4月17日は「世界血友病デー」 正しく知りたい「血友病」の事
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4月17日(土)の「世界血友病デー」に伴い、全国6か所のラジオ系列局において、各地の血友病治療をリードする専門医が普段なかなか聞く機会のない血友病について、正しく理解するため血友病はどのような疾患なのか、現在の治療法、また身近に血友病の方がいた場合にどのようなことを気にかければいいかなどを説明した。
このうちニッポン放送では、東京医科大学・臨床検査医学分野教授の天野景裕氏と実際に自身が血友病患者であるデジタルコンテンツクリエーターの鈴木幸一氏が、同日放送されたラジオ番組「サタデーミュージックバトル・天野ひろゆき・ルート930」(毎週土曜13時~)にゲスト出演した。
〇血友病とは
――(パーソナリティー・天野ひろゆき)血友病って、名前を聞いた事はあるけど詳しくは知らなかったんです。まずは、どんな病気なのか教えてもらえますか?
天野医師:誰もがケガをしたら血が出ますが、血友病という病気は、血を固めるために必要な「血液凝固因子」と言われる物質が、体の中で不足していたり、うまく働かなかったりするためにケガなどによって血が出た時に、血が止まりにくくなる病気です。
――ふつうは軽い怪我をしても、血が固まって出血を抑えますよね。
天野医師:体の中には、何種類もの「凝固因子」というものがあって、出血を起こした時には「止血」つまり、血を固める という働きを担っています。血友病には主に2つのタイプがあって、この血液凝固因子のうちの「第VIII因子(だいはちいんし)」が欠損、または機能が低下している場合を血友病Aと言います。もう一つは「第IX因子(だいきゅういんし)」が欠損または機能が低下している場合で血友病Bと言います。
――「凝固因子」と言うのはどういうものなんですか?
天野医師:血液凝固因子は全部で13番まであります。それらが、ドミノ倒しのように連続して反応していくことで血の固まりであるフィブリンというものを作ります。これらの凝固因子の中の、8番目や9番目がないのがそれぞれ血友病A、血友病Bなんです。ドミノ倒しの途中のドミノが抜けていたら、そこで倒れなくなってしまう。つまり、反応は止まってしまいますよね。それで、血が固まらなくなってしまう。そんな風にイメージしてくれると良いと思います。
――「血友病」の方は、現在日本には、どのくらいいるのでしょうか。
天野医師:血友病は、いわゆる「希少疾患」に分類される病気で、患者さんの数は多くはありません。令和元年度の全国調査では、日本人の血友病患者さんは6,596人(血友病Aで5,410人、血友病Bで1,186人)であることが報告されています。 血友病は、遺伝子が関わる生まれつきの病気で、ほとんどが男性に発症します。
また、あるとき突然、遺伝子の変異が起こることもあるため、家系に血友病の方がいなくても、血友病を発症する場合もあります。
――血が止まりにくいということは日常生活でいろいろと困ることがあるわけですよね。
天野医師:例えば、歯科治療で歯を抜くことがありますが、このような時に血友病の方は、もし何もしなければ一晩血が止まらなくなってしまったりするんです。
――それは内出血でも起きるんですか?
