバランスを取り、アフリカ全体をできるだけ取り込むような外交をしているのだと思います。

米中対立やロシアのウクライナ侵攻に対する結束からは距離を置くグローバルサウスの国々

飯田)これらの国々には中国から投資が入っていますが、中国とのつながりも強いですか?

神保)その通りだと思います。「グローバルサウスとは何か」をきちんと共有する定義ができていませんが、昔は「北の国々は富める国で、南の国々は貧しいまま」という、分断論としてのサウスという言葉がありました。

飯田)南北問題などと言われました。

神保)いまのサウスは、経済成長著しい新興国です。独自の経済発展のダイナミクスがある集団なのと同時に、米中対立やロシアのウクライナ侵攻に対する結束からは距離を置いて、「エネルギー安全保障やサプライチェーン、食料などの問題は大事だ」と遠慮なく言う傾向があります。

「西側はダブルスタンダードだ」と認識している

神保)さらに言うと、西側先進国が持っているようなダブルスタンダードの問題があります。ウクライナには倫理的に向かうけれど、「ではシリアやアフガニスタン、イラクではどうだったのですか?」と言われてしまう。

飯田)違うではないかと。

神保)「西側はダブルスタンダードだ」という認識に対する共感が、意外と広がりやすい地域なのです。これがグローバルサウスの特徴で、「このような国々と協力するためにはどうするのか」という方針を立て直さなければならないと思います。

グローバルサウスの国々にある共有性を捉えることができる中国 ~そこに日本がどう入り込んでいけるか

神保)西側がいろいろと言っているけれども、中国が「ファーウェイも含めていろいろなソリューションがありますよ。デジタル経済は我々が牽引するけれど、一緒にどうですか?」と言うと、アフリカなどは「そうですね。安くていいですね」という形で広まってしまう。それ以上に、サウジアラビアとイランをなぜ中国が仲介できたかと言うと、先ほど話したグローバルサウスの3つの特徴のなかに中国が入り込めるからだと思います。

飯田)中国は入り込むことができる。

神保)イランとサウジは確かにシーア派とスンニ派で、中東の力学のなかでは、まさにパワーの対立をしている国ではないかと思います。しかし、グローバルサウスの共有性という視点で見ると、意外と共有する部分があって、そこを中国は捉えられるのだと思います。

飯田)共有する部分を。

神保)それで影響力が拡大してしまう傾向があるのなら、どのような形で日本が入り込んでいけるかということだと思います。

アフリカ4ヵ国訪問で岸田総理に求められる「グローバルサウス対策」

2023年3月29日、サミットに出席する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/29democracy.html)

民主主義サミットはやるほど世界が分断する

飯田)グローバルサウスの人々からすると、ダブルスタンダードだという話がありました。民主主義を守ると掲げている一方で、「イラクや一時期はフセイン政権も支持していたでしょう?」というダブルスタンダードがある。いま民主主義サミットを開こうとすると、政体的に入り込めない国があります。アフリカもそうですし、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国のなかにもある。踏み絵を踏ませないように、日本にもできることがあるような気がするのですが。

神保)自分の個人的な意見を言うと、民主主義サミットは直ちに止めるべきだと思います。

飯田)止めるべきですか。

神保)やればやるほど世界が分断する傾向があります。もちろん、民主主義の価値や人権の尊重・法の支配を実現していくこと自体は大事ですが、どういう手段で達成していくかということです。

マラソンの伴走者のようにドアを開けてなかに入り込んで同じ目標に向かうべき

神保)ドアを閉ざして「あなたは招待します。あなたは招待しません」というような分断をつくるよりは、ドアを開けてなかに入り込み、「一緒に同じ目標に向かいましょう」と示す。マラソンの伴走者のような入り込み方が、日本にはできるのではないでしょうか。

飯田)マラソンの伴走者のような。

神保)民主主義のレベルに応じて援助を分けるという考え方もありますが、まずは入り込む。「開発して経済成長した暁には、同じ目標に向かっていきましょう」というアプローチを日本は取るべきだと思います。

飯田)特に民主党政権に変わってからのアメリカのアプローチは、「グローバルサウスをどう取り込むのですか?」という質問に、「民主主義は素晴らしいのだから、その価値にみんな気付いてくれるはずだ。そのために我々は動いているのだ」と言う感じです。

神保)そうですね。

飯田)「それだとついていけない人はどうなってしまうのだ?」と思うのですが、置き去りのままでも、彼らは「素晴らしいものは素晴らしいだろう?」で終わらせてしまう可能性がある。

神保)興ざめ・引きまくりという状態だと思います。

「ライシナ・ダイアローグ」で西側諸国のダブルスタンダードについて、ロシアのラブロフ外相が語った場面で拍手が起きた

神保)ロシアのラブロフ外相が、インドの「ライシナ・ダイアローグ」に出ました。

飯田)G20と合わせて開催された。

神保)ツイッター上では、ラブロフ氏がウクライナ戦争を正当化するような発言をして、会場から冷笑が湧いたと言われていました。

飯田)ドン引きだったと。

神保)しかし、ラブロフ氏が拍手を受けたシーンが別途あるのですよ。西側諸国のダブルスタンダードのことを言った場面です。

飯田)そうなのですね。

神保)ウクライナ問題にみんな集中するけれども、アフガニスタンやシリアで起きている現状について、西側諸国はどれくらい真摯に向き合っているか、というような発言をしたところ、会場から大きな拍手が起きたそうです。これは見過ごすべきではないと思います。

インドと同じような目線でグローバルサウス対策ができるか ~それをアフリカ訪問のなかでどれだけ示すことができるかが日本外交にとって重要なポイント

神保)もちろん、グローバルサウスの内部はバラバラですが、そのなかで共感すべき発想があるとしたら、そういう集団にどのように付き合っていくのか。それを覚悟して向き合っていかないと、グローバルサウス対策はあくまでもG7の上から目線で、「開発が必要なのだろう? お金を出したぞ」という方法では上手くいかないと思います。

飯田)そうですね。

神保)特にインドと連携していくという話ですが、インドがグローバルサウスを見る目線は、自分もいるグローバルサウスのなかで(自分が)牽引していくという目線です。

飯田)インドの目線は。

神保)日本がグローバルサウス対策をするのは、G7から見たグローバルサウスですから、同じグローバルサウス対策でも目線のベクトルが違うのですよ。ここをどう融合させていくかという方向性を、アフリカ訪問のなかで「どれだけ示すことができるか」が、日本外交にとって重要なポイントになると思います。

かつてのODAやJICAのように、なかに入っていく

飯田)かつてのODAやJICAように、内部に入って進める草の根のようなものが、いちばん生きてくるかも知れないのですね。

神保)スハルト元大統領時代のインドネシアや、フェルディナンド・マルコス元大統領時代のフィリピンなど、東南アジアにも権威主義国はあったわけです。もちろんいろいろな懸念は表明しますが、大事なことは政治が安定して、そのなかで経済発展を果たし、人権が保障される流れをつくっていく。まさに伴走のやり方であり、日本の関わり方だと思います。世界の援助や開発協力をいろいろなアクターと一緒に進め、規模を拡大していく姿を示す。グローバルサウスの国がどちらかを選ぶ必要がなくなるというのが、いちばんの安心感だと思います。

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