数量政策学者の高橋洋一が11月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。衆議院予算委員会での実質的な審議が始まった補正予算案について解説した。
衆議院予算委員会、補正予算案の実質的な審議始まる
国会では、衆議院予算委員会で経済対策の裏付けとなる補正予算案の実質的な審議が始まった。新たな経済対策について、岸田総理は「今回の経済対策はデフレからの脱却が大きな目的。賃上げは道半ばであり、給付や減税といったあらゆる政策を用意し、国民の自由に使えるお金を確保することで消費を落ち込ませないよう配慮する必要がある」と述べた。
飯田)岸田総理の答弁だけを聞いていると、「そうなのか?」という感じですが。
高橋)一方では物価高対策に関し、「デフレからの脱却が目的」と言っていますが、デフレからの脱却で物価高対策を行うのは少しおかしいですよね。
飯田)デフレはむしろ物価が伸びない現象です。
高橋)「可処分所得を増やす」というだけであれば結構なのです。しかし、「デフレからの脱却」にこだわっているように思える。誰が考えているのか知りませんが、「デフレからの脱却と物価高対策」というのは、きちんと説明しないとわかりにくいですよね。
飯田)そのまま聞くと「アクセルとブレーキを同時に踏むのか?」と感じてしまいます。「ちょうどいいところを狙う」というようなイメージでしょうか?
税収増が1710億円であるはずがない ~もっと多いはず
高橋)よくわかりません。岸田さんの政策はいつもわからないのですが。補正予算については、国会できちんと議論してもらいたいですね。補正予算にはフレームがあるのです。「歳出がどんな項目か」というところばかりにみんな着目しますが、予算だから歳入と歳出は全部載っているのです。歳入のところを見ると、実は税収増で、年度途中に補正予算を出すから、年度予算の改定になるため、税収のところだけ直さなくてはいけないのです。
税収増を見積もれば特例国債なしでも賄える ~歳入についての数字がデタラメ
高橋)税収増の項目を見ると、1710億円とされています。しかし、税収の改定でこんなに少ないはずがないのです。そもそも年度の名目経済成長率を4.4%で計算しているから、税収弾性値はすごく低く見積もっても、ギリギリで1.1なのです。そうすると4.8%伸びるから、これだけで5~6兆円にいくわけです。もう少し真面目にやれば、6~8兆円くらいの数字でもいいような話です。
飯田)なるほど。
高橋)一方で、特例国債(赤字国債)が6兆3650億円と書いてあるわけです。私がいま言ったように、普通に税収増を見積もれば、特例国債はなしなのですよね。
飯田)それで取れてしまうと。
高橋)なぜ、このようにするのでしょうか。歳出の話に関して、いろいろなものがあるのはいいですよ。しかし、それを賄う歳入の方はデタラメなのではないかと、正直言って思いましたね。ここまでデタラメだと、誰かが質問しなければおかしいです。
これまで法人税を払っていなかった企業が法人税を払うのだから税収が伸びるのは当然
飯田)税収弾性値の話がありましたが、いままではデフレもあって、あまり景気もよくならず、赤字企業が法人税を払っていないなど、いろいろありました。しかし、これだけ名目の成長があったということは 、GDPの成長以上に税収も伸びるのではないでしょうか?
高橋)税収弾性値1.1という数字も信用できないのですけれど。本当に測ると、2か3だと思います。
飯田)経済成長以上に税収は伸びる。
高橋)いま話があったように赤字企業など、0だったところが払うのだから、税収弾性値はすごく伸びるに決まっているではないですか。
飯田)いままで払っていなかったところが払えば。
高橋)結果、2か3だと思うけれど、そこは議論があるからさて置き、1710億円は少なすぎます。兆単位までいかないとおかしいですよね。つくっているのは財務省なのですが、こういう数字に対し、国会で誰がきちんと質問するのか見ていますよ。
税収が上振れしているはずなのに
飯田)確かに為替がこれだけ変わっていて、特に海外に資産を持っていたり、輸出企業などはかなり伸びているはずです。
高橋)そもそも為替値が円安になるとGDPが伸び、それだけで増収要因になりますから。財務省にいて為替が安くなれば、全体の税収が増えることはわかるはずです。見積もりとは言え、酷い計算だなと思いました。最終的には税収が増えると、国債の発行額が減るだけなのです。人畜無害と言えば人畜無害ですが、それにしても酷い計算です。
飯田)これだけ公債を増やすというのは、また「財政規律が大変だ」ということを言いたいのでしょうか?
