あけの語りびと

夢は「1個で重さ1キロ」のにんにく収穫 熊本名物「おぐにんにく」誕生の背景

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

夢は「1個で重さ1キロ」のにんにく収穫 熊本名物「おぐにんにく」誕生の背景

「おぐにんにく」と普通のにんにく

阿蘇の外輪山と九重連山の山あい、筑紫次郎・筑後川の源流がある、人口約4000人の熊本県南小国町。標高450m~900mあまりの起伏に富んだ土地で、農林業が盛んに行われています。全国的には「黒川温泉」がある町としても有名です。

この南小国町で農業を営む井正恵さんは、1982年生まれの41歳。小さいころから、ご両親の田んぼやほうれん草栽培、椎茸づくりを手伝うのが日課でした。

それゆえ大学進学のために家を出ると、手伝いから解放された喜びも相まってアルバイトやゲーム三昧の日々を送りますが、結局2年で退学して実家に戻ります。

20歳の若者がふるさとに戻ってきたことに、地元の皆さんは喜びいっぱい。気が付けば井さんは、農家の皆さんのグループに入会が決められ、思わぬ形でご両親と同じ「農業」の道を歩むことになりました。

実際に農業に携わってみると、井さんは何とも言えない「もどかしさ」を感じます。丹精込めてつくり上げた野菜を出荷しても、かなり安い値段で買われてしまう。「これならコンビニのアルバイトの方が割がいい」とさえ思うようになりました。

実は、周りの農家の皆さんも同じ悩みを抱えていました。少しでも農家の収入を増やしたいという思いで、農家の若手メンバーで始めたのは、町を代表する観光地「黒川温泉」での朝市でした。

夢は「1個で重さ1キロ」のにんにく収穫 熊本名物「おぐにんにく」誕生の背景

井正恵さん

全国からやって来た宿泊客の皆さんは、口をそろえたように「ここの名物は何なの?」と聞いてきます。しかし、井さんが自信を持って「ほうれん草や椎茸です」と告げると、それまでらんらんと輝いていた宿泊客の皆さんの目が、あっという間に輝きを失っていったそうです。

「ふ~ん」という一言だけの薄いリアクションに、井さんは突き動かされました。

「朝市の名物になる野菜をつくってやろうじゃないか!」

さっそく井さんは、どんな野菜をつくろうか考えます。メインでつくっているほうれん草は、収穫から出荷までが慌ただしいのが悩みのタネでした。新たな野菜は、いまの農作業の妨げにならない、保存が効く作物が求められました。

加えて、標高約700mにある井さんの畑は、本州では青森と同じくらいの気候でした。

「青森と同じ冷涼な気候ならにんにく……でも、普通のにんにくではダメだ。確か、海外にはすごく大きなにんにくがあったはず」

インターネットで調べると、アメリカに世界最大のにんにく「エレファント・ガーリック」という品種があることがわかりました。井さんはすぐに種苗メーカーから高価なタネを仕入れ、栽培に取り組みます。芽を出すと、あっという間に丈が1mを超えるほど成長することに衝撃を受けました。

2008年、初めて収穫された「エレファント・ガーリック」のなかでも、選りすぐりの450g以上のものに、井さんは「おぐにんにく」と名付けました。もちろん、ふるさと・南小国町にちなんだ名前です。温泉の朝市に並べると、「おぐにんにく」の前で宿泊客が立ち止まるのがわかりました。

「見て見て。これ、すごい!」

旅行者が仲間に声をかけ、携帯電話で写真を撮り始めたのを見て、井さんは心のなかで「よし!」とガッツポーズをしました。旅行者のなかには「おぐにんにく」のリピーターになってくれる方も現れました。

夢は「1個で重さ1キロ」のにんにく収穫 熊本名物「おぐにんにく」誕生の背景

井さんの畑

それから15年、農家の皆さんのグループも高齢化が進み、温泉街の朝市は終了。熊本地震やコロナ禍の影響などもあって、いまも「ジャンボにんにく」をつくり続けているのは井さんただ1人になりました。

ジャンボにんにくはその大きさゆえ間隔を空けて植える必要があり、1年で土地がやせてしまうため、同じ畑で連作ができません。約9ヵ月かけて育て、収穫したにんにくは1ヵ月ほど乾燥機にかける必要があり、昨今は光熱費の値段が上がったことも大きな重荷となりました。

それでも井さんは、ジャンボにんにくを「これからもつくり続けていきたい」と話します。

「ジャンボにんにくは、パートの皆さんとの収穫が楽しいんです。『でっかいのが出たぞ!』『こっちはもっと大きいぞ!』と、掘り出すたびに笑いが生まれます。そんな笑いの絶えない、誰もがもっと楽しく感じる農業にしていきたいんです」

井さんには叶えたい夢もあります。それは、1個で重さ1kgを超えるジャンボにんにくをつくること。これまでの過去最高は990gで、あと少しのところまできています。

先日の連休、来年(2024年)初夏に収穫するにんにくを植えたばかりの井正恵さん。9ヵ月後の笑顔を思い浮かべながら、けさも畑へ足を運びます。

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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