日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が8月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。キャンプデービッドで開かれる日米韓首脳会談について解説した。
日米韓でホットライン開設へ
米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は、ワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドで8月18日に開く日米韓首脳会談で、緊急時に3ヵ国の首脳や政府高官が直接連絡を取り合うホットライン(専用回線)の設置を発表すると明らかにした。
日米韓首脳会談を定例化し、ホットラインも設けて揺らぐことのない制度設計を行う
秋田)これまでも日米韓では、何かの国際会議のついでに首脳が会い、何かを合意するようなことが行われてきました。しかし、今後は首脳会談を定例化するということです。
飯田)定例化で合意する見込みです。
秋田)制度として日米韓が離れられないくらい固定化し、協力を進めていく。その象徴が3ヵ国間のホットラインを設けてしまうことです。後退りしないような制度設計を行うところに大きなポイントがあると思います。
日米韓首脳会談が定例化されるのは「日韓の関係が改善した」から
飯田)文在寅政権から尹錫悦政権に代わり、対日政策が変わったと言われます。「今後、逆も起こり得るだろう」というところが念頭にあるわけですか?
秋田)まず今回、日米韓首脳会談が行われる最大の理由は、「日韓関係が改善した」ということです。
日韓関係が改善したのは、中国の台頭によって「協力せざるを得ない状況になった」から ~日米韓で結束しなければ中国からの挑戦に対応できない
秋田)日米、米韓はこれまでも緊密だったわけですから、「日韓関係の改善」がまさに今回のニュースなのです。ただ、歴史問題が解決されて仲よくなったわけではなく、その問題があっても「日韓が協力せざるを得ない状況になった」ということです。
飯田)協力せざるを得ない状況に。
秋田)ある意味では、国と国の指導者が仲よくなったから協力するのではなく、協力しなければいけない共通の脅威が出てきたときに、仲が悪くても手を組むというパターンだと思います。
飯田)仲が悪くても手を組むパターン。
秋田)第二次世界大戦前のスターリンとルーズベルトの場合も、ソ連とアメリカは別に仲よくなったから組んだわけではなく、ナチスドイツと戦うために手を組みました。
飯田)スターリンとルーズベルトの場合は。
秋田)1972年に、水と油の関係だった当時のニクソン大統領と毛沢東主席が手を組んだのも、ソ連に対抗するためなのです。いま日韓も含め、日米韓が手を組んでいるのは、当面の名目的には北朝鮮の脅威があるけれど、いちばん大きいのは「3ヵ国で結束しなければ中国からの挑戦に対応できない」ということです。中国の台頭を受けて日韓が接近しているのだと思います。
中国と地続きで後ろから刀を突きつけられている韓国と、海を隔てている日本では、中国への見方は同じではない
飯田)中国への向き合い方ですが、韓国はそのときの政権によっても変わるところがあるし、中国に対してビジネスでも突っ込んでいます。日米と比べて、その辺りの温度差はありますか?
秋田)もちろんあります。脅威感や対外安全保障観が一緒になってしまったら、1つの国になってしまいます。韓国は中国と地続きでつながっていて、北朝鮮の後ろでは中国が支えているわけです。背中に刀を突きつけられた地理にある韓国と、海で隔てられた日本では、中国に対する見方は同じにはなりません。
中国の台頭が日韓を近付けている
秋田)ただ、それでも水と油ほどの違いではなく、富士山で言えば6合目と7合目ぐらいの差に縮まってきていると思います。
飯田)日韓の違いは。
秋田)差が縮まってきたから、今回の中国を睨んだ日米韓の協力が生まれてきた。その意味では、「かなり変わってきた」と感じます。これは我々が変わったのではなく、習近平政権になって中国側が軍事拡大し、強硬な外交を進めたことで、このような状況を中国が招いているというのが本質的なところだと思います。
かなり制度設計された3ヵ国協力に踏み出した
飯田)首脳会談を定例化し、経済安全保障に関して供給網情報を共有するという報道もありますが、ジャンル的にも多岐にわたりますね。
秋田)そういう意味では経済安全保障、さらには首脳間のホットライン、軍事演習の定例化など、かなり制度設計された3ヵ国協力に踏み出したのでしょう。
3ヵ国で共同設計して建てた共通の家が「選挙という津波」に耐えられるかどうかが今後の焦点
飯田)韓国は大統領が代わってからそれほど時間が経っていないので、ここで固めようということだと思いますが、一方、アメリカでは11月ごろから大統領選が本格化します。
秋田)まさに日米韓が共同設計で共通の家を建て、「協力していこう」という話なのですが、これで完全に終わるわけではなく、最大の敵や脅威は選挙だと思います。
飯田)選挙。
秋田)まずは来年(2024年)に韓国で総選挙があります。現在、既に国会は韓国の野党が過半数を持っています。
飯田)「共に民主党」が。
秋田)韓国の半分の有権者が野党を支持しているとすれば、野党は日韓協力について非常に革新的な人たちなので、日本との協力に対しては批判的なわけです。
飯田)野党を支持する有権者は。
秋田)その半分を抑え込み、尹政権はいまの路線を取っている。さらに来年の11月には、トランプ前大統領がまた当選するかも知れません。彼の考え方は、バイデン政権とは違った同盟観なわけです。
飯田)トランプ氏は。
秋田)従って今回、3ヵ国で共同設計して建てた共通の家が、選挙という津波に耐えられるかどうか。今後3年間を見た上では、それが大きな焦点だと思います。
「選挙の波」に耐えられるように多岐にわたる制度設定を構築
秋田)逆に言えば、「それに耐えられるようにしなければいけない」というところから逆算して、こういう制度設計にしたのだと思います。
飯田)ジャンル的に「多岐にわたる」というのも、崩れるところはあるとして、「全部が崩れるようなことはない」ということでしょうか?
秋田)「リセットできないように建ててしまえ」という意味合いではないかと思います。
日米が組むことは想定内だが、「米韓同盟」が「対中同盟」に拡大することは避けたい中国
飯田)中国はそれに対してメッセージを出してきている。選挙となると、いろいろな工作を行うことも考えられますか?
秋田)中国からすれば尖閣問題もありますし、日米が組むことは不愉快だけれど、想定していると思うのです。日本には米軍基地がありますし。
飯田)日米が組むことは。
秋田)ただ、中国は「米韓同盟はあくまでも北朝鮮対応」としておきたいのです。米韓同盟が「対中同盟」に拡大することは避けたい。
未だに中国から事実上の経済制裁を受けている韓国 ~それによって悪くなる韓国世論の対中感情
秋田)今回、日米韓の結束によってその動きが始まると、中国は韓国に対し、さまざまな圧力をより強めていくと思います。
飯田)高高度防衛ミサイル(THAAD)配備のときも、韓国企業に対して、中国国内での活動を制限する動きなどがありました。
秋田)鶏と卵の話ですが、韓国はそのときに発動された事実上の経済制裁を、未だに受けているわけです。
飯田)続いている。
秋田)韓国の専門家に話を聞くと、「だから韓国の対中世論が悪くなっている」と言います。その結果、「中国はやはり危ない存在だ」と思う。韓国世論がそうなるなかで、韓国が日米に傾斜していく傾向が生まれているのです。中国がまた圧力を掛ければ、さらにその循環が強まっていくのではないでしょうか。
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