黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(10月19日放送)にiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥が出演。研究におけるチームワークの重要性について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。10月16日(月)~10月20日(金)のゲストはiPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥。4日目は、ラグビーと研究の双方に通じる精神について---
黒木)山中さんは大学ではラグビーをされていましたが、「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」の精神は研究にも通じるところがあるとおっしゃっています。どんなところが通じているのでしょうか?
山中)ラグビーは役割分担がはっきりしていて、ポジションによって体型も違います。そのような違う才能の人がそれぞれ適材適所のことをやって、最終的にはいかに1つのチームで助け合うか。それができるかできないかが、チーム力になります。
黒木)いかにチームで助け合うことができるか。
山中)私たちのラグビー部は調子が悪いときも多くて、チームの状態が悪かった。弱いチームは、フォワードとバックスの仲が悪いのです。お互いに「お前のせいだ」というような感じで。
黒木)そうなのですね。
山中)バックスの人はフォワードの人に「もっといいボールを出せ」と言い、フォワードの人はバックスに「お前ら、いいボールを出してもポロポロと落としやがって」というような感じで喧嘩するのです。しかし、いいチームになると、お互いが「せっかくいいボールを出してくれたのに落としてごめん」とか、「いいボールをお前たちに出せなくてごめん」となる。同じことをやっているのですが、全然違います。それは紙一重なのです。
黒木)研究も、そのようなチームプレーなのですね。
山中)研究は、ある意味ではスポーツよりも厳しくて、上手くいかないことの方が多いです。先ほど話したラグビーのよくないパターン、お互いに相手を非難し合う状態になると大変なことになってしまうので、ミスしたときに「責めるのではなく、いかにカバーするか」が重要になります。偉そうなことを言っていますが、未だに難しいです。
黒木)研究チームでも「失敗を共有することが大事だ」とおっしゃっていますが、やはりそうなのですね?
山中)もちろん、上手くいったことを共有するのも大切ですが、それはやりやすいですよね。しかし、大きな発見は失敗のなかに隠れているので、いかに失敗だと思う実験結果をしっかりとまとめて、それをきちんと報告し、みんなでシェアできるか。そこにチーム力が掛かっているような気がします。
黒木)失敗した実験結果を共有すること。
山中)一見失敗と思えるような実験や、予想と反対のことが起こったときに、いかにそれを喜べるかどうか……。それは「やろう」と思ってできることではなく、その人の特性だと思います。
黒木)では、やはり研究者に「向いている人と向いていない人」はいるのですね。
山中)そうだと思います。私は最初に少し臨床医をやっていて、大学院に入って研究しました。最初にやらせていただいた実験では、予想と反対のことが起こったのです。「この薬を入れたら血圧が上がるだろう」と思って入れたら、逆に下がってしまった。
黒木)予想に反して。
山中)予想とは逆の結果なので、がっかりしてもいいのですが、私はそれを見て「なぜ、こんなことが起こるのか?」とものすごく興奮しました。実験結果に驚いたというよりは、自分の反応に驚いたというか。そのときに「私は研究に向いているのだな」と思いました。
黒木)反対のこと、ある意味で失敗したことを「なぜ?」と感じ、その「なぜ?」がまた次の研究につながっていくのですね。
山中)ときどき学生さんとの授業で、「同じときに私と同じように興奮すると思う人」と言うと、半分くらいしか手を挙げません。「がっかりする人」と聞くと、やはり半分くらいが手を挙げます。
黒木)それぞれ半分なのですね。
山中)どちらがいいというわけではなく、その人の特性なのです。それぞれに向いた仕事が絶対にあると思います。しかし、そこで逆に行ってしまうと、少し辛いかも知れません。成績はあまり関係ありません。
黒木)その人の持っている特性が大事なのですね。
山中)成績がいいから研究者になれるわけではありません。成績だけで決めてしまうと、あとで悩むことになるかも知れない。「向き不向き」は絶対にあると思います。
黒木)どの職業でも、ということですよね。
山中伸弥(やまなか・しんや)/iPS細胞研究所名誉所長
■1962年、大阪府東大阪市出身。
■1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て、1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了(大阪市立大学博士(医学))。
■その後、米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。
■2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功し、新しい研究領域を拓く。
■2010年、京都大学iPS細胞研究所・所長に就任。
■2010年に文化功労者として顕彰されたことに続き、2012年には文化勲章を受章。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
■現在は京都大学iPS細胞研究所・名誉所長・教授を務め、研究室を主宰し若い研究者たちと研究に取り組んでいる。また、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の理事長も務めている。
■アメリカ・グラッドストーン研究所でも研究室を持ち、毎月1回は渡米し、研究活動を行っている。
■公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団
https://www.cira-foundation.or.jp/j/
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