ウクライナが中国ではなく日本に復興支援を求める背景にある「汚職問題」

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二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が7月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7が発表したウクライナに対する共同宣言について解説した。

ウクライナが中国ではなく日本に復興支援を求める背景にある「汚職問題」

2023年5月21日、日ウクライナ首脳会談~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202305/21g7summit_ukraine.html)

G7、NATO首脳会議で共同宣言 ~ウクライナに長期の安全保障を約束

リトアニアの首都ビリニュスで開催された北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議で現地時間7月12日、先進7ヵ国(G7)はウクライナに対する永続的な安全保障上の支援を掲げた共同宣言を発表した。ウクライナに対し長距離ミサイルや戦闘機など近代的な防衛装備品の供与を続けるなどとし、ロシアに対抗できる持続的な防衛力を確保する。

ウクライナが求める「加盟できる具体的な道筋」は明示されず ~どれだけ頑張ればいいのかがわからない

飯田)NATO首脳会議にはウクライナのゼレンスキー大統領も招待されました。ある意味でNATOとG7、2つの枠組みからメッセージが出ていますが、全体を通してどうご覧になりますか?

合六)やはりNATOの加盟問題が大きな注目点だったと思います。その意味においては、ウクライナから見ると幻滅する結果だった。ウクライナが求めているのは、いますぐ加盟できなかったとしても、戦争が終わったあとに加盟できる具体的な道筋を示して欲しいということです。

飯田)具体的な道筋。

合六)しかし、主にアメリカやドイツがこれに反対し、「条件が整えば」という文言が入りました。この条件が何なのかが明示されていないので、ウクライナからすると、どれだけ頑張ればいいのかがよくわからない。

飯田)明示されていませんからね。

合六)そういう形で、やや妥協的な結果になりました。

G7の枠組みで各国がウクライナと2国間協定を結び、長期的な支援を継続

合六)今回、NATOへの加盟問題以外のところでは、アメリカやドイツも含め、ウクライナに対する安全をどう長期的に保障していくかが注目されていました。

飯田)そうですね。

合六)私が驚いたのは、G7という枠組みでまず宣言を出し、ウクライナに対して「長期的に支援する」と。各国がウクライナとの間で2国間協定を結び、それに基づいて長期的な支援を継続していくことが示されました。ここに関してはG7という枠組みです。

飯田)G7として宣言を出し、あとは個別に「2国間で行う」とされている。G7としては「お勧めする」「後押しする」というイメージなのですか? あとは個別具体的に、それぞれの国の事情があるということでしょうか?

合六)宣言をよく読むと、各国の法律や憲法などに合わせながら、各国とウクライナの間で内容を詰めていくということです。

飯田)各国の法律や憲法などに合わせて。

文章だけでなく、法的拘束力のある協定が欲しいウクライナ ~相手国内の批准を求める条約のようなもの

合六)他方、ウクライナからすると、文章だけの空約束はいらないわけです。できるだけ具体的に、そして法的拘束力があるものを欲していると思うので、どうしても条約のような形で、国内での批准を求めると思います。

飯田)相手国内の。

合六)そういった批准も見据えた内容をどこまで詰められるか、それを実現するためにどれだけ時間が掛かるのかが、これからの具体的な課題になると思います。

飯田)G7で考えると、おそらくその部分でいちばん堅いのは、憲法上の制約がある日本ですよね?

日本の役割は復興などに協力してウクライナの経済を強靭化すること ~「安全保障」を広く捉え、日本に対する期待は大きい

合六)まさに今回、日本が入るというところが注目点だと思います。他の国は既に殺傷兵器を提供しており、その都度アドホックな形で出しているわけですが、「政権交代が起こっても複数年拘束できるような協定を結ぶ」というのが趣旨なわけです。

飯田)政権が交代しても。

合六)日本は比較的、政治が安定している部分はあるのですが、逆に言うと殺傷兵器は出していないので、ここが論点にもなると思います。

飯田)そうですよね。

合六)ただ、安全保障という言葉をやや広く捉えていて、必ずしも殺傷兵器だけでなく、ウクライナの経済を強靭化することもロシアに対抗する上では必須です。それをどう支えるかという観点。例えば復興などは、経済にも関係してくるところですから、日本が果たす役割はあると思います。

飯田)前々からウクライナと日本の間で言われていたことも、まさに復興であったり、あるいは地雷除去の話などがあります。この辺りは日本に期待される部分が大きいのでしょうね。

合六)そうですね。やはりウクライナの専門家、あるいは非政府組織(NGO)の関係者を見ると、復興に対する日本への期待が高いです。

<岸田総理ウクライナ訪問>共同声明署名式 ~首相官邸HPより 

2023年3月21日、共同声明署名式~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/21ukraine.html)

復興で漁夫の利を得ようとする中国 ~ウクライナが復興に関して日本に入って欲しい理由

合六)一方で思い出していただきたいのは、今年(2023年)の初頭に中国がウクライナに対するポジションペーパーで立場を示したなかで、「中国として復興に関わっていく」と書いているわけです。

