国際社会の対立構造のなか、日本が湾岸諸国への関与を深めることの「意義」

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慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が7月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理とUAE・ムハンマド大統領の会談について解説した。

国際社会の対立構造のなか、日本が湾岸諸国への関与を深めることの「意義」

2023年7月17日、歓迎式典~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202307/17uae.html)

岸田総理大臣がUAE大統領と首脳会談 ~脱炭素化に向け協力強化を発表

中東を歴訪中の岸田総理大臣は7月17日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビでムハンマド大統領と会談し、気候変動対策に関する共同声明を発表した。UAEは2023年11月~12月に行われる「国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)」の議長国。17日の共同声明では、「脱炭素化やクリーンエネルギー関連の協力を強化し、COP28の成功に向けて国際社会を主導する」と表明した。

世界のお金と情報と政治権力が集まり、世界の中心になりつつある湾岸諸国

飯田)7月16日にサウジアラビア、17日にUAE、18日にカタールを訪問し、19日に帰国する予定です。一連の訪問について、どうご覧になりますか?

細谷)とても重要な訪問です。湾岸諸国が世界の中心になりつつあります。いまカタール、UAE、サウジアラビアには世界のお金、あるいは情報が集まり、政治権力も集まっています。

飯田)カタールとUAE、サウジアラビアに。

細谷)去年(2022年)の12月にアブダビへ行ったのですが、同じ時期に習近平国家主席がサウジアラビアを訪問していました。言ってみれば、国際金融センターのようになっているのです。もともとドバイが有名でしたが、近年はアブダビも中心となっています。

アブラハム合意によって一気に再編が進み、サウジアラビアやUAEがこの地域の大国として影響力を拡大

細谷)日本ではあまり報道されていませんでしたが、2020年9月にいわゆるアブラハム合意が結ばれ、長年の対立関係にあったUAEとイスラエルが和解しました。

飯田)アブラハム合意。

細谷)それによって一気に地域の再編が進み、サウジアラビアやUAEがこの地域の大国として影響力を拡大しました。2022年12月、私が大統領官邸の宮殿「カスールアルワタン」を訪問した際、イスラム研究の池内恵さんに案内していただきました。ここはチケットを購入すれば入ることができます。

岸田総理の訪問によってこの地域のパワーポリティクスに日本も加わり、関係を構築するいい機会に

飯田)東大の先端科学技術研究センターの方ですね。

細谷)議場や、会談用の部屋も見ました。岸田総理は今回、そちらへ行っています。世界の金融センターになっているアブダビ、ドバイ、カタールのドーハ。秋にはCOP28が開かれますが、UAEは議長国ですから、それがおそらく話の中心になっていると思います。

飯田)議長国として。

細谷)この地域を単に産油国や資源国として見るのではなく、金融センターでお金が集まり、さまざまな最新情報や政治的な動向も集まっていると考える。そこに日本が関与しないのはデメリットになります。今回、岸田総理が訪問することで、ようやくこの地域のパワーポリティクスに日本も加わり、いろいろと関係を構築していくいい機会だと思います。

アメリカがこの地域から撤退していった力の真空に中国とロシアが進出

飯田)この地域に関して、アメリカは軍事的なプレゼンスはもちろんありますが、政治的な部分において、バイデン政権はサウジアラビアとの関係が微妙なように見えます。この辺りはいかがでしょうか?

細谷)イラク戦争のあと、アメリカがこの地域から徐々に撤退しています。そのため力の真空ができ、そこに入ったのが中国やロシアです。

地域大国であるサウジアラビア、UAEがこの地域で影響力を拡大 ~中国を向くサウジアラビアのムハンマド皇太子

細谷)いまは逆に、むしろ地域大国であるサウジアラビアやUAEがこの地域で影響力を拡大しつつあります。日本の中東政策は、どうしてもエジプトやシリアなどの方へ目が向いてしまいます。

日本もプレイヤーとして影響力を拡大することが望まれる

細谷)湾岸地域が世界政治の中核となりつつあるので、積極的に関与していく。特にサウジアラビアのムハンマド皇太子は、アメリカとの関係が悪化し、いまは中国に向いています。

飯田)そうですね。

細谷)中国は資源の面もあれば、国際的な影響力も含めて、この地域に対する関与を深めています。今回の岸田総理の訪問によって、日本もプレイヤーとして徐々に影響力を拡大していくことが望ましいと思います。

国際社会の対立構造のなかで、日本がこの地域に関与を深めることは意義がある

飯田)今回、訪問はしませんが、1つのキーになってくるのはイランの存在だと思います。サウジアラビアとイランの和解に関しては、最終的に中国が仲介するような形で出てきましたが、イランとの関係性はどうなっていくのでしょうか?

細谷)結局、イランは今回のウクライナ戦争でも、アメリカとは一線を画しています。敵対関係にありますので、もちろん国交もありません。ドローンなどでロシアを支援するような動きを見せています。

飯田)そうですね。

細谷)イランは中国やロシアに近い。またサウジアラビア、UAE、カタールは巧妙にバランスを取って、どの大国とも良好な関係を維持しようとしています。

飯田)サウジアラビアやUAE、カタールは。

細谷)ロシアや中国、アメリカ、もちろん日本もそうですが、どの国とも良好な関係を保とうとしているので、中国のように積極的にこの地域へ関与すれば、関係が強化されるわけです。むしろ、アメリカはUAEとの関係もそうですが、とりわけサウジアラビアとの関係がよくありません。

飯田)アメリカは。

細谷)アメリカの関与が後退したことで、この地域がロシア・中国への傾斜を強めている面はあると思います。これらの諸国が国際社会、例えばウクライナ戦争において、グローバルサウスとしても注目されていますが、湾岸諸国は国際金融センターでもあります。国際社会の対立構造のなかで、日本が関与を深めることには意義があると思います。

飯田)クリーンエネルギーや技術的な面で協力できるところも大きいですか?

細谷)先ほども言ったように、この地域はお金に余裕があります。特にAIなどのテクノロジーを積極的に導入しようという動きが見られます。日本もそこに協力するべきだと思います。

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