東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮が8月30日夜に発射した2発の弾道ミサイルについて解説した。
北朝鮮が弾道ミサイル2発発射、EEZ外に落下
飯田)8月30日の夜遅くに、北朝鮮が日本海へ向けて弾道ミサイル2発を発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)の外に落下しました。「夜に撃った」ということも含めて、どうご覧になりますか?
米韓合同軍事演習の「裏番組」として粛々と自分たちで行う軍事演習 ~政治的デモンストレーションというよりは
小泉)350キロ~400キロぐらいのところに落ちたという話なので、明らかに短距離弾道ミサイルか、北朝鮮が「超大型放射砲」と呼んでいる多連装ロケット砲の親分のようなものですね。
飯田)超大型放射砲。
小泉)どちらも成功率は比較的高く、安定した性能を発揮しているミサイルです。政治的デモンストレーションというよりは、彼らなりに「粛々と訓練を行っている」ということではないでしょうか。米韓合同軍事演習の最中ですから、「裏番組」として北朝鮮も……。
飯田)裏番組として。
小泉)演習を牽制するための政治的デモンストレーションの部分と、「裏番組」として自分たちで粛々と行う軍事演習の部分があり、今回の発射は粛々と行う方なのではないかという印象を持っています。
飯田)今回のミサイル発射は。
小泉)ただ、これから何か追加のコメントなどを北朝鮮が出してきた場合、判断が変わるかも知れませんが。
飯田)いまのところの情報によると、ということですね。
朝鮮半島内で使うものから米本土に届くものまで、ターゲットを絞って、それぞれ開発
飯田)今回のミサイルは、射程距離もさほど長くなく、基本的には対在韓米軍や韓国軍向けというようなイメージですか?
小泉)そうだと思います。北朝鮮はやみくもにミサイルをつくっているわけではありません。明らかに1つひとつ、ターゲットが想像できるものをつくるのです。朝鮮半島内で使う射程の短距離ミサイルや、日本を標的にした準中距離弾道ミサイルなど。
飯田)ターゲットを想定して。
小泉)これはグアム用、これはハワイ用、これは米本土まで届くミサイル……と、ターゲットを絞って開発しているのでしょう。もともと朝鮮半島内で使えるミサイルは、相当前から自力でつくれていました。エジプトからソ連製スカッドのサンプルをもらい、そこから発展させたものは昔からありました。
1つの開発が終われば、次には1つ上の段階に移る ~今後もミサイル開発は継続する
小泉)最近だと、ただ飛ぶだけではなく、迎撃しにくいように軌道を変更できるミサイルを、ロシアの技術を入れて開発している。開発がスパイラル状なのです。
飯田)スパイラル状。
小泉)1サイクルで全部欲しいものをつくったら、今度はもう1つ上のサイクルに移る。射程は同じなのだけれど、さらに性能の高いもの、あるいは核弾頭を積めるものというように。
政治的情勢が許せばどこかで7回目の核実験の可能性も
小泉)2021年に北朝鮮は、国防5ヵ年計画を出しています。
飯田)国防5ヵ年計画。
小泉)このなかに「核兵器の戦術兵器化」という項目が入っているのです。つまり今回飛ばしたような短距離弾道ミサイルに、核弾頭を積めるような状態を目指すと思うので、今後もミサイル開発の訓練を行うでしょう。また、どこかで政治的情勢が許せば、7回目の核実験もしたいのではないかと思います。
飯田)北朝鮮の兵器がロシアに渡り、ウクライナ侵略にも使われているというような報道もあります。今回の発射は「夜も使えるし、短距離でも使える」というデモンストレーション的な意味もあったのでしょうか?
小泉)対ロシアということではないと思いますが、韓国や日本、米軍が見ていることは当然、わかっているでしょう。ただ、弾道ミサイルなので、基本的に撃ったあとは自分で飛んでいきますから、夜であるかどうかは関係ないと思います。
アメリカ本土に届くミサイルをさらに進歩させたICBMを開発 ~一方で朝鮮半島内で戦える戦術核兵器の開発を目指す
小泉)私は北朝鮮の専門家ではありませんが、仮に私が朝鮮人民軍の参謀総長だったら、いざという場合に、アメリカが介入してこないための抑止力が欲しいですよね。
飯田)アメリカが介入してこないための。
小泉)北朝鮮は2017年のミサイル危機中に、初めてアメリカ本土まで届く実用型ミサイルの実験に成功しています。また今年(2023年)は「火星18」という固体燃料型の、さらに進歩したICBMをつくっています。
北朝鮮にとって、戦術核兵器は「抑止の兵器」ではなく「戦う兵器」
小泉)他方、その間に朝鮮半島内では、本当に核弾頭を炸裂させながら戦う能力を、おそらく本格的に目指し始めているのだと思います。戦術核兵器は「抑止の兵器」ではなく「戦う兵器」なので、戦術核兵器化を目指すというのは、そういうことなのです。
飯田)戦術核兵器を目指すということは。
小泉)一応は戦術核兵器で戦える能力を持ち、抑止力にもするという前提で進めているけれど、従来に比べると、戦える能力自体が上がってしまうわけです。
アメリカの介入を抑止するために軍事レベルを高めようとする北朝鮮 ~そう思わせないような抑止の体制をつくらなければならない
小泉)北朝鮮はアメリカ本土において、かなりの死者数を出す能力を持っている。つまり大陸間弾道ミサイルと、それに積める実用型の核弾頭を持っていることを考えると、例えば北朝鮮が「アメリカは簡単に介入してこないだろう」というような計算をする可能性が出てくるわけです。
飯田)その能力を持っていれば抑止になると。
小泉)それに対して、「それは無理だ。絶対にアメリカも介入してくるし、何発も核爆弾を爆発させても人民軍は勝てない」と思わせるような抑止の体制を、今度はこちら側も考えなければいけないわけです。
飯田)北朝鮮に対して。
小泉)しかも、いたずらにただ軍拡すると緊張が高まり、どこかで破断してしまう可能性があるので、そうならないように注意しつつ「無理だ、やめようね」と示す。できれば「どこかで軍備のレベルを一緒に下げよう」というようなところまでセットで考えるべきなのです。
「台湾海峡と朝鮮半島の複合有事」というさらに嫌なシナリオの可能性も ~日韓の連携は死活問題になる
飯田)日米韓首脳会談の宛先は「中国だ」ということも言われますが、やはり北朝鮮に対して「この3ヵ国は一体なのだ」と見せることは大事ですか?
小泉)それも確実にあると思います。特に中国に関して、日本と韓国には温度差がありますが、北朝鮮に関しては、どちらも間違いなく脅威だと思っているので協力できる。北朝鮮がミサイルを撃つと韓国軍の発表も出るし、日本の防衛省の発表も出ます。
飯田)そうですね。
小泉)同じものを見ている関係なので、やはり同盟国として振る舞えた方が、準軍事的には絶対にいいのです。対中ばかりではなく、今回はそういうことを考えても意味があったと思います。もっと言えば「台湾海峡と朝鮮半島の複合有事」という、さらに嫌なシナリオもあるわけです。
飯田)複合有事が。
小泉)そのときに日韓で連携が取れるかどうかは、死活問題だと思います。
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