飯田)中国が。

合六)中国は現在、ややロシア寄りの立場を取りながら、最後は復興で漁夫の利を得ようとするかも知れないリスクがあります。

飯田)最後に。

合六)しかしウクライナ側には、中国が入ってくると、これまでの汚職に関して完全に克服できないと警戒する人もいるわけです。

クリーンな日本に改革支援もして欲しいという期待も

合六)つまり、日本が入ってくることによって、より透明な経済運営や透明な社会を一緒に実現してくれる可能性がある。そういう意味での期待感もあるので、単に「経済的に復興を助けてください」ということだけではなく、自分たち自身もこれまでの膿を出す。その上で日本にも改革支援をしてもらい、改革へ一緒に進んで欲しいという期待感があるようです。

飯田)なるほど。しかも「汚職を撲滅する」という部分は、NATO加盟の条件とも重なってくるわけですね。

合六)まさにそうですね。NATO加盟にも関わりますし、欧州連合(EU)への加盟にも関わってきます。

汚職が課題 ~汚職問題がある限り、NATOには加盟できない

飯田)ウクライナとしては、この機会に進められるものはできるだけ進めておきたいのでしょうか?

合六)そうですね。NGOのように、ウクライナの若い世代でEUやNATOに入りたいという改革マインドを持っている人たちからすると、これを機に社会の膿を一気に出したい考えもあると思います。一般の国民も、「戦争前に何が自分たちの生活を脅かしていたか」と聞くと、やはり「汚職」と答えているのですね。

飯田)汚職が生活を脅かしていたと。

合六)やはり汚職は課題です。ただ、ここまで残っているということは、得をしている人たちがエリート層にいるわけですよね。

飯田)現在もあるということは。

合六)それが常に政治に影響を及ぼしてきた部分があるので、ゼレンスキー大統領自身、汚職問題を克服できるかが注目されていると思います。まだまだ足りていないのでNATO諸国、あるいはEU諸国から注文が出ており、今回もバイデン大統領はその点について「いますぐウクライナをNATOに入れることはできない」と示しています。逆に言うと「努力してくれれば、その先の可能性は大きく広がってくる」という言い方をしています。

2014年以前は旧ソ連地域では露骨な汚職行為も

飯田)合六さんはウクライナにいらっしゃったことがあります。生活していて、汚職のようなものを感じることはありましたか?

合六)長年ウクライナに住んでいる人からすると、私が住んでいた2015年~2016年はだいぶ変わったと言っていました。例えば街中で車を運転していると、旧ソ連地域であれば、いきなり交通警察のような存在に止められて、「スピード違反をしていますよ」と言われる。全然違反していないのに、チケットを切られて「わかっているよね?」というような感じで示されるわけです。

飯田)違反していないけれど。

合六)私がカザフスタンへ旅行に行ったとき、まさに同じような状況に遭いましたが、こちらは日本円しか持っていないのです。カザフスタンは特に田舎だとなかなか両替所がないから、「日本円はいらない」ということで見逃してもらいました。

飯田)そんな経験があったのですね。

合六)ウクライナでは、まさに2014年のマイダン革命、親欧米派が立ち上がったと言われる革命によって、いろいろと警察改革も進んできました。そのときに日本も支援しており、警察車両にプリウスを提供しているのです。

汚職体質を改革しないとEUへの道もNATOへの道も開けない

合六)イメージから変えていこうと、制服もニューヨーク警察やロサンゼルス警察のような真っ黒な制服に変えていました。やはり一般市民の警察に対するイメージが「汚職」だったので、そういうところから変えていこうと前進はしているのです。しかし、大きなレベルで大きなお金が動く単位で、いわゆる「オリガルヒ」と呼ばれる人たちの影響力が強い。

飯田)新興財閥のような。

合六)それが政治に与える影響が大きいので、まさにG7は2014年以降のウクライナに対し、「そこを改革しないとEUへの道もNATOへの道も開けない」と。これは単にロシアという脅威だけでなく、汚職をロシアがうまく使って浸透してくるのだから、「あなたたちにとって外側の敵はロシアかも知れないけれど、同時に内側の敵である汚職も克服しなさい」と、欧米諸国はウクライナに対して言ってきたのです。

ウクライナが行う情報戦に関しては、日本も参考にするところは多い

飯田)今回の戦争における情報戦、あるいは浸透工作のような側面は、むしろ第三国に対するところが大きいような気もしますが。

合六)他の国において、ロシア・ウクライナが自分たちに有利な形で、いかにナラティブ(物語)をつくれるかという意味では、SNS、ツイッターなどをうまく利用している部分もあると思います。

飯田)SNSを使って。

合六)どういう語り口を提供できるか。しかも、いまの時代は映像も重要なので、TikTokなどをうまく活かしながら、総合力として情報戦を展開している部分はあるでしょう。

飯田)その辺りの手法などは、逆に日本も学ばなければいけない部分はありますね。

合六)日本は広報外交などといろいろ言われてきました。ただ、手段としてはやや保守的というか、なかなか切り出せていない部分があります。

飯田)広報外交において。

合六)もちろん各国の大使館などはうまくツイッターを利用しながら、現地の人々に対して日本の文化のよさなどを発信しています。あるいは日本の政治的立場、領土問題などに関してきちんと対応している部分はあるのですが、実際にそれが伝わっているかどうかを検証する必要があります。ますます各国との対立、特に中国などとの対立が激しくなっていくと、こういう側面も意識して、情報の方でも強化していかなければならないと思います。

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