天野医師:そのイメージが出来るのはすごいですね。その通りです。出血と言うと血が体外に出る事を想像しがちですが、普段生活をしている中でも例えば地団駄を踏むとか、ちょっとぶつけたりすると関節の中とか目に見えない部位で出血を起こしている場合があるんです。特にこの「関節の中」でおこる出血が、血友病に特徴的な出血なんです。熱をもって腫れ上がったり、強い痛みを伴うこともあります。関節の中で繰り返し出血を起こすことで、関節の動きが悪くなってうごかしにくくなったりしてしまう事がありますので、そうならないように治療をしなければなりません。
〇血友病の治療
――血友病の方には、どのような治療が行われているのでしょうか。
天野医師:血友病の方は凝固因子と呼ばれる物質が不足しているので、一般的にはこの凝固因子を含んだお薬を注射で補充することが、血友病治療の基本となっています。昔は、出血したときにだけ注射、補充していましたが、最近では、出血する前に定期的に補充する予防的な治療法が主流となっています。この治療法を、「定期補充療法」と呼びます。
――体の中にない凝固因子を補充するという治療薬は、「血液製剤」というものなんですか?昔のニュースのイメージでちょっと怖いというのもあるんですが。
天野医師:人の血液の中にある凝固因子を補充するということなので、人の血液を原料として開発されてきました。そして、とても残念なことですが、以前は、エイズウイルスやC型肝炎ウイルスが、この原料に混じってしまうことがありました。それが薬害として、社会的に大きな問題となった背景がありました。しかし、技術の進歩で現在使われている治療薬では、HIV感染やC型肝炎ウイルスに感染した報告はないと思います。「怖いというイメージ」のものではなくなっていると考えてもらった方がよいですね 。
――「定期補充療法」を早い時期から行うとどんなメリットがあるのでしょうか。
天野医師:血友病の方が関節内の出血を繰り返すことで関節が悪くなってしまうことがあります。生活の質を大きく低下させるため、そうなる前から定期補充療法を行うことで、一般の人と変わらない生活が送れることが期待されています。定期的に注射をするのは大変ですが、きちんと注射をしていれば仕事も続けられますし、運動や旅行も楽しめるようになってきています。また、自分で注射を打つ「自己注射」も認められていたり、注射をする間隔が長くなるといった、新たな治療薬も開発されていますので、患者さんにとっては治療の選択肢が増えてきています。
〇血友病と向き合いながら
――今日は、もうお一方ゲストをお招きしました。実際に血友病と向き合いながらデジタルコンテンツクリエイターとして活躍される鈴木幸一さんです。実は鈴木さんの主治医が天野先生。お2人は鈴木さんが小学生の頃からの長いお付き合いだそうです。血友病と向き合いながらの生活というのはどんな日常なんでしょうか?
鈴木:昔は血友病患者は筋トレもストレッチもダメ。なるべく安静にしていなくちゃいけないとされていたんですね。自分自身も何をしても「これをしたら出血するんじゃないかな?」という恐怖心が常にあったんですよ。でも最近では技術が進歩して治療法が変わって、「きちんと注射(治療)しているから多分大丈夫だろう」と思えるようになった。これが一番大きいですね。
天野医師:「これをやってはいけません」と言う概念から、「これをするためにはどうすればいいか」と考えるように変化したんですね。
――制約するのではなく開放するようにシフトしているわけですね。それは嬉しいし心強いですね。もしも自分の周りに血友病の方がいたら、どんな事を気を付ければいいでしょうか。
天野医師:血友病だからといって特別扱いはしなくてよいと考えています。治療をしていれば一般の人と基本的には変わらない生活を送っている方もいらっしゃいます。ただ、例えば運動をしてる時は気にかけてあげる位の事をして頂ければと思います。
――最後に、お二人の今後の夢を聞かせてください。
鈴木:血友病とずっと一緒だったからこそ得たものって沢山あると思うんです。病院に通ってなかったらそこで先生にパソコンの事を教えてもらえなかったし、天野先生と出会ってこの人柄に出会えなかったらクリエイターになろうとは思わなかった。こういう出会いがあったからこそ今の自分がいるので、これからも血友病で良かったと思えるような出会いやチャンス、そしてクリエイテイブなものをつくっていけたらと思っています。
天野医師:世界ではまだまだ血友病の治療や診断が進んでない国も多くあるので、そういう人たちの為に仕事が出来ればなと思います。
「血友病」「血が止まらない」と聞くと身構えてしまうかもしれない。過去の「血液製剤」のニュースの先入観が未だに残っていたかもしれない。しかし今、医学の進歩によって血友病はコントロールが可能になり、やみくもに恐れるような病気ではなくなっている。しっかりと治療をおこなっていれば、「普通の生活」を送ることができるようになってきた。そんな「血友病の今」を広く知る事で、世界は更に優しく豊かになっていくのではないだろうか。
記事監修:中外製薬株式会社
血友病情報サイト「Smile-On」:https://smile-on.jp/(中外製薬株式会社 提供)
番組情報
土曜日の午後にお届けする「サタデーミュージックバトル 天野ひろゆき ルート930」。午後1時から3時までの前半2時間は毎回2組のゲストが、クイズバトルに挑戦! クイズに正解した方のリクエスト曲がかかるミュージックバトルです。そして、午後3時からは、旬なアーティストをお迎えして最新の音楽シーンをお届けしていきます。
<アシスタント>宮島咲良