数量政策学者の高橋洋一と政策アナリストの石川和男が10月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理が意欲を示す持続的賃上げについて解説した。
岸田総理、連合・芳野会長と面会 ~持続的賃上げに意欲示す
岸田総理大臣は10月18日、連合の芳野会長と総理官邸で面会し、2023年の春闘で達成した30年ぶりの高水準の賃上げを来年も持続させることに意欲を示した。
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失業率が2%前半にならなければ賃上げを続けることは難しい
飯田)連合は立憲民主党と国民民主党の支援組織であり、母体などとも言われますが、ここと岸田総理が接近を図っていると言われます。この賃上げは持続しますか?
高橋)もう少しマクロの政策をきちんと行う必要があるでしょうね。安倍元総理の時代は、マクロ経済政策の基礎が非常にしっかりしていたのです。
飯田)マクロ経済の基礎が。
高橋)安倍さんにはいつも「失業率をこのくらいまで下げてください。具体的には有効求人倍率がこのくらいまで上がるように、金融政策と財政政策をやってください」と言っていました。「そうすれば、このくらいまで賃上げできます」と言っていたのだけれど、それをせずに告知するだけでは難しいと思います。
飯田)告知だけでは。
高橋)基本的に、最初は雇用をつくるのです。いまの有効求人倍率は1.5ぐらいですが、もう少し上がらなければならない。失業率なら2%前半までいかないと難しいでしょうね。
下手に賃上げを先にすると雇用を崩してあとが大変になる
高橋)この間上げたものは「過去最高だ」と言われていますが、私の計算式から言うと、民主党のときほどは酷くないけれど、それと同じくらい失業率から計算できる賃上げとずれているのです。
飯田)ずれている。
高橋)安倍政権のときだったら、「これは無理です」と言ったくらいの数字です。下手に賃上げを先にやってしまうと、雇用が崩れてしまい、あとが大変です。韓国でミスしたことがあるのですが。
飯田)文在寅政権のときでしたか?
高橋)そういう話になるかも知れないという、ギリギリのところです。民主党の時代は明らかにミスでした。最初に賃上げして、あとが大変になってしまった。
介護職員の賃金を6000円増やしても意味がない
飯田)賃上げと言っても、原資の部分が必要になりますよね?
石川)国が賃上げするというのは、私の発想では、毎月の給料の「天引きを減らす」ということです。例えば所得税減税や、保険料が引き下げられれば天引きを減らすことになるので、見た目が上がります。しかし、そうなると、今度は「財源が必要だ」という話になります。
飯田)天引きを減らすためには。
石川)例えば介護職の賃金などがあるではないですか。最近の報道でも「介護職員の賃金を月6000円上げる」という話が出たけれど、6000円上げてもどうにもなりません。月6万円上げるのであれば、「お?」と思いますけれど。
飯田)6000円上げたところで。
石川)政府は介護や社会保障関係で、思い切ったことをやらないといけない。全体の賃金を上げようというのは土台、無理な話です。
半導体工場を誘致するように、部分的に大きなものを育てることをやって欲しい
石川)強い産業を育てるための一例として、半導体工場を日本にいくつか誘致しようとしていますが、工場の誘致先の周りではものすごい賃上げが行われています。
飯田)熊本のように。
石川)つまり、「部分的に大きなものを育てていく」ということもやって欲しいと思います。
岸田総理はマクロ問題を理解しているのか?
飯田)ミクロ的にどういう業界を中心に引っ張っていくかということですが、いかがですか?
高橋)申し訳ないけれど、経済学では、ミクロでやるのは難しいですね。はっきり言ってマクロ問題なのだけれど、マクロ問題を岸田さんは理解できていないのではないでしょうか。実はこれまで、マクロ政策を上手くやったときしか成功していないのです。何かの産業でやるというのは難しい。
飯田)全体的に引っ張らなければならないのですか?
高橋)1つひとつはできません。金融政策は雇用政策だと理解できれば、マクロ問題になるから、「そこを理解するか、しないか」ということなのです。
飯田)マクロ問題を理解するかどうか。
高橋)アメリカも全然やりません。マクロ政策だけで、米連邦準備制度理事会(FRB)がほとんどやってしまう。でこぼこはできるのですが、平均値は上がるのです。
強いヒーローをつくって、そこが国を引っ張るというやり方もある
飯田)アメリカの場合は規制も緩いし、「やってみなはれ」の文化もあるので、産業に関してはある程度、民間に任せておけば何とかなるところもある。日本に関しては、かつて産業政策と呼ばれるようなものがありましたが、いま、全体を上げていくイノベーションはどうなっていますか?
