「社会に“認められたくない”という気持ち」を持ち続けることが大事 美術家・横尾忠則

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黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(9月19日放送)に美術家の横尾忠則が出演。東京国立博物館 表慶館 『横尾忠則 寒山百得』展について語った。

【第27回高松宮殿下記念世界文化賞】 受賞者発表記者会見が行われ受賞の挨拶をする絵画部門受賞の横尾忠則氏 =2015年09月10日、千代田区内幸町 写真提供:産経新聞社

【第27回高松宮殿下記念世界文化賞】 受賞者発表記者会見が行われ受賞の挨拶をする絵画部門受賞の横尾忠則氏 =2015年09月10日、千代田区内幸町 写真提供:産経新聞社

黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。9月18日(月)~9月22日(金)のゲストは美術家の横尾忠則。2日目は、「子どものままでいること」について---

黒木)横尾さんは、若い方々に「本を読め」、「こうしたらいい」などということより、「人と出会うことが大切だ」とおっしゃっていますよね?

横尾)子どものころから、いちばん嫌いなのは読書だったのです。

黒木)たくさん本を出版なさっているのに。

横尾)本はほとんど読みませんでした。

黒木)ずっと絵を描いていらしたのですか?

横尾)絵を描いていることがほとんどでした。あとは山や川に行って、魚や虫を捕っていました。子どもは最初から解放されていますよね。

黒木)そうですね。

横尾)ルールなど持っていません。計画性も持っていないし、とにかくやりたいことをする。寒山拾得は大人になってもそのような生き方を実践していると思うのです。私も子どものころは、絵を描きながら遊んでいました。絵を描くのが好きだから、それに必要なことだけをしていればいい。ものをつくるのに必要なことは遊びなのです。徹底して遊ぶことが創作に直接結びついていたのです。

黒木)徹底して遊ぶことが。

横尾)そのことを子ども心に知っていたのかどうかはわかりませんが、ピーターパンのようなものです。大人になってもピーターパンでいたいなというのはありましたね。

黒木)横尾さんは、「人は子どもを捨てたから老人になっていくのだと」おっしゃっていますね。おもしろいなと思います。

横尾)親の影響、学校の影響、社会の影響を受けながら、幼児性を自分のなかから排除していき、大人になろうとします。

黒木)そうですね。

横尾)そうなってしまうと、ものをつくれる人間ではなくなってしまうのです。私は「ものをつくりたい」という基本的な気持ちが強かったために、アカデミックな勉強をしたり学校へ行ったりすることに対して、「不必要だ」と本能的に感じ取り、それを実践していたのかなと思います。

黒木)でも、子どものころのことって、忘れてしまいますよね。

横尾)大人になるということは、どういうことなのでしょうかね。私もよくわかりませんが、社会に出て、「社会に認められたい」という気持ちが大人にさせてしまうのでしょうか。子どもは別に「認められたい」などと思いませんからね。だから「認められたくないという気持ち」を持ち続けることは大事だと思います。大人はまったく反対の生き方をしていますよね。

『横尾忠則 寒山百得』展

『横尾忠則 寒山百得』展

黒木)12月3日まで、東京国立博物館の表慶館で行われています『横尾忠則 寒山百得』展ですが、「寒山拾得シリーズ」を一挙公開102点ということです。観た方が何かを感じとればいいということですね。

横尾)私は絵を通して、社会に何かを訴えるとか、自分が何かを語りたいということは一切なくて、その日の気分で描いています。「きょうの気分」と「明日の気分」は完全に違うわけです。そうすると、「きょうの絵」と「明日の絵」は、様式もガラッと違うものを描いてしまうのです。

黒木)きょうの絵と明日の絵は。

横尾)普通、作家は統一した様式を持つことで社会的に認められていくのですが、私は「認められたくない方向」を目指している気がします。

黒木)グラフィックデザイナーでいらしたときも、みんなとは違うことをしようと考えていらっしゃったのですよね。

横尾)グラフィックデザイナーのときには、制約やいろいろな条件が与えられて、がんじがらめにされていました。それに抵抗して、「条件から逃れたい」という気持ちから、商業的なものはやめて、映画や演劇や音楽など、催し物の仕事へいってしまったのです。幸い、そのようなことをしている人が周囲にたくさんいましたので、その人たちと一緒にコラボレーションすることになったのだと思います。

横尾忠則(よこお・ただのり)

横尾忠則(よこお・ただのり)

横尾忠則(よこお・ただのり)/ 美術家

■1936年・兵庫県生まれ。
■1956年より神戸新聞社にてグラフィックデザイナーとして活動後、1959年に独立。
■唐十郎、寺山修司、土方巽といった舞台芸術のポスターなどを数多く手がけ、1969年にパリ青年ビエンナーレ版画部門大賞を受賞。1972年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催。
■1980年7月にニューヨーク近代美術館で開催されたピカソ展に衝撃を受け、「画家宣言」を発表。以降、画家としてニュー・ペインティングととらえられる具象的な作品を制作。洞窟や滝といった自然風景から、街中の「Y字路」を描いたシリーズ、俳優、ミュージシャンといったスターたちの肖像画まで、多様な作品を手がけることでも知られている。
■東京国立博物館では非常に稀な現代アート展となる「横尾忠則 寒山百得」展を9月12日から12月3日まで開催。寒山拾得をテーマにこの1年で描き上げた102点を一挙に初公開する。

 

番組情報

黒木瞳のあさナビ

毎週月曜〜金曜 6:41 - 6:47

番組HP

毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳

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