【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1135回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、現在公開中の話題作『こんにちは、母さん』と『春に散る』をご紹介します。
映画館で観たい!『こんにちは、母さん』 ~山田洋次監督が描く、令和の親子の絆
『男はつらいよ』シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』など、数々の名作を世に送り出してきた日本映画界の巨匠・山田洋次監督。
91歳にして90作目となる最新作『こんにちは、母さん』は、東京・下町に生きる家族の物語。
原作は、永井愛の同名戯曲。目まぐるしい変化を繰り返す現代において、決して変わることのない親子の絆が情感豊かに紡がれた人間ドラマです。
『こんにちは、母さん』のあらすじ
大企業の人事部長として働く、神崎昭夫。職場でのトラブルに神経をすり減らし、家庭では妻との別居問題や大学生の娘・舞との関係性に頭を悩ませる日々を送っている。
ある日、野暮用から東京下町にある実家を訪れた昭夫は、母・福江の変化に気づく。ヘアスタイルはショートヘアに。いつもは割烹着姿だったのに、華やかなファッションに身を包んでいる。
ボランティア活動に勤しみ、どうやら、教会の牧師さんに恋心を抱いているようだ。
これまでとは違う母の姿に、戸惑いを隠せない昭夫。しかし、生き生きと過ごす母と接するうちに、自分が見失っていた大切なことに気づかされていく……。
『こんにちは、母さん』のみどころ
主演を務めるのは、日本を代表する名女優・吉永小百合。これまでさまざまな作品で“日本の母”を演じてきた吉永小百合ですが、本作では自身初のおばあちゃん役に挑戦。
まるで恋する乙女のような表情は初々しく、あまりの愛らしさに思わずうっとり。年齢を重ねても自分らしさを大切にする福江を、チャーミングに体現しています。
そして息子・神崎昭夫役には、国民的人気を誇る俳優・大泉洋。
仕事、家庭、母の恋。山積みとなった問題に頭を抱える中年サラリーマンの悲哀と、牧師さんとの恋愛に夢中になっている母への複雑な心境を見事に表現。演技巧者ぶりを発揮しています。
さらに昭夫の娘・舞役の永野芽郁、神父・荻生役の寺尾聡をはじめ、宮藤官九郎、田中泯、YOUなど、個性豊かな顔ぶれが集結。お節介がすぎるほどに温かい、下町情緒たっぷりな人間模様が繰り広げられます。
クスッと笑ったり、ホロリと涙したり。登場人物たちが抱える悩みや“ぼやき”に共感を覚える、山田洋次監督ならではの人情ドラマ。映画の世界に引き込まれるうちに、ふと「本当の幸せって何だろう」と考えさせられる人も多いのではないでしょうか。
令和の時代に生きる等身大の人々の姿を鮮やかに映し出した、日本映画史に残る新たな名作。ほっこり温かな気持ちになれて、明日への活力が湧いてくる1作です。
コチラも映画館で観たい!『春に散る』 ~再起をかける2人のボクサーが問いかける「生きる意味」
かつて世界の頂点を目指しながらも挫折してしまった元ボクサーと、不公平な判定負けに屈した若きボクサー。夢を見失った2人は偶然出会い、ともに世界チャンピオンを目指すこととなる……。
沢木耕太郎の同名小説を、『ラーゲリより愛を込めて』などで知られる瀬々敬久監督が実写映画化した『春に散る』。肉体と魂がぶつかり合うボクシングシーンには、ただただ圧倒されるばかり。
いま、この一瞬を生き切る。覚悟を決めた男たちの“リアル”に、心を奪われること間違いなし。日本映画史上、もっとも胸熱なボクシング映画です。
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『こんにちは、母さん』
2023年9月1日(金)から全国ロードショー
出演:吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、YOU、枝元萌、加藤ローサ、田口浩正、北山雅康、松野太紀、広岡由里子、シルクロード(フィッシャーズ)、明生(立浪部屋)、名塚佳織、神戸浩、宮藤官九郎、田中泯、寺尾聰
監督:山田洋次
原作:永井愛
脚本:山田洋次、朝原雄三
音楽:千住明
配給:松竹
(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/konnichiha-kasan/
『春に散る』
大ヒット公開中
出演:佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、坂東龍汰、松浦慎一郎、尚玄、奥野瑛太、坂井真紀、小澤征悦、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子
監督:瀬々敬久
原作:沢木耕太郎『春に散る』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
脚本:瀬々敬久、星航
主題歌:AI「Life Goes On」(ユニバーサル ミュージック)
配給:ギャガ
(C)2023映画『春に散る』製作委員会
公式サイト https://gaga.ne.jp/harunichiru/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/