二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が9月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理の国連総会出席について解説した。
岸田首相、国連総会に出席表明 ~9月19日からニューヨークへ
岸田総理大臣は国連総会に出席するため、9月19日からニューヨークを訪問する。総理は「国際社会が複合的な危機に直面するなか、分断・対立ではなく、協調に向けた日本ならではの対応や考え方を示す機会にしたい」と述べた。
飯田)国連総会には、アメリカのバイデン大統領も19日~20日の日程で出席すると発表しています。一方、中国は韓正国家副主席を派遣する予定で、王毅政治局員兼外相は来ないと発表されました。各国のトップが集まりますが、岸田さんにはどんなことを期待しますか?
存在感を増す日本が非常任理事国の首脳として演説することに意味がある
合六)日本は今年(2023年)の初めから2年にわたって、安保理の非常任理事国に選出されています。ウクライナとの関係でも、先進国首脳会議(G7サミット)の議長国であると同時に、国連安保理の非常任理事国であることは重視されている。その意味でも、日本の存在感に注目が集まっていると思います。
飯田)日本のプレゼンスに。
合六)今回、非常任理事国の首脳として演説することには意味があると思います。力による現状変更を許さないことや、あるいは我々が直面している新型コロナ感染症のような人類共通の課題に対し、「どうアプローチしていくか」が示されるのだと思います。
長年、国連改革を主導してきた日本がその盛り上げを維持し、「改革することができるのか」が鍵
合六)同時に国連改革について、そこまで気運が高まっている感じはしませんが、やはり去年(2022年)のロシアによるウクライナ侵攻を受けて議論が出てきました。日本は長年、国連改革を主導してきた国の1つで、ちょうど20年ぐらい前はものすごく盛り上がっていたと思うのです。
飯田)そうですね。
合六)その盛り上げを改めて維持することができるのか。そして、実際に改革できるかどうかが鍵だと思います。日本は今年から非常任理事国になりましたが、1956年に日本が加盟してから、国連加盟国のなかで非常任理事国に選ばれた回数が最多なのです。
北朝鮮問題のためにも改革を進めることが必要 ~今後、どのようにアプローチしていくのか
合六)日本としてのアジェンダや、もちろん地域のアジェンダ。例えば北朝鮮問題、あるいは国連改革などを継続的に推し進めるために、非常任理事国に立候補して繰り返し選ばれています。
飯田)北朝鮮問題や国連改革を継続的に推し進めるために。
合六)その辺りを進めたいのですが、ロシアや中国の行動などから、安全保障理事会がうまく機能していない状況が続いています。
飯田)機能不全とも言われています。
合六)とりわけ日本にとって重要な北朝鮮問題においても、今後、必ずロシアは拒否権を発動してくると思います。そういう意味でも、ますます改革が必要なのです。しかし、その改革もなかなか難しいので、今後どのようにアプローチしていくのかは注目したいと思います。
「どこが機能不全でどこが機能しているのか」を見極めるべき
飯田)ウクライナに対するメッセージの出し方も、国連安保理だと、ロシアも当事国だから絶対に出せません。今後は総会を使って「総意で」というところを見せる、あるいは「このなかで反対は何ヵ国だ」と「見える化する」ようなアプローチの仕方になっていくのでしょうか?
合六)私自身も先ほど使ってしまいましたが、「国連の機能不全」と言うときに注意しなければいけないのは、「どこが機能不全で、逆にどこが機能しているのか。そしてどこが使えるのか」を見極めなければいけません。
安全保障理事会で合意ができていることも少なくない
合六)機能不全というのは、あくまでもロシアや中国が拒否権を持っているため、安全保障理事会が機能しないということです。とりわけ北朝鮮問題に関しては機能不全に陥っています。
飯田)北朝鮮問題については。
合六)しかし、他についても安全保障理事会で合意ができていないかと言われると、必ずしもそうではない部分があります。さらに、安保理以外の分野でも国連はさまざまな活動をしていますし、補助機関もありますので、バランスよく評価することも必要です。国連というのはフォーラムなのです。
ロシアの行動を非難したように「どれだけの国が非難しているか」を見せる場でもある ~「ルールを守らせるために、どのように使っていけばいいか」という発想が必要
合六)そこに集まって外交も展開できるし、いざというときには総会を使いながら、例えば国際社会でどれだけの国がロシアの行動を非難しているか、見せる場でもあるのです。「見える化する場」として非常に意味のある機関だと思います。
飯田)見える化する場として。
合六)冷笑的に「国連はダメだ。だから国連のルールなど守らなくてもいい」と考えるのではなく、「ルールを守らない国がいるからこそ、ルールを守らせる」ために、「どのように使っていけばいいか」という発想が必要だと思います。
国連をはじめとした国際機関や国際的なルールに基づく国際秩序をどう維持するか
飯田)岸田さんはG7の前から常々言っていますが、まさに「法の支配」はその概念になるわけですか?
