共同通信エルサレム支局長の平野雄吾氏が10月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ハマスに対して地上戦を準備するイスラエル国内の様子を解説した。
イスラエル、イスラム組織ハマスに対し地上戦を準備
イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は10月10日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスに対する「総攻撃は近い」と述べた。イスラエル南部のガザ境界近くでは11日、地上作戦に向けて戦車や軍用車両、兵士が続々と集結した。
現地・イスラエル南部の現在の様子 ~多くの軍用車両・兵士が南部に集結
飯田)平野さんご自身は現在、どちらにいらっしゃるのでしょうか?
平野)この時間はエルサレムの自宅にいます。通常、日中は主にガザの境界近い、イスラエル南部スデロトやアシュケロンなどで取材しています。そして、夜にはエルサレムに戻ります。60キロくらいの距離なので、車で1時間半くらい掛かります。
飯田)現地の雰囲気はどうなのでしょうか?
平野)イスラエル南部には、民間人がほとんどいない状態です。一部は軍が閉鎖して避難させています。また、通常通りの生活をしている地域でも商店はほとんど閉まっていて、子ども連れの方も自主的に避難しています。残っているのは50代以上の、ある意味で戦争慣れしている人たちです。
飯田)一部の報道では、予備役30万人も招集したということですが、もう南部には集結しているのですか?
平野)戦車を含めて、多くの軍用車両が南部に集まっています。また、観光バスに兵士を乗せて運んでいます。
「ハマスとの戦争に勝つ」と団結するイスラエル国内
飯田)イスラエルは諜報機関が優れている国というイメージがありますが、ハマスの攻撃を察知できなかったことに対して、政権に対するイスラエル国内の不満はないのですか?
平野)もちろん不満はあり、今後は責任論が出てくると思いますが、いまはとりあえず「ハマスとの戦争に勝つ」という雰囲気になっています。普段は国内での政治的な分断の話もありますが、いまは敵が出現したことで、国内は団結している状況です。
飯田)ここは戦うべきだと。
平野)特に兵士に対して炊き出しを行ったり、食料や衣服を軍に寄付する姿を目撃します。
背景にあるサウジアラビアとイスラエルの和解 ~中東における「イラン対アラブ・イスラエル」という枠組み
経済アナリスト ジョセフ・クラフト)今回のハマスの攻撃ですが、一般的には、イスラエルがサウジアラビアなどと国交正常化するにあたり、孤立するのではないかという危機感があった。それに加えて、ネタニヤフ政権が入植者を増やしたり、パレスチナに対して締め付けを行い、現地の不満も溜まっている。それらが相まってハマスが攻撃に至ったと言われていますが、ハマスの攻撃の原因は具体的にどの辺りにあるとみていますか?
平野)背景として、サウジアラビアとイスラエルの和解は大きな要素だと思います。エジプトとヨルダンが既にイスラエルと国交を結んでいるので、サウジまでパレスチナ問題をある意味、置き去りにして結んでしまうと、「アラブ世界で頼れるところはなくなってしまう」という状況があり、孤立化が進んでいた側面はあると思います。
飯田)頼れるところがなくなってしまう。
平野)あとはイランと、第2勢力であるレバノンのヒズボラ。この辺りの勢力とハマスは、近年かなり良好な関係を結んでいて、中東のなかで「イラン対アラブ・イスラエル」という大きな枠組みがあった。そういう文脈のなかで今回のことが起きたのではないでしょうか。
物事の動きが止まるユダヤ教の新年を狙った ~第4次中東戦争の際のエジプトの奇襲攻撃と同じ
平野)さらに大きな要素として挙げられるのは、9月の終わりから現在のシーズンは、ユダヤ教の新年なのです。祝祭期間なので、3週間くらいは物事の動きがストップしてしまいます。イスラエル側も最低限の人数しか軍役についていない期間だったので、そこを狙ったところはあると思います。
飯田)なるほど。
平野)1973年の第4次中東戦争では、まさしくこの期間にエジプトが奇襲攻撃を仕掛けました。最終的にはイスラエルが押し戻すのですが、シナイ半島のかなりのところまでエジプトが侵攻していった。その結果、エジプトはシナイ半島を取り戻す条約を結ぶに至ったという流れがあります。
飯田)第4次中東戦争のときに。
平野)そこから今年(2023年)でちょうど50年なのです。ハマスがどこまで意識していたかはわかりませんが、「まったく意識していなかった」ことはないだろう、という見方があります。
ガザへの地上戦は「いつ行うのか」が焦点に
飯田)この先、イスラエル側はガザに対して、地上戦も含めて攻撃することになるのでしょうか?
平野)戦車もかなり入っており、それは準備以外にあり得ない現象です。私の取材や地元メディアも含め、「地上戦をやるのかやらないのか」というよりは、「いつやるのか」が焦点になっています。
日本ができることは、和平交渉が再開できる下地を整えること
飯田)日本にできることはあるのでしょうか?
平野)今回、多くの外国人が被害に遭っています。ハマスに拘束されてガザ地区に拉致された方のなかにも外国人がいますが、いまのところ大使館の情報では、日本人は確認されていません。
飯田)日本人はいない。
平野)しかし、だから何もしなくていいということではありません。イスラエルは「ハマスを殲滅する」と言っているので、残念ながら、これから相当、激しい戦いになる可能性が高いと思います。
飯田)激しい戦いに。
平野)ただ、現実問題として、イスラエルがパレスチナを占領している事実があります。根本的なところから考えないと、ハマスがいなくなったところで、また「新たなハマス」が出てくる素地はいくらでもあります。
飯田)今回、ハマスを殲滅したとしても。
平野)日本はパレスチナともイスラエルとも良好な関係を築いているので、外交課題として、上手く和平交渉が再開できる下地を整えて欲しいですね。
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