ロシアがウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意の「履行停止」を発表した「2つの意図」

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慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が7月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアが発表したウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意の履行停止について解説した。

ロシアがウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意の「履行停止」を発表した「2つの意図」

ロシアのプーチン大統領は、ヤロスラヴリ州知事とのビデオ会議を開催 2022年8月3日 Mikhail Klimentyev/Kremlin Pool/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

ロシアがウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意の「履行停止」を発表

飯田)ロシア大統領報道官がウクライナ産の穀物輸出をめぐる合意について、「履行を停止した」と発表しました。ウクライナはヨーロッパ有数の穀倉地帯であり、黒海などで「穀物を輸送する船は襲わない」という取り決めをしていましたが、それを停止するという形になるのですか?

細谷)戦争が長期化する見通しが強くなってきたと思います。ウクライナ側は、先日行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、NATOからの支援が長期的に継続するという確約を得ました。一方でロシアは、今回のように合意の履行を停止するという形で、ジワジワとウクライナに圧力を掛けてくる。双方とも戦争が長期化する見通しのなかで、「相手にいかに圧力を掛けるか」が大きな目標になっているのだと思います。

グローバルサウスの国々に「食料が不足しているのはアメリカやNATOのせいだ」とし、世論戦で優位に立とうとするロシア

飯田)世界におけるウクライナの小麦の存在感は、相当大きいですよね。影響を受ける国はかなり多いのではないでしょうか?

細谷)いわゆるグローバルサウスと言われる国々が大きな不満を持っているのが、食料の不足です。ロシアはプロパガンダを通じて、「食料が不足しているのはアメリカのせいだ、ウクライナのせいだ」と言うわけです。

飯田)食料不足はウクライナやアメリカのせいだと。

細谷)今回もアフリカなどに届く穀物が減れば不満が溜まりますので、それをロシアは「アメリカやNATOのせいだ」とし、不満を拡大したい意向もあると思います。

飯田)グローバルサウスの声を味方にしたいというロシアの戦略なのですか?

細谷)まさに中国が言うところの「世論戦」であり、ロシアが優位に立つために、このような行動を取っているのだと思います。

ウクライナの経済にダメージを与える

飯田)船による輸送が止められてしまうと、あとは陸路で運ぶことになるのでしょうか?

細谷)戦争が長期化すれば、ウクライナが国の経済を保ち、国民を食べさせるために、穀物はまさに生命線です。ここを断たれると、ウクライナ経済にとって非常に大きなダメージになるということを、当然ロシアはわかってこのように判断したのだと思います。

クリミア大橋を攻撃することで国内、またはNATOに「ウクライナの反転攻勢が順調に進んでいる」とアピールする狙いのウクライナ

飯田)他方、7月17日にクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋が攻撃を受け、一部が崩落しています。報道ではウクライナ海軍などの攻撃だと言われていますが、以前にもありましたよね?

細谷)あのときは一部を攻撃しただけで、橋は損壊しましたが、完全に断たれる形ではありませんでした。ウクライナの戦略としては、反転攻勢によってアゾフ海に到達し、クリミア半島を孤立化させる狙いです。

飯田)クリミア半島を孤立化させる。

細谷)しかし、当初の想定よりも進行のスピードが遅れています。それを受け、おそらくクリミア大橋を攻撃することで、「ウクライナの反転攻勢が比較的うまくいっている」というイメージをつくりたいのかも知れません。

飯田)このような映像が出ることによって、ウクライナ国内にもアピールできる。そういう狙いもありますか?

細谷)その通りです。国内に向けてもそうですし、NATO加盟国に対してもそうです。この戦争が長く続くことになると、途上国のなかには支援を躊躇する国も増えてくるでしょうから、今回のような攻撃によって「クリミア半島を孤立化させることができるのだ」とアピールする。そういう政治的な意図も含まれていると思います。

難しい判断だったアメリカのクラスター弾供与

飯田)西側はさまざまな形で支援していますが、アメリカは先ごろクラスター弾の支援を、人道的には悩みながらも決断しました。

細谷)NATO加盟国のなかからも批判が出ています。一方で、これをもしウクライナが用いれば、ロシア側も使用すると言っています。ウクライナの反転攻勢の遅れを突破する上で、クラスター弾が大きな意味を持つことになるのです。アメリカは禁止条約に加盟していませんが、イギリスもこれに対してはやや苦言を呈しています。

飯田)イギリスも。

細谷)軍事的な効率性を優先することと、政治的な国際社会の支持を維持する。この2つの要素が今回のような形で矛盾したときは、とても判断が難しいと思います。

飯田)小型爆弾が広範囲に撒き散らされ、その全部が起動するわけではなく、不発弾が残ってしまう。戦後も含めて禍根を残すところが、人道的に批判されているようですね。

細谷)そうですね。

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