高橋)「言いたいから」としか思えませんね。真面目な人の計算ではありません。桁が違います。
飯田)最近は毎年「税収が上振れした」という話が出ますよね。
高橋)上振れして大変なのでしょう? それなのに、これは何なのでしょうか。もう少し言うと、外為特会の益も繰り入れられますしね。
飯田)外為関係の特別会計には米国債などがあって、当然、円安になれば円での評価額は高くなる。
高橋)評価額のみならず、普通は3年債だから、50兆円くらいは償還が来るのですよ。
飯田)自然に償還期が来る。
高橋)普通ならロールオーバーするだけでも含み益が出るのです。3分の1の含み益を出したら、それだけでも10兆円以上です。
飯田)十分に補正を賄える。
約50兆円の「貯め込んだ財源」を国民に還元するべき
飯田)その辺りを探していくと、財源が……。
高橋)50兆円くらいはあるでしょう。
飯田)それだけで補正どころか、本予算も「半分くらい賄えるのではないか」という話になりますね。
高橋)できるでしょう。そんなに貯め込んでいても仕方ありません。早く国民に還元しなければ、経済が好循環になりませんよ。
飯田)岸田総理は「可処分所得を増やす」と言ってはいますが。
高橋)具体的な策としては、いま言ったように「貯め込んでいる部分を吐き出す」ことがいちばん簡単です。政府が貯め込んだ分を国民に吐き出せば、好循環になるのです。景気がよくなって賃上げもされ、税収も増える。そして、またそれを吐き出す。その循環をグルグルと回すのですよ。
飯田)そうすれば「規律が」と言っている国の財政も、よくなるのではないですか?
高橋)結果的によくなっていくので、なぜ、そういう単純な話をしないのだろうかと思います。
支持率が下がっていても緊張感が感じられない岸田総理
飯田)昨日(11月21日)は衆議院予算委員会で、自民党、公明党、立憲民主党の方々が質問していました。22日には国民民主党の玉木雄一郎さんが質問しますが、このような内容を聞きそうな感じがします。
高橋)いちばんしそうですね。野党は頑張って、みんなで質問したらよろしいと思います。
飯田)議論が深まり、中身が変わっていけばいいのですが、国会で中身は変わるのでしょうか?
高橋)なかなか変わらないでしょうね。「岸田総理が何をしたいか」によりますが。支持率が下がっているのに、本人は全然平気らしいのです。バイデン大統領から来年(2024年)早期に向け、国賓待遇で招待を受けたようですが、それで喜んでしまっています。招待されたので、「そこまでは大丈夫だな」と本人は思っているのでしょうね。
2024年春の「アメリカ公式訪問」と「予算案成立」を花道に「退陣」というストーリーも ~「退陣、新総理で解散総選挙」が自民党には好都合
飯田)2024年の本予算が成立したあと、3~4月くらいにアメリカから国賓待遇で招待を受けている。
高橋)逆に言うと、「それが花道かな」と思ってしまうくらいに支持率が下がっていますよね。「予算とアメリカ招待」を花道に退陣し、総裁選をするかどうかはわかりませんが、新総理になり、そこで解散総選挙を行うのが自民党にとってはありがたいでしょうね。
飯田)看板を変えてフレッシュな形にして、「支持率の高いうちに」と考える。
高橋)そうすると「年内の岸田下ろしはないな」と思っているのかな、と想像してしまいます。
飯田)さまざまな勉強会が立ち上がり、「閣僚なのに何をしているのか」と高市さんが批判されたりしています。結果的に高市さんの動きから、いろいろな候補が名乗りを上げるという動きにもなっていますね。
高橋)それはそうでしょうね。菅さんも「政策が届いていない」など、最近いろいろと言っています。
飯田)ネット番組などでいろいろと発言されています。
「税収増分は使用済み」と財務大臣に言われ、はしごを外された岸田総理 ~財務省が仕掛けた罠のようなもので主流派は容認
高橋)そういう非主流派の動きは必ず出てきます。でも、今回は主流派の方がやっていますからね。財務大臣に「還元する原資はない」と言われてしまった。税収増分を還元する話があったでしょう。あれは財務省が仕掛けた罠のような話です。要するに、岸田さんに関してはしごを外すことを、麻生さんなどの主流派は容認していますよね。主流派の人がはしごを外しているから、非主流派も「いいのね」という感じでやっていると思いますよ。
飯田)主流派と言いながら、一枚岩ではないのですか?
内閣支持率が下がり、自民党の支持率が下がっていないときが最も代えやすい
高橋)この支持率ではもう無理でしょう。「次が有利になるよう、早く挿げ替えたい」と考えているはずです。これだけ下がってから復活した人は記憶にありません。自民党の支持率が下がってきたら、収拾がつかなくなりますからね。
飯田)下野してはまずいので、「だったら代える」というような流れになっています。
高橋)自民党の支持率も下がりかけています。内閣支持率が下がり、自民党の支持率が下がっていないときが最も代えやすいのです。
飯田)いまはその状態ですか?
高橋)ギリギリです。危ないですね。内閣支持率が下がっているのは間違いありませんが、自民党の支持率も下がってきていますから、麻生さんのときと同じようになってしまうかも知れない。
飯田)2009年の政権交代のとき。
高橋)「野党が強くない」という理由だけで、いまは持っているのです。
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