中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也と元経産省官僚で政策アナリストの石川和男が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月29日に行われた岸田総理とウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談について解説した。
岸田総理、ゼレンスキー大統領と電話会談 ~支援継続の方針伝える
岸田総理大臣は8月29日、ウクライナのゼレンスキー大統領と約20分間の電話会談を行った。総理はロシアが侵略を続けていることを重ねて非難し、支援を継続する方針を伝えた。
飯田)NATOの基金を通じて資金を拠出する仕組みの進捗状況などを説明したそうです。日本はG7広島サミットにおいて、議長国としてウクライナ支援の強化を訴えました。ゼレンスキーさんも広島に直接来ました。
「G7のときだけではないか」と言われないためにもグローバルサウスへの働きかけを進める日本
野村)広島にはいわゆるグローバルサウスと言われる国々の首脳を招き、NATO側につくことを確保しようとしました。
飯田)インドやベトナムなど。
野村)そのフォローアップのためにしっかり動かないと、「結局はG7の時期だけの話ではないか」となりかねません。だから今回、一生懸命グローバルサウスに働きかけているのだと思います。
飯田)グローバルサウスへの働きかけを。
野村)また、プリゴジン氏の問題があり、戦況が読めず不安定になってきている。「ここで固めなければいけない」という部分もあると思います。
「NATOの基金を通じて資金を拠出する仕組み」を使うことは「西側陣営として、アメリカだけではなく、欧州も巻き込んでいく」という強かな日本の戦略
石川)外交は貸し借り関係であり、「相手がやってくれたから自分もやる」ということです。当然、日本とウクライナの2国間の関係もあります。これをどのように受け止めるか。国際的な話で言うと、対ロシアです。ロシアにとっての敵陣営たる西側に、きちんと日本を位置付ける形でアピールする狙いがあると思います。もう1つの狙いは、お金の出し方です。
飯田)お金の出し方。
石川)「NATOの基金を通じて」ということは、NATO陣営として出すお金になるわけです。お金には色があるのですよ。
飯田)色がある。
石川)日本がNATOの基金を通じて(支援を)行えば、「日本のお金はNATOのお金」としてウクライナ側は受け取るわけですし、外国から見たらそう見える。まさに軍事的な話ですよね。
飯田)軍事的な話。
石川)日本の安全保障を含め、NATOに入っていなかった日本が、「NATO陣営にきちんと行く」ということを示す。日本を取り巻く国際的・軍事的な脅威……簡単に言えば中国とロシアです。その脅威に対して、「日本は西側陣営として、アメリカだけではなく、欧州も巻き込んでいく」という強(したた)かな戦略が多分ある、と期待しています。
飯田)逆に、「アジアで何かあったときは君たちも頼むよ」という貸し借りもある。
石川)そのための関係づくりとして、NATOの信託基金を通すやり方は1つの入り口になります。こういったことが今後、日本が進める安全保障面からの外交戦略において、1つの柱になっていくのではないかと思います。
「ウクライナ戦争に対して、日本がどういう姿勢を示しているのか」を見える形で示すことが外交戦略的に重要 ~アジア太平洋地域で有事が起こったとき、日本側に立ってもらうために
野村)外交面では、いまのEU諸国はイギリスも含めて、「中国詣で」がまた始まっているわけです。
飯田)イギリスの外相が中国を訪問するという話もあります。
野村)いろいろと批判しても「0対100」にはできないから、それぞれ中国といろいろな付き合いをしているわけです。そのなかで、アジア太平洋地域で有事が起こったとき、「本当に日本側に立ってくれるかどうか」を考えておく必要があります。例えば、「NATOの連絡事務所をつくる」という報道でもネガティブな意見が出てくる。
飯田)フランスが反対しましたね。
野村)そういう状況で地盤を固めるためには、「ウクライナ戦争に対し、日本がどういう姿勢を示しているのか」を見える形にしなければいけない。それがいま、外交戦略的に重要だと思います。
ウクライナとの2国間安保 ~憲法上、「何がどこまでできるのか」ということを再度、見直す必要がある
飯田)NATO首脳会議があったリトアニアのビリニュスで、G7各国がそれぞれ、ウクライナとの間に安保協定を結ぼうという話を打ち出しました。そこで岸田総理は議長として発表した。そして今回、ゼレンスキー大統領は会談後、2国間安保に関しても「進展を期待している」と話しています。憲法上の問題も含めて、いろいろと工夫が必要ですか?
野村)難しい部分がたくさんあります。今後、議論として考えなければいけないのは、日本の安全保障に関する位置付けです。
飯田)安全保障に関する日本の位置付け。
野村)必ずしも書いていないことだけれど、不文律として存在するものはいくつもあるわけです。「何がどこまでできるのか」を再度、丁寧に見直す必要があります。
飯田)何ができるのか。
野村)例えば武器に関しても、輸出について法律でガチガチに書いてあるわけではないけれど、「これまでルールとしてこう決めていた」という、決まり事のようになっている部分があります。そういうところをもう1回、きちんと見直せるかどうか。それがないと先に進まないと思います。
ウクライナ・ロシア戦争を使って「日本国内の懸案事項」をどう解決するか ~憲法改正に結び付けることも
石川)ロシア・ウクライナ情勢は、はからずも外国で起きた戦争ですよね。そして、日本にも影響がある。エネルギーコストに関しても大きな影響があったわけです。安全保障として考えると、日本政府あるいは日本の政権与党は、今回のように「外国で起きたこと」をだしに使って、「日本国内の懸案事項をどう解決するか」を考えるべきです。
飯田)ウクライナ戦争をだしに使って、国内の懸案事項を解決する。
石川)言い方がよくありませんが、そのきっかけが転がっているのです。
飯田)防衛費の話などは、まさにそうですよね。
石川)防衛費もそうだし、極端なことを言えば憲法改正も含め、「そこに結びつけていく」という強かさが、本当はあってしかるべきなのです。いまも憲法の話があったではないですか。そういうことは、よほどのきっかけがないと国民的に進まないですよ。
飯田)そうですね。
石川)既に考えているでしょうが、リスクやクライシスをうまく使って「日本をどのように前へ進めていくか」という部分については、まだ弱いと思います。ぜひ今回のウクライナ・ロシア戦争を契機に、「日本としてどうするか」という前向きな議論を進めて欲しいです。
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