合六)普遍的な国際機構というのは、第一次世界大戦後、国際連盟として結実しました。しかし、第二次世界大戦が起こり、国際連盟の使える部分と教訓を活かした形で国際連合をつくった。
飯田)第二次世界大戦後。
合六)冷戦期もソ連という存在があり、拒否権を連発するなかで安保理が機能しなかった時期もありました。そういった時代を乗り越えて、国連は存在しているのです。
飯田)冷戦時代も経て。
合六)もちろん、簡単に切り捨てることもできますが、人類の英知として制度やルールをつくってきた。そのなかで日本も繁栄してきたと考えると、まさに国連をはじめとした国際機関や、国際的なルールに基づく国際秩序をどう維持するか。どんなパートナーと一緒に維持・強化していけるかが重要だと思います。
日本が国連のなかでプレゼンスをどう示せるか
飯田)いろいろな側面から、国連に対して懐疑的な人たちもいると思います。1つの意見として、国連の人権理事会など、ある国がプロパガンダの道具として国連の機能を使う。あるいは国連を縛るような警察的なものがないから、ルール無用のバトルロワイアルのようになってしまう場合もあります。それに対して、日本は少なくないお金を出しているのに「割を食っているのではないか」というような指摘もありますが、その辺りも含めて国連改革は大事ですか?
合六)もちろん制度もそうですが、日本自身が国連のなかで「どのようにプレゼンスを示していけるか」が課題になると思います。
次期米大統領選で国連軽視のトランプ氏が再選した場合、日本はその必要性を説いていく必要がある
合六)来年(2024年)にはアメリカで大統領選挙があります。誰が選ばれるかわかりませんが、有力な候補の1人として、やはりトランプ氏がいます。
飯田)そうですね。
合六)トランプ氏が大統領だったときは、国連軽視の姿勢を示していました。今回、もし再選するとなると、アメリカ自身も国際的なルールや国連に背を向ける可能性があります。
飯田)トランプ氏が選ばれれば。
合六)日本としては、そういうところをアメリカも含めて「どうつなぎ止めるか」が大きな課題になると思います。今年、来年と非常任理事国ですから、しっかりと汗をかいて、できるところからコツコツと改革の必要性を説いていく必要があるでしょう。
世界に向け、いかに「協調に向けたメッセージ」を発することができるか ~グローバルサウスの国々に対してどのような行動ができるか
飯田)岸田さんが演説する場合、「どんなメッセージを出すか」も重要ですか?
合六)まず現在、対立が目に見える形で世界を覆っており、いかに「協調に向けたメッセージ」を発することができるかは重要です。同時に、G7議長国としても意識していると思いますが、米・欧だけでなく、いわゆるグローバルサウスの国々に対しても行動する。アピーリングな内容を言うだけではなく、実際に行動できるかどうかも問われてくると思います。
飯田)日本は「民主主義でないとダメだ」とか、踏み絵を踏ませるようなことはせず、包み込む感じですものね。
合六)そこがいまのバイデン政権と若干違うところです。バイデン政権もベトナムを訪問するなど、ややわからないところもありますが、日本としては最低限、国際的なルールをリスペクトする形で「一緒に国際秩序を維持していきましょう」というメッセージを出し続けていますし、今後も出すのではないかと思います。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。