ジャーナリストの佐々木俊尚と慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が4月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本学術会議について解説した。
日本学術会議
日本学術会議は4月17日~18日の2日間、半年に一度の「総会」を開き、会員の選び方などを見直す法律の改正案について対応を議論し、政府に対して今国会への提出を思い留まるべきだなどとする勧告を出した。政府の示した改正案では、選考プロセスに第三者からなる「選考諮問委員会」を新たに設置し、学術会議は「選考諮問委員会」の意見を尊重しなければならないとした。
飯田)形式的には総理が任命すると言いながら、実質的な任命権は学術会議側が持つ形になっており、「推薦すればみんな受かる」というような傾向がありました。菅前総理のときに、そうではなくなりましたが、いかがでしょうか?
世代間対立のような構図が背景にあるのでは
佐々木)「学問は政治から独立していなくてはならない」というのが大原則ですので、難しい問題だと思います。どのようにバランスを取ればいいのか、距離を置けばいいのか。
飯田)そうですね。
佐々木)私は当事者ではありませんし、外から見ているだけなのですが、アカデミアの世界の話は30代~40代の若手研究者の人たちと、60代や名誉教授クラスの70代~80代の人たちの間で意見が異なる。特に人文系、文科系では見解の相違がくっきりしていて、世代間対立のように浮かび上がっています。
ウクライナ侵攻によって明らかになった国際政治学での分断 ~若手研究者と主流派との対立
佐々木)ウクライナ侵攻で明解になりましたが、「○○名誉教授」のような人たちがこぞって「親ロシア」的なことを言い、それに対して30代~40代の若手研究者の人たちが猛烈に反発している。この構図は、日本における人文系の学問にとって象徴的な、ある種何かを浮き彫りにしている感じがします。
飯田)30代~40代の方々の主張がある意味、国際的なスタンダードでもあることがわかってきました。発言している人たちは自分の腕で資金を集め、あるいは自分のラボを運営するような、自己責任で体を張っているような人たちが多いですよね。
佐々木)ウクライナ侵攻で「国際政治学にはそういう分断があるのだな」と私は初めて知ったのですが、哲学や教育など、他の学術分野では明らかになっていません。それは分断がないわけではなく、分断が可視化されていないだけのような気もします。どうして可視化されていないのか、そこに何らかの権力構図があるのではないかというところが、個人的にはとても気になります。
学問の国際化、国際競争が進んでいる世界と日本学術会議のなかで議論されている世界で大きなズレ
飯田)細谷さんはいかがでしょうか?
細谷)私は大学の教員ですので、広い意味ではコミュニティの一員なのだと思いますが、日本学術会議との接点はほとんどありません。大学教員であるほとんどの研究者は接点がないと思います。
飯田)日本学術会議との接点は。
細谷)政治権力が学問に介入するべきではないという意識は、一般論として重要なことです。政治権力が介入すると、学問にとってはダメージが大きいと思います。一方で国際競争が激しく、グローバル化が進む学問の環境のなかで、日本学術会議も時代に合わせて改革しなくてはいけない。それは内部の人たちも感じていると思います。
飯田)時代に合わせて改革しなければならない。
細谷)中国や韓国など、大学の国際競争力が高まっているなかで、日本の大学ランキングは低いですし、日本の優秀な研究者の多くは海外に出ています。そういった意味では、日本学術会議のなかで議論されている世界と、実際の学問の国際化、国際競争が進んでいる世界とで、大きなズレがあるのでしょう。
改革の必要性と政治権力が介入するべきではないという要因を整合する答えが見つかっていない
細谷)おそらく我々よりももっと若い世代は、海外の国際競争がスタンダードになっていますので、日本学術会議のなかで議論されている内容にあまり関心がないと思います。
飯田)若い世代は。
細谷)逆に言うと、日本学術会議の真ん中にいらっしゃる方々は、もちろん国際的に活躍されている方もいますが、昔からつながっている伝統や論理に拘束されている部分もあると思います。改革の必要性という要因と、政治権力が介入するべきではないという要因を整合する解が、いまのところ見つかっていないのではないでしょうか。
20世紀的な知識人と21世紀的な新しい知識人の対立構図があるのでは
飯田)今回の法律の改正案も、諮問委員会に任せようという趣旨でした。ただ、人選に関して「政治の指示が」とは言うかも知れませんが。
佐々木)20世紀的な知識人と、21世紀的な新しい知識人の対立構図のようなものがあるのでしょう。日本学術会議と言うと、それこそ軍事技術に対してけしからんというようなことを言っていたわけですから、そういう意識を少し変えていく必要もあるのではないかと思います。
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