12月25日(月)、東北医科薬科大学 医学部 脳神経内科学教授・中島一郎氏が、ニッポン放送のラジオ特別番組「第49回ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」にゲスト出演。視神経・脳・脊髄といった中枢神経の病気『視神経脊髄炎スペクトラム障害・NMOSD』(以下、『NMOSD』)について症状や治療法などを解説し、再発予防や早期治療の必要性を伝えた。
『NMOSD』とは、どのような病気なのか?
視神経、脳、脊髄といった中枢神経の病気で、異常な免疫反応による炎症が神経組織にダメージを与え、「視力の低下」「手足の麻痺」などさまざまな症状が表れます。発症原因は不明です。現在の医療では根治療法のない稀少疾患で、指定難病に定められています。
細菌・ウイルス・腫瘍など異物を排除するための役割を持つ免疫系が、本来の働きをせず、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまう『自己免疫疾患』という病気があり、『NMOSD』もその1つです。
9割が女性で、30~40歳代で発症することが多いのですが、乳幼児から高齢者まで幅広い年代で発症することが知られています。1)
1)Hor, JY, et al. Neurology and Clin. Neuroscience. 2021; 9(4): 274-281.
どのような症状が起きるのか?
目を動かすと痛みを感じることがあり、視神経に炎症が生じると目が見えなくなることもあります。また、脊髄に炎症が生じると、手足が思うように動かなくなったり、つっぱったり、しびれたり、感覚が鈍くなったりします。「両脚に力が入らなくなって歩けなくなる」「尿が出なくなる」「便秘になる」といったことも起こります。
脳に炎症が生じると、意識障害がみられることがあります。何日もしゃっくりが続いたり、嘔吐が続いたりする場合は、『延髄』と呼ばれる部位に炎症があることを示しています。
『NMOSD』はさまざまな症状をもたらす病気である
中枢神経のあらゆる箇所でさまざまな程度の炎症が起きますので、症状や障害の程度は患者さんごとに異なります。
再発予防の治療をしなければ、平均して年に1~2回くらいの頻度で、炎症による症状が繰り返し起こってしまいます。再発によらない、比較的共通してみられる後遺症には、疲労と痛みがあります。
また、体温が上がったときや気温が高いときに、一時的に目が見えなくなったり、力が抜けたりすることがあります。これを『ウートフ現象』と呼びますが、体を冷やすことで回復します。
どのような検査をおこない、診断されるのか?
血液中の『アクアポリン4抗体』という抗体の有無を調べることで判断できます。数日から1週間くらいでどんどん悪化する神経の症状があって、血液中の『アクアポリン4抗体』が陽性であれば、『NMOSD』と確定診断できます。
ただ、中枢神経に炎症を起こす病気は『NMOSD』だけではありませんので、ほかの病気の可能性や合併している病気の有無を探るために、診断時には、画像検査や脳脊髄液検査などもおこないます。また、再発しているかどうかの判断は、主にMRIと呼ばれる画像検査でおこないます。
『NMOSD』は、どのように進行するのか?
『NMOSD』は、再発ごとに障害が蓄積していく病気です。逆に言えば、再発さえしなければ障害が進行することはありません。
炎症による神経のダメージは非常に大きいことが多いので、適切に治療をおこなったとしても後遺症が残りやすいです。何回も再発を繰り返すことで、失明したり、寝たきりになったりする患者さんも以前は珍しくありませんでしたが、現在は治療の選択肢も増えています。
どのように治療するのか?
炎症による症状が表れたときに施す治療を、『急性期治療』と呼びます。急性期治療においては、炎症を鎮めることが主な目的ですので、一刻も早く治療を開始することが必要になります。また、同時にリハビリテーションをおこなって、症状の回復に努める必要があります。
再発を防ぐために
急性期治療のあとは、次の再発を防ぐための『再発予防の治療』をおこないます。残念ながら『NMOSD』は完治することはなく、再発は80歳を過ぎてもみられることがありますので、生涯にわたる再発予防治療の継続が必要になります。
また、後遺症に対しておこなう治療は『対症療法』と呼びます。『NMOSD』では後遺症として、「視力障害」「痛み」「脱力」「つっぱり」「排尿障害」などが多くみられますが、これらの症状を軽減するための薬を処方したり、リハビリテーションを導入したりすることもあります。
現在、薬の副作用で悩んでいる方は遠慮なく主治医に相談いただき、必要に応じて、専門医のセカンドオピニオンを聞くなどしていただければと思います。
NMOSD』は早期に治療を開始することによって、重い障害が残るのを防ぐことが可能です。この番組を通じて1人でも多くの方に病気の存在を知っていただき、『NMOSD』の患者さんが救われる世の中になってくれれば、そんなに嬉しいことはありません。
(東北医科薬科大学 医学部 脳神経内科学教授・中島一郎)
記事監修:中外製薬株式会社
番組情報
ラジオ・チャリティ・ミュージックソン
番組HPニッポン放送「ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」は、“目の不自由な方へ音の出る信号機”を贈るためのチャリティキャンペーンで、毎年11/1~翌年1/31に展開しています。