日本が遅れをとる「培養肉」 一大産業にもなり日本経済にも貢献できるが進まぬ現状と課題

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東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が10月3日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。培養肉について解説した。

日本が遅れをとる「培養肉」 一大産業にもなり日本経済にも貢献できるが進まぬ現状と課題

アップサイドフーズ社の工場でつくられた鶏の培養肉=2023年1月、米カリフォルニア州(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

日立造船が培養肉の材料を販売へ

日立造船は人工的につくり出す培養肉の材料となるたんぱく質を2025年度にも販売する。名古屋大学発スタートアップ企業と協力し、生産工程の一部を機械化することなどで、生産に掛かる費用を10分の1程度に抑える。

新行)培養肉とは、どんなものでしょうか?

井形)培養肉には「細胞農業」という技術が使われています。動物を殺さずに細胞を少し取り、それを栄養がたくさん入った水のなかに入れ、ぐるぐる6週間くらい回すと肉ができるという技術です。

シンガポールでは細胞培養でつくられたチキンが売られている ~アメリカでもレストランでの提供が始まる

井形)シンガポールではかなり前から、実際に細胞培養でつくられたチキンが売られています。

新行)売られているのですね。

井形)アメリカでは去年(2022年)、アメリカ食品医薬品局(FDA)に「安全だ」と認められ、今年(2023年)からサンフランシスコとワシントンD.C.のレストランで提供され始めています。

培養肉によって環境負荷のインパクトを緩和する

新行)培養肉をつくろうという発想が起こったきっかけは何だったのでしょうか?

井形)いちばん重要だったと言われているのが「サステナビリティ」の観点で、牛でも豚でもチキンでも、育てる際には「環境コスト」が掛かります。牛のゲップから大量の温室効果ガスが出ているという研究もありますし、牛や豚が食べる穀物を育てるために必要となる水や土地の量も多いです。細胞農業の技術なら淡水の使用量が99%減になったり、土地の使用量は90%以上減ると言われています。温室効果ガスに関しても、動物の個体によって違いますが、70%~80%減になるという話が出ています。

新行)なるほど。

井形)世界人口が増えているなかで、伝統的な畜産業だけで肉を提供し続けようと思うと、環境負荷がさらに増えてしまいます。細胞農業技術でつくった肉を広げることによって、少しでも環境負荷のインパクトを緩和しようと考え、つくっているところが多いです。

新行)消費者としては、選択肢がまた1つ増えることになるのでしょうか?

井形)シーフードで言えば「天然もの」「養殖もの」「細胞培養もの」となりますし、畜産であれば「養殖もの」と「細胞培養もの」の2つに分かれる形になります。

培養肉の分野に入る企業が増えれば、日本経済に貢献することにもなる

新行)アメリカやシンガポールでは既に食べられるという話ですが、日本ではどうなのでしょうか?

井形)日本はまだルールができていない状況です。実は「試食もしないで欲しい」というのが日本政府の立場です。

新行)日本企業が培養肉の材料を販売することは、プラスにはなっていきますか?

井形)培養肉の問題は、コストが高いことです。「コストをいかに下げられるか」で各国の企業が競っています。いろいろな統計がありますが、2040年までに、肉の消費のうち約3分の1が培養肉になるのではないかというデータを出しているところもあります。そうなると、一大産業なわけです。

新行)そうですよね。

井形)日本としても、この分野に入っていく企業が増えれば、日本経済に貢献することになります。

日本の企業は「細胞100%の培養肉」をつくろうと頑張るが難しい

新行)ルールづくりの面と、技術面ではいかがでしょうか?

井形)日本は両方遅れているところがあります。シンガポールやアメリカでは既に売られていますが、日本はルールすら完全にできていない状況です。

新行)ルールすらできていない。

井形)技術に関しても、日本企業は「職人魂」があるのか、「細胞100%の培養肉をつくる」という方向で頑張っている大学などが多いのですが、それは非常に難しいのです。

豆腐バーガーのような植物性の代替肉と細胞のミックスでつくるアメリカやシンガポール

井形)実際にシンガポールやアメリカで売られているものは、3割や7割など比率は違うのですが、「一部は細胞、一部は豆腐バーガー」というような形で、植物性の代替肉と一緒に混ぜてつくることが多いのです。100%でつくると、肉が分厚くなりません。

新行)そうなのですか?

井形)しゃぶしゃぶのような薄い肉はすぐにできるのですが、横にしか広がらず、重力に負けてしまって縦に増やすことが難しいのです。

新行)厚い肉は難しい。

井形)植物性の代替肉でスポンジのようなものをつくり、その穴の間に細胞の肉を入れ、食感は植物性の豆腐のようなもので肉を再現する。脂や血の味は、細胞で出す。そのようにミックスで再現すると、最終的には「美味しければいいではないか」ということになるのです。

どの企業も食文化豊かな日本での実績が欲しい

新行)日本の食は美味しいことで海外からも評判ですが、日本がこの分野に入っていけば、今後、リーダーシップを発揮できるような部分もあるのでしょうか?

井形)まずは日本の市場で売れるようになれば、早いうちにリーダーシップを示せると思います。どの企業も、食文化が豊かな日本で自分たちの製品が売られ、しかも「みんなが買っている」という実績が欲しいのです。

新行)なるほど。

井形)世界で「ミシュランスター」が最も多い都市が東京です。2番目がパリで、3番目と4番目は京都、大阪です。トップ4のうち、3つを日本の都市が独占しているくらい、日本の食文化は広がっています。

新行)世界で。

井形)その意味では、できるだけ早く、舌が肥えた日本市場で培養肉が売られるようになればいいと思います。

「日本国内で売れそうだ」ということがなければ投資が集まらず、開発も進まない

新行)海外からの期待も感じますか?

井形)非常に感じますね。日本企業としても、「日本国内で売れそうだ」ということがないと投資が集まりませんので、研究・開発も進みません。

新行)投資が集まらなければ。

井形)アメリカやシンガポールの企業などのように、「とりあえず自国で売る見通しがある」となると、そちらにお金が向かってしまいます。場合によっては、日本の大手企業もそれを見て「日本企業に入れても日本では売れなさそうだから、アメリカやシンガポールに投資しよう」となってしまっているのです。

新行)それはもったいないですよね。

井形)そうですね。

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