石川)全体が上がってしまうと、得した感がないという発想もあります。私からすると、全体が上がるというのは結局、いまと同じ状態なのです。高度成長の時代には勝ち負けがあって、もう少し差がありました。
飯田)高度成長時代は。
石川)当時は成長するところが多かったから「マクロ的にいい」という評価でしたが、いまはダメなところが多い。しかし、アプローチはいろいろなやり方がありますし、それを復活させる方法もあります。何人か強いヒーローをつくって、そこについていくというような。
飯田)強いヒーローに。
石川)ある種、その業界を引っ張るような感じです。引っ張る業界を増やし、さらに国を引っ張るというようなやり方がある。アプローチの仕方の違いなのですよね。
飯田)アプローチの違い。
石川)伸ばす者はどんどん伸ばす、ダメな人は社会保障などで救う。そういうやり方が、国家を統治するための経済政策としてあるのではないかと思います。
金融緩和で設備投資すると、成功する企業が必ず出る
飯田)高度経済成長の時代は、マクロ的な部分で全体を上げていき、そのなかで自動車などの目立つものが出てきました。これは車の両輪のようなものですか?
高橋)ミクロの話は経済安全保障のような分野ではあるのです。それは生産性と少し違ってしまう。いろいろな目標を立てるのは難しいし、官僚の方が選べるはずはないですからね。
飯田)選べるはずがない。
高橋)法経済学者のラムザイヤー教授がいろいろなものを書いているけれど、ミクロの話は分が悪い。ただ、いまは経済安全保障があるから、その分野はミクロで介入しても構わないのです。しかし、生産性があるかどうかはよくわかりません。全体をマクロで進め、金融緩和して設備投資をたくさんすると、どこかが出てきます。
飯田)切磋琢磨するなかで当たる企業なりが出てくる。
高橋)法人税減税でもいいですけれど。どこが当たるかはわかりませんが、まず間違いなくどこかは当たります。1000に3つくらいは必ず当たるという世界ですね。
石川)私も「ミクロ、ミクロ」と自分で言っておきながら、保険料を一律に下げたり、あるいは財務省が嫌がるでしょうけれど、消費税を一律に下げるなど、可処分所得、つまり手持ちの金を増やすことはマクロで行うべきだと思います。アプローチの違いです。それをミックスし、手金も増やしてヒーローもつくる。それが最も復活する早道だと思います。
通常の発想では異次元の対策にはならない
飯田)芳野会長の話のなかには、価格転嫁ということも出ていました。大手は賃上げできるだけの余力もあるし、実際に行っている。ところが中小企業の社長などに話を聞くと、「そうは言っても払いは前と変わらないのだから、こっちは上げられない」という話をよく聞きます。この辺りについて、優越的地位の濫用の取り締まりなどはできないのですか?
高橋)やるのであれば、正々堂々と転嫁カルテルをやればいいです。
飯田)転嫁カルテルを認めるということですか?
高橋)私は転嫁カルテルを担当したことがありますが、本当に必要ならやればいいのです。そうすれば公明正大でしょう? 腹を括れば転嫁カルテルはできるのです。
飯田)そうは言っても支払いについては、無い袖は振れないですものね。岸田総理は「賃上げした企業に適用する優遇税制を強化する」と言っていますが、効果はあるのでしょうか?
石川)そもそも賃上げした企業を選定するのが難しいと思うし、賃上げの基準は各社によって違いますよね。いつから賃上げしたかどうかも違うので、言うのは簡単ですが、賃上げした企業の優遇は難しいと思います。
飯田)選定が難しい。
石川)高橋さんの話には私も通じる部分がありまして、カルテル的な従来の発想とは違う、「自由競争を否定するような形の方が国を救える」ということがあるならば、少し発想を変える。完全な資本主義ではなく、「少し不自由な資本主義で構わないから、国民・企業を救う」という政策に転換する方法もあると思います。
飯田)不自由な資本主義でも構わないから。
石川)ある意味、常識を疑うようなことをやってもいい。そういう発想をしなければ、異次元にはならないと思います。
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