EVの競争力は……トヨタ会長の発言は決意か? それとも?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第342回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本におけるEVの今後について---
「日本のEVはシェアでは遅れているが、技術力では遅れていない」
トヨタ自動車の豊田章男会長は10月5日、経団連のモビリティ委員会終了後、取材に対し、このように述べました。
モビリティ委員会はこの日が3回目の会合で、豊田氏が委員長を務めました。自動車業界のみならず、旅行や金融などモビリティ(乗り物)に関わる業種約300人が集まり、7つの課題について意見を交わしました。
7つの課題とは「物流・商用・移動の高付加価値化・効率化」「電動車普及のための社会基盤整理」「国産電池、半導体の国際競争力確保」「重要資源の安定調達、強靭な供給網の構築」「国内投資が不利にならない通商政策」「競争力あるクリーンエネルギー」「業界をまたいだデータ連携」……どれも日本の自動車産業が避けては通れない課題です。
「いろいろな選択肢がある。それぞれの国のエネルギー事情によって、それぞれの国のカーボンニュートラルへの山の登り方は違うという議論が現実をみて進み出した」
豊田氏は委員会を終え、改めてこのような認識を示しました。その上で、私は豊田氏にこのように問いかけました。
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「今回の委員会は資料を見ると、EVの国際競争力強化などがテーマの1つになったと察する。『選択肢は1つではない』……これは理解できる。トヨタ個社としても全方位外交と察する。一方で、春の上海モーターショーでは各社がEVも含めて強い危機意識を持っていた。日本の自動車業界全体でみた場合、EVの国際競争力は現状、あるのか? ないならば何が足りないのか? 認識をうかがいたい」
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EV(ここでは電池のみを動力源とするBEVを指す)について、トヨタ単体では「2026年に150万台」を基準としてペースを定め、10車種の投入を計画していることが明かされています。
しかし、EVそのものの現状認識については、「遅れている」というレッテルを警戒してか、ネガティブな発言は避けていたと思います。ならば、日本の自動車業界全体ではどうなのか、私はそれが知りたかったのです。
これに対して、豊田氏の回答は次のようなものでした。
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「何をもって競争力があるかということだと思う。シェアという意味で見ると、日本の自動車産業、世界で3割ぐらい、そのなかでBEVというのが、いろいろな先進国を中心に3割ぐらいのBEVシェアがあるなかで、日系メーカーは2%いっていない。シェアという意味では遅れているという言い方になる」
「ただ、このBEVをつくるためのクルマなり、バイクなり、そういうものの研究開発能力、その技という意味では、これだけ世界の競争力のある自動車メーカーがひしめいているので、技術力では決して遅れていない」
「何を隠そう、BEVのいちばんの心臓部である電池の部分は、ほとんど日本とか中国とか韓国に委ねているところからしてみても、そういう意味では土地的にも、地盤、技の部分はあるとみている」
「ただ、電気自動車が普及していくためには、エネルギーをつくる、使う、運ぶという3者が連合してCO2(二酸化炭素)を減らしていくことがいちばんの目的になっていく。日本の場合、電気をつくる部分に、現在のところ、火力発電に頼っているので、電気の需要と供給能力を比較すると、仮にすべてがBEVになったときに、現在の発電能力では足りないとか、そう思うと、2050年に向けてどうしていくのか、2030年に向けてどうなのか。規制値はいろいろな国が30年を35年に後出し(後ろ倒し)したり、いろいろな動きが出ているが、私どもはここ1~2年で30年、40年の景色が変わっていくだろうと。そうしていくためには、エネルギーをつくる側、使う側のインフラをどう整備していくか、そういうところをペースメーカーかのごとく、合わせながらしっかりやっていかないと、誰が苦労するかというと、使われるユーザーだと思う」
「そんな意味で、技術面での遅れはない。素材面での確保というのはまだまだ課題はあると思う。資源の部分までいくと、どういうことになるかはいろいろ課題があると思うので、そういう意味で、いま何台売れているから遅れている、何台だからどうだということではなくて、この日本の自動車メーカーたちが、EVの分野でも絶対に世の中から『日本製はいいですね』と言われるような戦いをしていることは、ぜひともメディアの方にもご理解いただきたい。また、日本がんばれという応援もいただきたい」
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豊田氏の回答は、EVについて遅れている部分とそうでない部分を明確に示したという点で、これまでとは踏み込んだものと感じました。
「メディアにもご理解いただきたい」というくだりは、相変わらず「EVの遅れ」という報道に対する反論にもとれますが、これまで小欄ではEV化の現状について、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)、原料調達、エネルギーの問題、中国などの国際情勢など、関係者への取材や専門家の声も交えながら、さまざまな視点で掘り下げてきたと自負しています。
一方、豊田氏の発言に対し、「確かにEVの技術力では日本は世界一の技術を持っているが、それを生かせるフィールドへの販売戦略が弱い」……こう指摘するのは電池開発の関係者です。さらに「『技術さえよければ売れる』という神話のようなガラパゴス思考をいったん、捨てるべき」とも話しました。
初代プリウス以来、展開してきたトヨタのハイブリッドシステムが盤石なものになったのも、多くのユーザーが走行したことによる膨大な実証データにより、改良を重ねたことが一因であることは疑いありません。EVの販売台数が少ないということは、そうした実証でのデータ蓄積にも影響を与えることになります。
中国では電動バイクがメインで走っていると言います。もちろん、人命にかかわる事故はあってはなりませんが、日本もEV以外にも電池を実証実験的に使う用途を広げるべきだと関係者は提言します。
日産リーフ、三菱i-MiEV(アイミーブ)は世界初の量産型EVと言われています。日本はEVのいわば草分け的存在。にもかかわらず、シェアの面で他国の後塵を拝する状況になったのはなぜか、あるいは敢えてそうしているのか……自動車業界のみならず、官民含めた考察が必要でしょう。その機会の1つが上記のモビリティ委員会であるはずです。
電池開発の関係者によれば、トヨタは電池の増産体制に本腰を入れているようです。「ここ1~2年で30年、40年の景色が変わっていくだろう」という豊田氏の発言の根拠は、こんなところにあるのでしょう。
おりしもトヨタは、韓国電池大手のLGエナジーソリューションと車載用のリチウムイオン電池の供給契約を締結したと発表しました。いよいよトヨタが、日本の自動車業界がEVで勝負をかけるのか……そんな姿勢が来たるジャパンモビリティショーにも垣間見えるかも知れません。(了)
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