「難しいタイミングだった」と言わざるを得ない「日本製鉄のUSスチール買収」 専門家が指摘

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが12月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米労組が反対する方針を明らかにした日本製鉄のUSスチール買収について解説した。

日本製鉄本社が入るビル前の看板=2023年12月18日 東京都千代田区 写真提供:共同通信社

日本製鉄本社が入るビル前の看板=2023年12月18日 東京都千代田区 写真提供:共同通信社

日本製鉄のUSスチール買収、全米鉄鋼労働組合が反対

日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収について、鉄鋼業など85万人の労働者が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)は12月18日、買収に反対する方針を明らかにした。USWは「従業員の懸念を押しのけ、外資系企業による買収を選択した。非常に失望した」とUSスチールを非難した。

飯田)労組からの反対もありますし、議会からも反発の声が出ているそうですね。

大統領選の激戦州であるペンシルベニアに本社を構えるUSスチール ~85万人の労働組合を敵に回すと選挙に勝てない

クラフト)完全に政争の具になってしまいましたね。同盟国である日本の企業が、先端技術でもない鉄鋼メーカーを買収しても、経済安全保障のリスクは少ないと思います。しかし、問題はUSスチールの本社がペンシルベニア州にあることです。

飯田)ペンシルベニア州に。

クラフト)ペンシルベニア州は米大統領選における最大の激戦州で、数千人の差で決まります。USWは85万人いるので、ここを敵に回すと、とても勝てません。さっそく共和党議員が反対を表明し、負けじとペンシルベニア州出身の民主党議員も「誰が反対を阻止できるか」で争っている。現状、本質の問題よりも大統領選の問題になっていると思います。

飯田)そうなると、「止めた者勝ち」になってしまいますか?

コストが高く、大統領選の1年前でタイミングが悪い

クラフト)その通りです。個人的には、日鉄が労働組合の強いアメリカ企業を買っても、本当に得があるのかなと思います。コストが非常に高いですから。なおかつタイミングが悪い。大統領選の1年前に発表すれば、当然こういうことになるので、もっと前か大統領選後にすべきだったと思います。政治が絡んでくると非常に難しい。審査などもいろいろあるので、1年棚上げされるかも知れませんね。

バイデン政権の本音は「結論を大統領選後まで持ち越したい」

飯田)議会関係者のなかでは、「対米外国投資委員会(CFIUS)による審査を求めるべきだ」という主張もあります。経済安全保障などの審査でしょうか?

クラフト)そうです。所管は財務省なのですが、イエレン長官にとっても厳しいのは、CFIUSの審査にかけて「問題ない」となった場合、「民主党政権が許した」と言われ、大統領選に負けてしまう可能性があることです。そういう意味で、「結論は大統領選後まで引き延ばしたい」というのが政権の本音だと思います。

経済の減速と米大統領選があり、難しいタイミングだったと言わざるを得ない

飯田)企業の経済活動が政治に影響してしまうのですね。

クラフト)本来あってはいけないのですが、どの国でもあることです。逆の立場であれば、日本でも同じような反発があったかも知れません。ただ、企業側もそこを考えて買収するタイミングを計ったり、あるいは完全な買収ではなく合弁などからスタートするべきでした。考えたのかも知れませんが、日本製鉄としてはまずい展開になっていると思いますね。

飯田)製鉄業で考えると、最近は中国系の企業がある意味の廉売を行い、「安い。鉄冷え」などと言って、売っても売っても赤字になるような状況がありましたね。

クラフト)さらに言うと、この先1~2年は景気減速のリスクもあるので、果たして需要がそこまであるのか心配です。

飯田)規模の経済を追い求めたのかも知れませんが、これで(生産能力が)世界第3位に上がるという話もあります。

クラフト)戦略の問題はあるでしょうけれど、とにかくタイミング的には経済の減速と米大統領選の問題があります。難しいタイミングだったと言わざるを得ないですね。

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