単独テロ犯「ローンオフェンダー」の犯罪をどう防ぐか 京都アニメーション放火殺人事件から4年

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ジャーナリストの佐々木俊尚が7月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7月18日で4年が経過した京都アニメーション放火殺人事件について解説した。

単独テロ犯「ローンオフェンダー」の犯罪をどう防ぐか 京都アニメーション放火殺人事件から4年

【京アニ放火容疑者逮捕】伏見署に到着した容疑者=2020年5月27日午前8時9分、京都府伏見区 写真提供:産経新聞社

京都アニメーション放火殺人事件から4年

36人が死亡した2019年の京都アニメーション放火殺人事件から、7月18日で4年となった。京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオがあった場所では、事件が起きた午前10時半ごろから、遺族や関係者が亡くなった36人に祈りを捧げた。殺人などの罪で起訴された青葉真司被告(45)の裁判員裁判は9月から始まる予定で、弁護側は刑事責任能力について争うとみられている。

飯田)京都アニメーションの八田社長は「何年過ぎようと気持ちは変わらない」と語っています。

佐々木)容疑者が全身にやけどを負って病院で治療しているため、まだ裁判は始まっていないのですよね。極刑を言い渡される可能性も十分あると思いますが、それでも必死に救うという医療従事者の方々の献身的な行為には、本当に頭が下がるのみです。

飯田)そうですね。

佐々木)このような事件を起こした人間でも、「救い、きちんと裁判を受けさせなければならない」というところは法治国家、日本の素晴らしいところだと思います。

飯田)法においてきちんと裁く。そして原因究明についても、青葉真司被告が亡くなってしまっては聞き出すこともできなくなります。

組織的なテロではなく、ローンオフェンダーによる犯行が多発

佐々木)このような単独犯のことを最近、警察庁は「ローンウルフ」とは言わず「ローンオフェンダー」、孤独な攻撃者というような意味でしょうか……そういう言い方をしています。

飯田)ローンオフェンダー。

佐々木)テロと言うと、政治的あるいは宗教的な理由などがないといけないけれど、最近の日本では自分と直接関わりのない人を、無差別に殺害するような事件が多発しています。

飯田)かなりありますね。

佐々木)秋葉原無差別殺傷事件もそうでした。いろいろ法廷で発言していますが、「掲示板を荒らされた」というような理由で、何を言っているのかよくわからないところがある。

組織的なテロリストに対しては公安警察が行動確認して見張り続ける ~個人のローンオフェンダーには有効ではない

佐々木)日本の場合、かつての日本赤軍や連合赤軍、あるいは東アジア反日武装戦線、オウム真理教などの組織的なテロリストに関しては、公安警察が「何かやらないか」とずっと行動確認するやり方で対応しています。

飯田)公安警察が。

佐々木)それが日本の伝統的なやり方で、FBIなど、各国も同じだと思います。ただ、「組織を行動確認して見張り続ける」という公安警察のやり方は、組織テロには有効でも、個人のローンオフェンダーに対しては有効ではありません。

飯田)ローンオフェンダーには。

佐々木)まず、どこから出てくるかわからないし、何を理由にしているのかわからない。そういう意味で警察も「防ぐのは非常に難しい」というようなことを前から言っています。

単独テロ犯「ローンオフェンダー」の犯罪をどう防ぐか 京都アニメーション放火殺人事件から4年

京都アニメーション放火殺人事件から4年 第1スタジオ跡地で行われた追悼式後、会見に臨む八田英明社長=2023年7月18日午前11時55分、京都市伏見区(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

京都アニメーション放火殺人事件などのようなローンオフェンダーによる犯行を防ぐことは難しい

佐々木)日本の場合、オウム真理教もありましたが、70年代の組織テロの時代以降は、ローンオフェンダー的な事件が圧倒的に多い。実際、安倍さんや岸田さんの事件もローンオフェンダーによる犯行でした。

飯田)そうですね。

佐々木)政治家などの要人であれば、安倍さんと岸田さんの2つの事件の教訓で、聴衆と政治家の距離を離すなどという対応ができるのだけれど、京都アニメーション放火殺人事件のように、誰も予想していない犯行に対しては守りようがない。かなり難しい問題が起きているということです。

安全性の確保のために、新幹線に乗る際も改札で時間を掛けて手荷物検査を行うべきか ~治安維持と生活の利便性のバランスをどう取るか

飯田)最近でも、電車内で刃物を振り回すような事件が起きています。それを防ぐためには、社会全体の安全とプライバシーとの天秤になるのか。

佐々木)相模原の障害者施設で起きた事件もありました。

飯田)19人の方が亡くなりました。

佐々木)例えば、新幹線で事件が起きるのなら、新幹線に乗るときも、飛行機に乗る際と同様の金属探知機などの防犯設備をつくる必要があるのかどうか。

飯田)手荷物等をチェックする。

佐々木)それをやると今度は、生活の利便性が著しく下がってしまう。新幹線に飛び乗ることはできず、30分くらい東京駅の改札で待たなければいけないとなると、みんな困るわけでしょう。

飯田)困りますね。

佐々木)そのバランスを考える必要があります。我々の生活の利便性と、事件が起こらないようにするための治安維持とのバランス。しかし、この議論はしにくいのですよ。「そうは言っても、こんなにたくさんの人が死んでいるではないか」と言われてしまうと、それに対して反論しにくい問題があります。

飯田)それに対しては。

佐々木)特にメディア空間のなかでは、亡くなった方がいるということは重い事実なので、その重い事実に対し、「そこまでやる必要はないだろう」とは言えません。

飯田)そうですね。

佐々木)でも、治安を高めるためにやらなければいけないことを進めると、我々の生活が苦しくなるという現象も逆に起きてしまう。ここは冷静に議論しなければいけないのではないかと思います。

諸外国と比べても治安がいい日本

飯田)確かに諸外国のなかには、ショッピングモールに入るにも手荷物検査が必須な国もあるようです。

佐々木)日本は、時折起こるローンオフェンダーによる事件の被害者が多く、内容も衝撃的なのだけれど、治安全体で言うと刑法犯あるいは凶悪犯も含め、諸外国に比べて事件はものすごく少ないのです。

飯田)他国と比べると。

佐々木)日本でこのような犯罪が多かったのは昭和20年代の戦後の混乱期で、当時と比べても殺人事件の数などは、2桁ぐらい減っている印象です。しかし、それが突発的な凶悪事件でかき消されてしまい、治安が悪くなったようなイメージになる問題もあるのかも知れません。

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