スウェーデンのNATO加盟がロシアにもたらす「地政学的な危機感」

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地政学・戦略学者の奥山真司が7月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。スウェーデンのNATO加盟が与えるロシアへの影響について解説した。

スウェーデンのNATO加盟がロシアにもたらす「地政学的な危機感」

記者会見するバイデン米大統領とフィンランドのニーニスト大統領(左)、スウェーデンのアンデション首相(右)=2022年5月19日、ホワイトハウス(UPI=共同) 写真提供:共同通信社

トルコのエルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を認める意向を示す

トルコがスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟を阻んでいる問題で、ロイター通信によると、トルコのエルドアン大統領は7月10日、スウェーデンの加盟を認める方向で議会の批准手続きを進める意向をNATO事務総長に伝えた。

飯田)トルコはずっとスウェーデンのNATO加盟には反対していましたが、動きましたね。

奥山)トルコの非合法組織である「クルディスタン労働者党(PKK)」を敵視しているという状況で、「テロリストを匿っているのではないか」と非難し、スウェーデンの加盟に反対していました。おそらく今回の動きのなかで、何らかの取り引きがあったのでしょう。

飯田)それで加盟を認めた。

奥山)フィンランドとスウェーデンの加盟によって、NATOがまた拡大しました。

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟で、内海であるバルト海を獲られたロシア

奥山)ロシアにとっては、「内海が獲られた」という大きな問題が出てきます。

飯田)内海が獲られた。

奥山)地図で説明するとわかりやすいのですが、ロシアにとって外に出て行く海、特にヨーロッパ側へ出て行く海は限られています。上の方から出て行くパターンもあるのですが、何と言ってもプーチン大統領のお膝元であるサンクトペテルブルクなどがある、バルト海という海です。

飯田)バルト海。

奥山)フィンランド、スウェーデン、ロシア、バルト三国などに囲まれている内海です。出口はデンマークです。

飯田)ヨーロッパの地図を思い浮かべると、スカンジナビア半島が伸びており、ちょうどそこにバルト海の入口があります。なかが入江のように奥深くなっていますね。

バルト海はかつて、ほとんどがソ連の内海だった

奥山)そのいちばん奥に、ロシアのサンクトペテルブルクがあります。地政学の世界の話をすると、ソ連時代、バルト海はほとんどがソ連にとっての内海だったのです。

飯田)バルト海に面している国々を思い浮かべると、入口にデンマークがあり、なかに入るとドイツがある。

奥山)当時は東ドイツが蓋をしてしまっていました。

飯田)バルト海に面していたのは、ほぼ東ドイツだったのですね。東ドイツがあり、ポーランドもあります。

奥山)あとは全部、ソ連ではないですか。

バルト海の奥にはバルト三国があり、その上はフィンランドとスウェーデン ~冷戦時代、フィンランドとスウェーデンは中立でバルト海はソ連の海だった

飯田)奥に行けばバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)があり、その上はフィンランドとスウェーデンですね。西側のイメージがあります。

奥山)西側のイメージがあるけれど、実は中立だったのです。

飯田)冷戦時代は中立だった。

奥山)あとはオーストリアも中立でした。その意味で言うと、冷戦時代のバルト海はソ連の海だったのです。

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟で30年かけてバルト海を獲られてしまったロシア ~地政学的に大きな話

奥山)ところが冷戦が終わり、次々とNATOに加盟していきました。バルト三国は2000年代になってから入り、ロシアは息が詰まる状況になり、自分の海を獲られつつあるという意識を持っています。

飯田)なるほど。

奥山)そのようなところに今回、最後のワンツーパンチがきたのです。ウクライナ戦争が始まって、フィンランドもスウェーデンもNATOに入り、バルト海はカリーニングラードを除いて……。

飯田)飛び地がありますよね。

奥山)飛び地がありますが、基本的にすべてNATO側に入ってしまったのです。地理的、地政学的にも大きな話だと思います。

飯田)30年かけてオセロの白と黒がひっくり返ってしまったのですね。

奥山)そういうことです。しかも海ということなのです。

ロシアにとって裏庭に接しているバルト海は大事な海

奥山)ロシアのような国にとって、自国の裏庭にある海はとても大事です。例えば中国は、まず南シナ海を取り戻そうとしています。それが歴史的に中国の海かどうかは議論のあるところですが、実際に埋め立てを行っています。

飯田)岩を埋め立てて飛行場をつくっていますね。

奥山)自分の裏庭に接している海というのは、自分のものにしたいのです。ロシアは今回、フィンランドとスウェーデン、特にスウェーデンが西側に渡ることによって、海を失ってしまうのです。

バルト海を失ったロシアが残すのは黒海のみ ~黒海をキープするためにクリミア半島を侵攻

奥山)残すは黒海だけです。そうなると、ますますロシア側は必死になるのではないかと思います。

飯田)クリミア半島を何とか残さなくてはと考える。

奥山)維持しなければならないという動きをするでしょう。2014年から既に行っているのですが、今回はさらに必死に、自分の裏庭の海である黒海をキープしようという意思を固めるのではないでしょうか。

フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟することでバルト海から軍事的に外に出て行けないロシア

飯田)黒海から出ようとすると、その先にはトルコがいて、ボスポラス海峡を通らなくてはいけませんよね。

奥山)ボスポラス海峡とダーダネルス海峡もあり、そこを通らなくてはいけない。バルト海においては、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したことで監視対象のようになり、ロシアは軍事的に外へ出て行くことができません。もともと監視はされていますが、激しい動きを取れなくなりますので、かなり心理的なプレッシャーになると思います。

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