外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が2月9日、ニッポン放送「小永井一歩のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ軍の総司令官の解任について解説した。
ゼレンスキー大統領がウクライナ軍の総司令官を解任
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月8日、軍のザルジニー総司令官の解任を発表した。ザルジニー氏は戦況の認識などをめぐってゼレンスキー大統領と意見が対立するなど、確執が囁かれていた。
小永井)国民からも非常に人気が高かったそうです。
宮家)彼らは実際に戦争しているわけです。政治家でも軍人でも「結果を出してなんぼ」です。だから、彼らも結果を出さなくてはダメなのです。でも、戦争の真っ最中に大統領を代えることはできません。おそらく軍のトップが結果責任を負わなくてはいけないような状況になっていたのでしょう。これがまず背景としてあります。
小永井)解任に至るまでに。
宮家)報道によると、ゼレンスキー大統領が大胆な軍事作戦を望んだのに対し、ザルジニー総司令官はより慎重な姿勢を取ったそうです。当然です。なぜなら軍人は最初に死ぬのですから、最も慎重になる。積極的になるのは政治家や文民の方です。
軍の総司令官とゼレンスキー大統領の対立はロシアの思うつぼ
宮家)軍トップであるザルジニーさんからすれば、大統領が「行け」と言ったとしても、武器も弾薬もないし、「相手はロシアだ」となるわけです。「そんな簡単には行けません」という状況があった。でも、本当に問題なのは北大西洋条約機構(NATO)ですよ。
小永井)NATO。
宮家)ロシアは核兵器を持っているので、あまり刺激すると本当に暴発してしまう。一方、アメリカもウクライナに対する武器供与などには限界があります。戦力の逐次投入では、戦争は負けるので、本当は戦力を一気に投入したいのだけれど、ロシアがどう反応するかわからないから、怖いので少しずつ進めていた。ウクライナ軍の司令官としては、西側が望むような反転攻勢するのであれば「もっと精密誘導兵器や砲弾、戦闘機が欲しい」となります。「制空権なしでどうやって戦うのか」という感じなので、政治指導者と軍のトップが対立するのは当たり前です。ある程度、この2人には確執があったのかも知れないし、結果責任を軍人が取るのは仕方がないとしても、このままだとロシアの思うつぼですよね。
ウクライナなどへの軍事支援法案がトランプ前大統領の影響で否決
宮家)本来ならば、アメリカがしっかりとイスラエルや台湾、ウクライナに軍事援助をしなくてはいけない。しかし、その法案がつい最近もトランプさんに妨害されて米議会を通らなかったではないですか。
小永井)共和党の反対は、明らかにトランプ氏の影響力があるということですか?
宮家)トランプさんが画策したと言われています。だとしたら、トランプさんは苦しいウクライナを見捨てるのか。彼は見捨てるとは言っていないけれど、「1日で解決する」とは言ったわけです。でも、それって、見捨てるということではないですか。ゼレンスキーさんは「冗談ではない」と思っているでしょうね。
小永井)関係者によると、この確執は戦争が始まって数ヵ月の時期からあったそうです。
宮家)政治と軍は常にそういう関係になります。特に最初の数ヵ月はウクライナ軍が命がけで何とかロシアの侵攻を食い止めていた時期ですから。あんなに難しい状況のもとで、武器も弾薬もなく「どうやって戦うのか」となれば、意見の違いが表面化するのは当然だと思います。どっちが良い悪いとは、私には言えません。
NATOはもっと軍事支援を行うべき
小永井)ウクライナ支援となると、どうしてもアメリカ大統領選挙が気になります。トランプ氏になった場合は……。
宮家)アメリカはトランプさんが出てくるかも知れない。出てきたら、もう、仕方がないのです。しかし、問題はNATOです。ウクライナが負けていちばん困るのはヨーロッパ、特に東ヨーロッパなのですから、NATOはもっと結束するべきだと思います。トランプ政権のアメリカが軍事支援を行わないのであれば、NATOが「もっと出す」と言ってもおかしくないのですが、まだそういう声は出ていません。
トランプ氏再選の場合、どうなるのか
小永井)欧州連合(EU)は4年間で8兆円規模の支援を行うことで合意しました。フランスのマクロン大統領は、アメリカの軍事支援停止や削減が決まった場合でも、ヨーロッパ各国はウクライナ支援を継続すべきだと訴えています。
宮家)8兆円では足りません。4年も戦えない。フランスは常にうまく立ち回ろうとしますが、フランス以上に重要なことは、ドイツが本気でやるかどうかです。ドイツとロシアの関係等々、いろいろ複雑なヨーロッパの国際政治が、今年(2024年)はこれから動いていくと思います。特にトランプ氏が再選したら大変な騒ぎになるでしょう。
小永井)中東情勢も含めて。
宮家)ヨーロッパも中東も混乱したら、「アジアはどうなるのか」というのが今の私の最大の悩みです。
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